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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
真面目系屑ノ自虐的防衛理論   第一部

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04

 レナは呆然とした。


 憩いの場であるリビングに招かれ、真っ先に目に入ったそれ。


 祭壇だ。


 通販で買った三段式のかぶせ付き。リビングの隅に設置されているそれを除くと、まさにこの空間はがらんどうであった。


 カルト宗教に毒されたかのようなその空間。しかしその祭壇に宗教色はゼロ。


 供えられているのは器に入った日本酒ではなく、四リットルボトルのウイスキーがドン。大家からの貢物であるハムセットも、これまた箱ごとボン。果てには偶像崇拝のごとく、かつてドップリはまったエロゲの、人気投票不動の一位キャラのフィギュアが鎮座していた。


 まさに坊主が裸足で逃げ出す惨状である。


「仮にもここはホラーハウスだからな。なにも手を打たず、のうのうと過ごしてきたわけじゃない」


 この有様は一体何事なのかと、こちらを見上げてくるレナにそう答えを差し出した。


「この家が今日まで積み上げてきた、華々しい経歴と輝かしい戦歴。それがあったからこそ、俺はこの環境を享受できた。なら示すべきは敬意と感謝だ」


「で、でも……だ、大、丈夫……なん、ですか?」


 大丈夫とは、祭壇の有り方についてだろう。


「どうせお祓いにきた坊主が、救急車経由霊柩車逝きになってるからな。形に拘るなんて無駄だ、無駄。やっぱり人間、大事なのは気持ち。敬い尊ぶ気持ちを大事にすれば、この家は守り神にすらなってくれる」


 実際、テレビがあるだろこの家は、としつこい輩を追い払ってくれた。霊感ゼロの俺にはわからないが、どうやら俺の背になにかを見たようだ。


 俺の言葉を体現するように、その場でレナは両手を合わせた。そこまでする必要などないのだが、レナなりの敬い尊ぶ気持ちをこの家へと示したようだ。


「まあ、とりあえずは座ってくれ」


 リビングを素通りし、辿り着いたマイルーム。


 パソコンチェアに手を差し向け、自分はベッドへと腰掛ける。巨乳JK美少女の尻に敷かれたベッドに寝るのも惜しかったが、そこは大人の余裕で自重した。


 仰々しく身を縮こませながら、レナはちょこんとそれへと腰下ろす。そのまま顔を少し俯向け、上目遣いでこちらを伺ってくる。


 レナの舌の回りが悪いのは、大人に対する恐縮ではない。ただただ絶望的にコミュ障なのだ。この短い間でそれはよくわかった。


「あの……その……」


 いつまでも口を開かぬ俺に、レナは居心地が悪そうにしている。


 こんなレナと顔を合わせて、会話を望むのは難しいだろう。軽い応答はできるようだが、話が進まないのが目に見えている。


 ではどうやって話をスムーズに進めるか。


 答えは一つしかない。


「レナ、パソコンを出せ」


 俺の要求に、なぜ、なんて顔をすることはない。言われるがままにキャリーバックからノートパソコンを取り出した。


 それは今流行の薄型でもなければ、リンゴ印のそれでもない。がっしりとした15.6型。黒く重厚なその様は、巨乳JK美少女が手にするのに相応しくない可愛げのなさだった。


 レナがそれを開くと、露わになったキーボードは七色の光を放ち始めた。完全にゲーミング仕様である。


 カチャカチャターンって鳴らすと、レナはそのまま俺に差し出した。パスを解除したのだ。言われずとも黙ってそこまでやったのは、これから俺がなにをやらんとしているのかを察したようだ。


 人のパソコンとは得てして使いづらいものだが、同じOSであれば、簡単な設定くらいはすぐにいじれる。こちらもまたカチャカチャターンってやると、それをそのままレナへと返した。


「顔を突き合わせながらはきついか?」


 コクリコクリと、何度もレナは頷いた。


 どんな顔を浮かべながらやるのかを、見届けたくはあったのだが……まあ、まずはスムーズに話を進めるのが今はなにより大切だ。


 リビングへ出るとふすまを閉じ、その場でどっと腰を下ろした。


 それから三十秒ほど経ったか。


『いやー、マジで助かったっすセンパイ』


 なんてメッセージが、スマホ画面にポップしたのだ。


 相手はもちろん言わずもがな。一閃十界のレナファルトである。


 かつては東京札幌と大きな物理的な距離を隔て、語り合ってきた五年越しの友人にしてコーハイ。現在その距離はなんと、一メートル圏内である。


 今にも足元が崩れ落ちんとしていた、挙動不審にビクビクしていた小動物。


 それがたった三十秒でここまでの安定感を示されると、


「おまえ切り替え早すぎだろ」


 ため息と共にそんな声しか上がらないのであった。


『だーからリアルの自分はガチコミュ障。ただのネット弁慶だって言ってたじゃないっすか』


「弁慶とかそんな可愛いレベルじゃないだろ。最早二重人格だよ」


 切り替えの早さがとにかくヤバイ。


 あれだけおどおどとしてトロそうだったのに、ふすま越しに鳴り響く爆速タイプ音。一体どんな顔をしながらいつものレナを演じているのか。


 好奇心に負け覗いて見たいところであったが、鶴となって空へと帰られても困る。ここはグッと堪えることにした。


『ん……まあ、センパイ。まずは謝らせてほしいっす』


 なんて殊勝な落ち着き方を見せてくる。


 謝る。女だと黙っていたことだろうか。それとも年齢のことだろうか。その両方か。


 ならば俺たちの間にそんな謝罪は必要ない。なにせずっと、俺たちはその辺りをハッキリさせてこなかった。驚かされた気持ちはあっても、騙されたという思いは一切ない。


 声に出しそう伝えようとすると、


『巨乳JK美少女だと釣ってすみませんでした。実は自分、ただの巨乳JKなんすよ』


「そっちかよ!」


 真面目な謝罪かと思って損した。


 そして弱々しい小動物の仮面の裏には、巨乳JKとしての誇りがあったようだ。


 でも「ん?」っとなった。


 レナは自分がただの巨乳JKだと言い切った。なら、


「じゃあ……初回特典も?」


 いかにも男の人なんて知りません、なんて清らかに清楚ぶっておいて、やることはやっているのか。けしからん、と胸の底から憤りが湧いたのだ。


『いや、あれはガチ。そもそも対人恐怖吃音症パラヒキニートに捨てろというほうが酷な話っすよ』


「お、おう……」


 即行否だと返ってきて、こっちが動揺した。


 五年越しの交流があるとはいえ、今日初めて顔を合わせた男、それも大人に向かって処女膜はあると断言したのだ。それも一メートル越しで。


 マジで今どんな顔をしているのか、本気で見たくなった。だが振り返った先で塩の柱になっても困る。


『美少女だなんて騙して釣ってめんごっすセンパイ。なんとかセンパイを釣らねば、ってこっちも必死だったんすよ』


 絶望的なまでのコミュ障から放たれる、爆速タイプ音の誘惑をグッと堪える。


『やった美少女だと意気揚々と来てみれば、クソ陰キャに声をかけられてビックリっしょ』


「い、いや……まあ、ビックリはしたが」


 確かに時間が止まるほどにビックリはした。おそらく人生最大級のビックリだ。


「釣られに行ってみれば、看板偽りなしのマジもんが来たのにビビったわ」


 クソ陰キャでコミュ障であろうとも、巨乳JK美少女に間違いはない。


『なん、だと……実は自分、巨乳JK美少女だった説?』


 自分の容姿をどう捉えているかは知らないが、巨乳としての誇りはあっても、美少女だという驕りはなかったようだ。事実その返信は「ふぇっ!」なんて可愛らしい音の後にもたらされた。


「おう、世辞抜きで美少女だ。自信を持って巨乳JK美少女を名乗っていいぞ」


『せ、センパイ……! 濡れた。これはもう、グングニルで城門を突破されてもいい』


 本人相手に巨乳JK美少女だと口にするのはセクハラかもしれん、と思ったが、更なるシモネタが返ってきた。


 完全にいつものレナである。


「天井のシミでも数えてろ。そうしたらすぐに終わるぞ」


『おk。無抵抗開門の覚悟は決めてきてるんで、攻城戦は優しくしてくれっすよ』


 いつもの調子で返し、向こうもまたいつもの調子で返してくる。


 まさにいつもの会話。ボケとボケのキャッチボールだ。


 が、今の俺にはその次のボールを投げられずにいた。


 覚悟は決めてきてる。


 意図した台詞かは知らぬが、その意味をわからぬ俺ではない。


 ボケて茶化してこそいるが、家出少女がよく大人に払う対価。その意味をしっかりと理解した上で、宿代を払う覚悟をしていると言うのだ。


 息を飲み込むことも、吐き出すこともできずにいた。


 あのコミュ障っぷり。いかにも男も知らず、悪い遊びもやってこな……いや、咎められて当然なくらいにはネットにドップリであった。それでも悪い友だちどころか、友だちなんているわけないだろと理不尽に切れるくらいには、人との繋がりが希薄であるのは伺えた。


 そんな女の子が、覚悟を決めてきた、なんて言葉を吐き出すのだ。その裏ではどのような葛藤があったのか。煩悶があったのか。人生経験が足らない俺にわかる日なんて来ないだろう。


 ハッキリ言おう。このまま流れに乗りたい。


 グングニルを振るう初戦場は、清らかな戦乙女と肩を並べる時と決めていた。


 その決意から幾星霜。監獄に囚われ続けた一兵卒未満の白昼夢が、今まさに正夢となり釈放されようとしているのだ。


 しかも相手は五年越しの付き合いで、いつも俺をセンパイセンパイ慕ってくる、可愛いコーハイ。その正体は巨乳JK美少女だ。


 こんな俺相手だからこそ、レナも覚悟を決められたのかもしれない。むしろ俺以外相手には、決してそんな決意はできないはずだ。


 ならばもう迷うことはない。


 我が戦略が間違っていなかったことを証明する日が訪れたのだ。


「冗談だ。グングニルを振るうことはない」


 が、流れに乗ろうとして出てきたのは、本心と相反する綺麗事であった。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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― 新着の感想 ―
[良い点] ホラーハウス(ガチ)大好き! 祭壇があるシーンは「残穢」というホラー作品を思い出しましたね…… 一度抜かれたら血を流すまで止められない……ダインスレイヴは初夜のメタファーだった!?グングニ…
[良い点] 2人の関係性 [気になる点] 主人公の巨乳jk美少女と呼ぶことにセクハラの心配する割に処女膜の有無を確認する精神 [一言] ヒロインみたいなネトゲ仲間が欲しい...男でいいから...!
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