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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
非遵法性享楽主義者ノ人生論

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01

 現在、私はバーを経営している。


 昔から店を持つのが夢だったとか、食いつなぐために始めた仕事が天職だったとかではない。趣味と実益を兼ねてのもの。上手くいかなかったらすぐに畳むつもりで、店を構える地域も、こだわりもなく選んだのだ。


 だからオープン一日目にして、


「あら、もしかしてタマじゃない?」


 とっくに切れていたはずの縁が、目の前に転がっていたことには驚いた。


 幼き頃から一度も教室を違わなかった昔馴染み。この仲は親友や竹馬の友なんかではない。なにせ後ろ暗さに満ちた青春を、共に駆け抜け、分かち合ってきたわけではないのだから。


 かといって、向こうはお利口さんの善人なんかではない。罪に対しての罰を厭うて、余計なリスクを背負わないように生きてきただけ。


 責任回避のためならば、人を陥れることを躊躇わぬろくでなし。保身に走ることに関しては、他の追随を許さないと自認しているほどだ。


 だから、そんな責任が大嫌いなろくでもない男が、


「自宅警備員を雇用することになった。しかも巨乳JK美少女だ」


 そんな面白すぎるリスクを背負ったなんて、あのときは死ぬほど笑った。


 流石、人を死に追い込んでおいて、ざまぁ見やがれと笑った男なだけある。やればできる奴なのは、昔からよく知っていたのだ。




     ◆




 私はひとでなしだ。


 人殺し以外は大体の犯罪はやってきた。なんて犯罪自慢を、武勇伝のように語るつもりはない。糧と楽しみを得るために人一倍努力するのは、なんの自慢にもならないからだ。


 社会のルールを破るのは価値がある。何百何千時間もの間、額に汗をかかなければ手に入らないようなものが、簡単に手にすることができるからだ。


 遵法精神を持ち出し、罪の意識はないのかという説教にはこう答えよう。


 罪の意識はもちろんある。なにせ表沙汰になれば罰がくだる。罰を避けるためにも、気を配っているつもりだ。


 社会的善悪を持ち出し、罪悪感はないのかと責められようものなら、大きく頷こう。


 罪の意識に苛まられる、という意味での罪悪感はない。そんなつまらないものに悩むなら、始めからやるわけないだろう。


 だからといって、遵法精神と社会的善悪がこの世からなくなればいい、なんて考えの持ち主ではない。バカ正直にそれを守っている者たちがいるからこそ、ルール破りの蜜が生み出されているのだ。象牙の密猟を生業としている者だって、象に絶滅されては困るだろう。


 ルールという囲いに守られた、社会の天然資源。私はその密猟者というところだ。


 幼き頃から法律を、道徳を、倫理を破り続けてきた。一度も罰を受けることなく、今日まで生きてこれたのは、ルール破りの才能があったからではない。人一倍頭が良かった以上に、度胸があっただけだ。


 たった十円の物から始まった万引きが、小学生を終える頃には万単位のものは当たり前。高校へ上がる前には、現金化する術を身に着けていた。顔と口先で引っ掛けることで始まった遊びから、お金を引き出す方法を編み出した。


 果てには組織化し、集金システムの構築に成功。地元ヤクザに目をつけられるも、そのまま目をかけてもらう仲へと至り、更なる利益と縁を手にする環境を手にしたのだ。


 地元では散々の悪事を、楽しみながら重ねてきた。


 楽しくはあるも、決してそれは遊びではない。事業を発展、拡大させるつもりで行ってきただけ。


 高卒後は、悪い繋がりから得た縁を頼りに、東南アジアへと飛んだ。新たな楽しみと事業拡大を求めてのことである。


 日本人旅行客を掴まえて、普通では体験できないようなサービスを提供する。楽しい旅の記録を残すことで、帰国後のお客様から利益を生み出すのだ。


 営業に励む中で、学んだことがある。


 第一印象とはまさに見たままの姿。身なりと清潔感は同じでも、外見の美醜一つで大きく変わってくる。


 私の営業相手はもっぱら男である。この姿がもし美男子ではなく、美女であったなら。どれだけ仕事が捗るだろうか。


 かくして私は、美男子より美女へと生まれ変わった。


 思った通り、仕事は捗った。


 お金を膨らませ、綺麗に洗い、投資し、ついには独立して、真っ当な観光事業を興すまでに至った。それ自体の利益率はよろしくないが、そこは裏オプションで稼いでいる。


 人を食い物にしているそんな私だが、特別な人間かと問われればかぶりを振る。


 ジャーナリズムの名のもとに、加害者どころか被害者すら追いかけ回す報道陣。


 ノルマのために、物知らぬ相手に不要な物を売りつけるセールスマン。


 社員をいかに安くこき使うかを考えている経営者もそう。


 この世には道徳と倫理を外れ、人を食い物にしている者たちが多すぎるのだ。


 彼らと私の違いは、法律を破っているか否か。そこが大きな違いなのだろうが、それ以外はあまり変わらないと自認している。


 社会が示す模範的な悪人であり、その自覚も十分にある。そんな私から見て、彼らはタチが悪いと思わざるえない。なにせ人を食い物にしておいて、無辜の民を装い善人ぶっている。法を破らなければなにをしても許されると、大手を振って光のもとを歩いているのだ。


 その手のタチの悪い人間は、近年SNSを介してよく私刑にあっている。だがその私刑は基本的には法を破っており、それを許されるものだと正義感ぶっているのもまた、すごいものだと感心すらしている。まさに赤横断、皆で渡れば怖くない。


 だからこそ私は思う。


 遵法精神や社会的善悪なんてもの、くだらなすぎて語る価値がない。


 罪が表沙汰になれば罰がくだる。生きていく上でこれだけを覚えていれば十分だ。


 私は有能な事業主であっても、特別な人間なんかではない。どこにでもいる人を食い物にして、いい思いをしている人でなしというだけだ。


 事業もシステム化し、安定したところで帰国した。


 これといって目的があったわけではない。時間もできたので生まれた国へ、一度帰ってみるかと考えただけ。


 久しぶりの日本。けれど大人になってから初めての母国。


 向こうの暮らしに慣れきったことによるギャップ、不自由さばかりが目についた。とにかくどこへ行ってもルール、ルール、ルール、ルール。法律だけではないルールが蔓延り、ルールによって人々が雁字搦めなのだ。


 母国であるにも関わらず嫌になった。むしろこんな国で生まれ育ったのかと頭すら痛めたほど。


 すぐに向こうへと戻ろう。そう思ったとき、首を傾げてしまったのだ。


 向こうへ帰ったところで、どんな楽しいことが待っているのか。


 ギャンブルも薬も元からやらない。ブランドで身を固める物欲もない。皆が言う贅沢な暮らしだけならこの国でも賄える。それにも飽いたから、母国に新しい楽しみを求めてきたのだ。


 人よりいい思いをするために、悪いことばかりやってきた。いつしかそれが、仕事に身を費やす中で、人よりいい暮らしをしているだけになっていた。


 ふと立ち止まり、振り返ったとき、なにが楽しくて生きているのだろうかと疑問を覚えてしまった。


 ただの無趣味な仕事人間。仕事をやらなくてもいいとなった瞬間、なにがしたいのか、なにをすればいいのかわからなくなってしまった。


 高校まではもっと、人生を楽しんでいたような気もするが。


 そんなとき脳裏によぎったのは、とある男と缶ビールを交わした思い出。先日嗜んだ数十万のワインの味はもう忘れたが、あのときの安い美酒は鮮明に覚えている。


 過去に戻りたいわけではないが、無性に懐かしさを覚えたのだ。


 悪いことばかりをしながら作ってきた沢山の縁。そんな縁ともおかしく飲んではきたが、気の置けぬ付き合いをしてきたわけではない。あの思い出と比べれば、あのときは楽しかったと懐かしさに浸れるものではなかった。


 親友と呼べるほどの相手はいない。けれど友人と呼べる相手は、一人くらいならいたかもしれない。


 私もいい大人だ。今になって真の友情なんてものを欲していないし、手に入るものだとも思っていない。けれど人生を豊かにする方法に、新たな試みを取り入れてみよう、という柔軟性くらいは持ち合わせていた。


 あちこちへと動き回っていく中で、関わっていく人たち。相手を食い物として見るのではなく、一人の人間として接してみたのだ。


 結果として、これが人生の転換期となった。


 多動で多感な少年少女を相手にしたときの話だ。


 そんな些細なことを、よくもそこまで深刻に捉えられるな、みたいな年頃の悩み。ちょっと考えればわかるだろ、のような問題をばかりを抱えている。


 呆れながらも指摘や助言をしたら、彼らの目からは鱗が落ちるのだ。


 まさかそんな考え方、価値観があるのかと。彼らは視野狭窄に陥り、迷っていたのではない。抜け出すための鍵を持ち合わせていなかったのだ。


 この程度のこと、本当に知らなかったのかと驚かされた。


 そうやっていく内のある日のこと、安い美酒を飲んだときの思い出が蘇った。


『ならあいつを追い込んだのは、この程度のことで逃げ場がない。死ぬしかないと信じ込ませた親と社会だ』


 人を死に追い込んでおいて、ざまぁみやがれと笑った男の言葉だ。


 改めてあのときの言葉が胸に落ちた。この程度の価値観も、彼らは与えて貰っていなかったのだと。


 結果的に彼らを導いた私は慕われるようになった。それを悪くないと感じたのだから、そんな自分に驚いた。


 善行を積みたいと思ったわけではない。


 尊敬の念を集めたいと考えたわけでもない。


 彼らを導いてやろうと偉ぶっているわけでもない。


 ちょっと話を聞いて、彼らの持たぬ価値観を与えるだけ。それで変わるかどうかは彼ら次第。背中を押して欲しそうであれば、責任は取らぬが押してやる。


 子供とは言えぬが、大人とも言えぬ年の頃。自らの足で動くことを許された彼らの心は、実に柔軟性に富んでいる。エネルギーに溢れ、新たなものをどんどん取り入れ、新たな価値観を飲み込まんとする。そうして短期間で成長を遂げていくのだ。


 一方、歳を重ねた大人ほど、新たな価値観を飲み込めない。受け入れない。果てにはあってはいけないものだと断ずる。どこかで聞いたような言葉を、さも自らが生み出した世界の真理として説く始末だ。


 若者だったら若いで済むが、歳を重ねた者がやればみっともないだけ。自覚がないのだから、なおさらタチが悪い。


 そして、また一つ思い出す、


『ガミ、俺は将来、あんな大人にだけはならんぞ』


『あんなって、どんなだよ』


『自覚のないタチの悪い大人にだ』


 あれは基本、尊大な話を引っ張り出すが、その実、中身がペラペラな話をすることが多い。だがあのときばかりは、言っていることは間違えていなかった。その中身もしっかりあったのだ。


 自覚のない大人ほどタチの悪いものはない。


 だから歳を重ねただけの自分語りほど、つまらない話はないのだ。


 人の数だけ物語(じんせい)がある。似たような話であれど、新たな価値観さえ飲み込めば、その先は多様性に満ちていた。


 いつしか私は、モラトリアム少年少女たちの話に、楽しみを見出すようになったのだ。


 歳は兄弟くらいにしか離れていないが、私は悪いことばかりしてきた。褒められたことでなくとも、彼らと比べれば人生経験値は高い自負もある。


 悪い道へと引き込むつもりはない。ただ私は、知っているものを与えるだけ。それをどう扱うかは彼ら次第。それでレールだけではなくルールから外れ、落ちていくかもしれないが、そこは自己責任だ。


 果実を食べても死なないぞと唆す、悪い(おとな)としての自覚はある。だが人でなしであっても、自覚のないタチの悪い大人ではないつもりだ。


 バーを始めてみようと思ったのは、そんなときである。


 お酒を提供しながら、人の話を聞く仕事。向こうにいる間は、営業だけではなくそういったこともやってきた。上手く行かなければいつでも辞めればいい。趣味を始めるくらいの気持ちでやればいい。


 気に入らない奴がいれば唆し、ツアーに案内する。旅の思い出から利益を生めるのだし、一石二鳥かもしれない。


 思い立ったら吉日。縁を頼りに適当な居抜き物件を見つけ、すぐに開店準備を進めた。広告などを打つつもりはなかった。帰国してから出会った人たちにまず、よければ来てくれと連絡を入れただけ。どうせこの商売で得たいのは、食べるためのお金ではなく、人生を豊かにする糧である。閑古鳥でも一向に構わなかった。


 三ヶ月だけまずはやってみるかという程度の意気込みだ。


 そうして何事もなく、坦々とオープン当日を迎えたのだが、頭にあったのは店の行く末ではなかった。


 懐かしい友人の顔だ。


 あれとの思い出が蘇らなければ、私はここまで動かなかっただろう。もしかすると未だになにをすればいいのか、呆然としていたかもしれない。


 まさかこんな形で、あの男から影響を受ける日が来るとは。


 人生なにが起こるかわからない。そしてだから人生は面白いのかもしれない。


 無性に懐かしく感じたが、あの男の連絡先はわからない。高卒後、東京に飛んだのは知ってはいたが、縁はすっかり途切れてしまっていた。


 この大都会にいるのか。はたまた、また別の地に旅立ったか。あの世に旅立った可能性も否めない。


 その内、探してみるのもありかもしれない。


 そう考えた五分後。


「あら、もしかしてタマじゃない?」 


 まさかバッタリ道端で再会するとは、この腐れ縁には驚かされたものだ。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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『センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?』書籍版、発売中!
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― 新着の感想 ―
[一言] つまりクルミちゃんへの最後のアドバイスも面白がって言ったわけだなガミさん。悪い大人や
[一言] 一つの物語をいくつもの視点から覗くことで、その視点の持ち主の考え方も知れて、それによる見え方の違いも知れて、その物語がよりたのしめるようになるのだ…
[良い点] ガミからタマへの矢印が想像以上にデカくて…… これは良き…… 別に矢印は恋愛云々だけのものじゃないんだよ……こういう、色んな含みを持たせた上で分類するなら友情みたいな関係性もとてもいいんだ…
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