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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
盲目性偏執狂ノ傾慕

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14

 一年以上も続いた恋は、想いを告げる前に終わりを告げた。


 堕ちるときは一緒だぞ。


 それを直接に口にして、差し出すほどの相手がタマさんにはいたのだ。


 わたしの恋は端から叶わないもの。それを思い知らされて、心が折れて諦めてしまったのだ。


 かといって、キッパリ心が切り替わるものではない。


 なにせ一年以上も恋をし続けてきたのだ。タマさんのことはしっかり引きずり続け、新たな恋を探すかという気分にはなれない。お試し彼氏はすぐに作れはするが、気持ちは落ち着くまでは控えることにした。


 潰えたこの恋。


 タマさんの顔を思い出しては、毎晩涙を濡らす日々。ということはなく、悶々とした思いだけを抱え込んでいた。


『人を死に追い込んでおいて、ざまぁ見やがれって笑っているような男なのよ』


 あの日、マスターに告げられたタマさんの人間性。


 過去になにがあったかまでは教えてもらえなかった。それでもわたしを諦めさせるための嘘ではなく、本当にあった真実であることは確かだろう。


 批判、糾弾を恐れて、誰もが胸に秘めたまま人間の本音。小綺麗な飾りをしなければ許されない社会に対して、タマさんは歯に衣着せずズバズバと言うのだ。


 人間の本性は結局こんなものだと。性善説を信じる者たちが悶死するような発言を繰り返してきた。


 人によっては不快になるだろうが、わたしはそうなることはなかった。


 人間の本音、本性を口にせずにして、語れないものはこの世には沢山ある。誰もが目を背けている事実を、高らかに掲げながら面白おかしく語ってくれるのだ。


 わたしにとって、そんな話の数々はどれも新鮮で、面白くもあり興味深かった。いつしかそれを、もっともっと求めるように酔いしれていた。


 まさにマスターに、おまえは酔っていただけだと突きつけられたのだ。


 タマさんはまともな人ではない。


 非の打ちどころがないろくでもない男。


 恋の遍歴、黒歴史を束ねても敵わないほどの大人だと。


 その実感がまるで湧かない。


 けれどマスターが突きつけてくれた事実もまた、無視できぬもの。


 だからタマさんへの好意は以前変わらずとも、枕を濡らすのではなく悶々としてしまうのだ。


 マスターのお店にはあれ以来行っていない。


 ならばと椛に泣きつきたいところであるが、楓ちゃんの件もある。わたしの恋なんかより、泣き出したくなる重たいものを抱えていた。


 椛を真似するように、わたしもまた気丈に振る舞っている。


 大体週に一度、ご飯を共にし、身の回りにあった差し当たりない話だけをしながら、椛とは過ごしていた。


 大学生活も変わらず。


 クリスマスを前にしたこともあり、聖夜のご褒美を求めて誘われる日々だ。それら全てを袖にした先で、大学の交友関係からもたらされた、クリスマスパーティーのお誘いを受けた。


 キラキラ華の大学キャンパスライフ。その青春を楽しむ以上に、気を紛らすようなイベントを望んだのだ。なにせその日の二十一時から、次の日の三時にまでかけて、想いを断ち切れぬ男性が聖夜を楽しむのだ。一人部屋にいようものなら、今度こそ泣き出してしまうだろう。


 当日のクリスマスは、無闇に楽しみながら、無事乗り越えることができた。


 語ることは多くない。ただ楽しいだけのパーティーだ。しいていうのであれば、疎遠となっていた姉御と再会し、交友を取り戻せたくらいか。もう男は懲り懲りだ、と言った先に注がれたその視線。どこか怪しいものを感じたのは、気のせいだろうか。気のせいにしたいところだ。


 目が覚めるとそこは知らない部屋。生まれたままの姿で、隣には知らない男性が眠っている。記憶がなくなってからのわたしは、一体なにをしていたんだ。


 ということはない。


 一人自分の部屋、ベッドで目覚め、タクシーで帰ってきた記憶も残っている。少々飲みすぎたこともあり二日酔い気味であるが、大学生としては健全な類であろう。


 お水を求め、シャワーを浴び、ようやく一息ついたところでスマホを手に取った。


 四件のメッセージが届いていた。


 椛である。


 昨晩の二十一時頃のもののようで、マナーモードにしていたこともあり気づかなかったのだ。


 着信履歴もないし、大した要件ではないだろうと開くと、


「嘘っ……!」


 誰もいない部屋で一人叫んでしまった。


 そこに書かれていた一文は、それほどまでの威力を放ったのだ。


『楓を見つけた』


 一年以上も行方不明になっていた楓ちゃんが、ついに見つけたというものである。


 一切の足取りを掴ませず、行き先のヒントになるものを残さなかった。最早生死の安否が一番心配になっていたのだ。


 そんな楓ちゃんがついに見つかった。


 けれど安堵の息が出ることはない。その続きがあったからだ。


『男と歩いてた』


『楓が』


『私を見て逃げた』


 声をそのまま失った。


 生きていたのはそれだけで嬉しいが、男と歩いていたという一文は、この胸を抉るに十分すぎた。


 わかってはいたのだ。


 楓ちゃんのような子供が、家出をした先でどう居場所を作るのか。どうやってそれを維持するのか。なにを対価にしているのか。


 椛に似た妹なのだ。誰もが喜んで、対価を求めその手を差し述べるだろう。


 社交性がゼロに近い女の子が、姉に助けを求めず、そんな手段で他に助けを求めた。


 一人の男の家に留まっているのか。はたまた渡り歩いているのかはわからない。


 それでも椛の顔を見て逃げ出したということは、家に戻るより、今の生活を本人が望んでいるということだ。


 それがどれだけ椛にショックを与えたか。


『だからね、お友達が考えなければいけない心配は、生きているか死んでいるか。綺麗だとか、汚れているとかだけじゃないわ』


 ふと、かつてのマスターの言葉を思い出した。


『どちらにせよお友達は、辛い想いをすることになるわよ』


 まさにその心配が、現実になっていたのだ。


 現代のマナーなんて知ったことではないと、すぐに椛へ電話をかけた。


 繋がらない。


 かつてのように不用心に部屋を飛び出した。


 階段を駆け上がり、真上の部屋のチャイムを鳴らすも誰も出ない。鍵はかつてと違い、しっかりとかかっていた。


 そこに鍵を刺して、くるりと解錠した。椛になにかあったときが心配だから、部屋の鍵を預かっていたのだ。


 靴を揃える、なんてマナーもやはり守らない。脱ぎ散らかしながらリビングへ駆け込むと、まずはホッと息をついた。


 ソファーの上に椛が眠っていたからだ。


 椛の昨日の予定はわたしと変わらない。大学の交友関係からのクリスマスパーティーだ。わたしが参加したものより落ち着いた、知的な集まりかもしれない。


 帰ってきてから、そのまま着替えなかったのだろう。コートだけがその辺に脱ぎ散らかされていた。


 楓ちゃんを見つけて、男と歩いており、そして逃げられた。


 その悲哀からなにも手がつかなかった。


 机の上や周囲に転がっている物が、そうではないと示していた。


 何本もの鉛筆や消しゴム、鉛筆削りやカッターナイフ、羽ぼうき。その他、わたしでは正式名称がわからないような道具の数々。


 自らに融通がきかない椛とはいえ、勉強一筋な無趣味というわけではない。


 鉛筆画。それを昔から趣味として続けてきており、その腕前はかなりのものである。それこそ中高時代では、人気者の椛に描いて貰えるのが一つのステータスになるほどの。


 本人いわく、幼い頃の夢は画家だった。けれど父親の背中を見て、子供心に許して貰えないのはわかっていたとのこと。時間も有限。道具の準備や後片付けを考えて、気軽に描ける鉛筆画が一番性に合ったらしい。


 絵を描いているときは無心になれる。その時間がなにより好きなのだと語っていた。


 昨晩受けたショックの現実逃避として、なにか絵でも描いたのだろうか。


 そんなことはありえない。椛の性格はよく知っている。


 なぜ、絵を描いたのか。すぐにその答えは頭の中にはじき出していた。


 テーブルに上がったままの、画板に載ったA4紙。


 徹夜で描きあげたであろう椛の作品。


 床に散らばったくしゃくしゃにされた紙や、削りカスなどを踏みつけながらも、わたしはそれを覗き込んだ。


「嘘……」


 本日二度目に吐き出した言葉。


 今度は叫声となることなく、目を丸くしながらぽつんと漏らした。


 五度目にしてわたしは、道徳、倫理、そして法律。どれにも外れない、まともな恋を手にしたと信じてきた。


 けれどそれは違うと断じられた。


 今回の恋は、かつての黒歴史が纏めてかかっても敵わないもの。だから恋が叶わずに良かったとすら諭された。


 非の付けどころがない、ろくでもない男。


「タマ、さん?」


 恋は盲目。


 そんな盲人の目にも映る現実が、形として差し出されたのであった。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
すーっ… あれ?もうそういうことしちゃってるだろうからこれ言い逃れしようがない…? まあいっか! さてようやっと話が少し進んだぞー
[良い点] 面白いです マスターが予想以上でした
[一言] 状況的には古来から恋愛ものでよくある、とある4文字で表せそうな状況になってきていますね。 さて、これで住処も姉にバレてしまうわけですが、どこまで行き着いてしまうのか? 楽しみにしています。
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