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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
反光合成禁断ノ時限果実

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10

『イエス。マイシスターは東京大学に通ってるんです』


「じゃあ、宿は俺をアテに来たわけじゃ……」


『流石の自分もセンパイ全振りなんて無謀な真似はしませんよ。こうして頼ったのは目的の二の次』


「二の次?」


『はい。ガチでセンパイとオフ会しに来た感じっす』


 センパイに会いたいがために、わたしはここまでやってきたのだ。会えなければ予定通り、理不尽なお供を隣家に頼まなければならなかった。


「ネット弁慶がよく、オフ会したいだなんて思ったな」


『自分にはセンパイ以外、心を開ける相手がいないんすよ。だから一度くらいは、センパイのチー牛面を拝んで見たかったんす。ザ・社会人が来て、いい意味でビビリましたけど』


「よりにもよって俺以外にいないって……お姉さんはどうなんだ? あたりが厳しい人なのか?」


『姉さんは優しいですよ。自分のことを世界で一番想ってくれている人っす。……でも優しいだけで、自分の気持ちには寄り添えない人っすから』


「寄り添えない?」


『自分の対人スキルは、ならせば向上するもんだと信じてるんす。少量ずつ食べれば、アレルギーは治るとのたまう昭和のクソトメと同じっすね』


 レナファルトが自然とそう評した。


 姉さんには申し訳ないが、言い得て妙な発言である。


『そんなわけで、センパイとオフ会してお話できただけで、当初の予定は大方完了したんす』


「オフ会言ってるが、おまえがやってることはいつもと同じだからな」


『いやいや、自分の中にあったセンパイ像が、チー牛からザ・社会人に更新されただけで、大きな収穫ですよ』


 これは本音だ。


 センパイはどこまでもわたしの理想通りのセンパイである。美化に美化を重ねた想像上の生物が、ファンタジーから飛び出してきたようなものだ。


 センパイが下手にイケメンでなくて本当によかった。


「当初の目的が叶った後は、どうしたかったんだ?」


『現実逃避がしたいっす。満足したら姉さんのところへ行くんで、それまでの間、置いて貰おうと思ってました』


「……満足したら行くって言うが、仮にも未成年だろ? それまでどこにいたのか、お姉さんにはなんて言い訳するんだ?」


 センパイはそんな当たり前の疑問を口にした。


 調べた限り、未成年者のみで宿に泊まってはいけない、という法律はないようである。ただしトラブル対策で、法定代理人の同意を求めるのが一般的なようである。この場合の法定代理人は父であるので、同意なんて求められるわけがない。


 年不相応な資金力はあれど、どこからどう見ても未成年のわたしが、一人で宿を取るのは適わない。そして実質法学部である姉さんが、それを知らないわけがない。どれだけ言い訳と嘘を塗り固めようと、ロジハラされれば一発である。


 どうするつもりであるかは決まっていた。


『大した言い訳なんて必要ありませんよ。巨乳JK美少女ブランドを活用して、ギルドでパーティー募集をかけた。それだけで充分っす。あ、センパイを売るような真似は絶対しませんから安心してください』


「おいおい……」


 わたしは絶対にセンパイだけは売らない。それだけは心に誓っている。


 ロジハラで暴かれない嘘は、お金を介したインスタントな男女交際をし、東京の夜を乗り切ったで十分だ。


 その結果、姉さんがどんな反応するかも、思考トレースは終えている。どちらにとっても、大変面白くない結果が起きるだろう。


『センパイ、自分はもう、人生詰んでるんすよ』


 だがわたしはそれで構わない。


 悪逆非道を働いた陽キャたちを断罪しつつ、都井氏にクワトロスコアを叩きつけ歴史とwikiに名を刻む。そして家族親戚田中道連れエンドを辿るのだ。隣家には理不尽で申し訳ないが、一閃十界のレナファルトとしての意地がある。


 そういうわけだから、わたしの生命の使い道はもう決まっている。先は長くない。だから今更姉さんにどのような目で見られようと構わないのだ。


『今回のことで、姉さんに泣きついても無駄っす。優しくはしてもらえますが、最後には学校へ行くよう諭されるだけ。アレルギーは治る。少しずつでいいから。ちょっとずつならしていこう。貴女のためを思って言っているの。大丈夫、絶対に良くなる。だって貴女は私の妹だもの、って』


 わたしの未来を想って優しくしてくれる姉さん。


 こんなにも想ってくれているのに、それに応えられないのが申し訳なかった。


『姉さんは優しくても甘い人じゃない。辛いかもしれないけど、皆そうやって生きているんだってロジハラしてくるんすよ。人生甘ったれている自分に、優しくしかしてくれません』


 いつしか姉さんの優しさが苦痛以外なにものでもなくなった。なんで放っておいてくれないかと、逆恨みの感情すら抱くようになっていた。


『家では親に怒られて、姉さんを頼れば優しくされる。相反したことのようで、求められることは同じなんすよ。いいからアレルギーを食べて克服しろ、ってね。いや、もう無理っすね。自分が一番悪いのがわかっているのと、できるのはまた別ですから。


 センパイ、自分はもう、人生詰んでるんすよ』


 父には見放され、姉さんの優しさは苦しいだけ。現実に居場所なんてどこにもないほどに、わたしの人生は詰んでしまった。


 恨みの華を咲かせて、人生を締めくくろうと決心するほどに、この心はもう現実に耐えられない。


 わたしの心の拠り所は、画面を通した世界にしかなかった。


 レナファルトであれる時間があったからこそ。


 センパイとの時間があったからこそ、今日まで生きながらえてきただけ。


 だから人生を締めくくる前に、最後に一時の夢を望んだのだ。


 楽しいだけの時間に耽りたい、と。


『巨乳JK美少女なんて驕りこそありませんが、巨乳JKとしての誇りはありました。だからセンパイに初回特典を差し出して、現実逃避に付き合ってもらいたかったんす』


 そのためならわたしは、対価を差し出したっていい。夢の世界に逃げ込めるのなら、そのくらいの支払いは当然である。


 この先に救いなど、今更望んでいない。


 現実に戻った後、やることはもう決まっている。


 人生の三分の一もの間、唯一楽しさを与えてくれた人。


 一閃十界のレナファルトとして、人生のセンパイに最期の夢を求めたのだ。


『それが攻城戦無期延期と言われたら、マジで自分は迷惑かけるだけの存在っすね……』


 なのにセンパイは、正当なる対価を受け取ってくれない。


 レナファルトとの関係を大事にしてくれるのは嬉しかった。


 だけどわたしは、センパイに大きなリスクを背負わせようとしている。ならせめて、それに見合うものを差し出したい。受け入れてくれるのなら、わたしはセンパイに報いたい。


 ただの重荷だけで終わりたくない。


 例え対等でいられなくても、天秤が大きく偏るのだけは嫌なのだ。


「ま、乗りかかった船だ。いたいだけいたらいい」


 なのにセンパイはそれでもいいと言ってくれた。


「えっ」


 対価を求めようとせず、大きく天秤が偏るほどの重荷を背負ってもいいと。


 自己保身に走ることに置いては、他の追随を許さんとまで主張してきた人が、そんな誤った方針を立てたのだ。


『でも』


 レナファルトの手が止まった。


 このまま黙って、受け入れていいものだろうか。


 戸惑っているこの気配は、センパイに伝わっているだろう。もしここでふすまを開き、この頭にポンと手を置いて、『今まで辛かったな。大丈夫だ、俺だけはおまえの味方だ』なんてイケメンっぷりを発揮されたら、それに流されてしまうだろう。その胸に飛び込んで、二人は幸せなキスをして終了、ハッピーエンド、完。


 なんて行動力があれば、センパイはとうの昔に戦乙女と戦場を駆け抜けている。


「その代わりだ。俺のことは絶対バレないようにしてくれ。嫉妬に狂ったネット民の玩具はマジ勘弁だ」


 戦場の代わりに煙を浴びて、歳が駆け抜けるのを恐れるように、センパイは安定の保身に走っていた。


 センパイはどこまでもセンパイらしい。


『勿論です。センパイを売るくらいなら、無敵の人としてこの名を世間に轟かせるっすよ。家族親戚田中もろとも道連れだ!』


「田中が理不尽すぎる」


 レナファルトがそんないつものセンパイに喜んだのだ。


 センパイは人生のセンパイである。


 そしてレナファルトは、そんなセンパイのコーハイだ。


 わたしの心はもう決まっていた。コーハイらしくここは黙って、人生のセンパイに甘えようと。


『センパイ、ありがとうございます。やっぱりセンパイは、自分にとって大きな存在です』


 わたしとレナファルトの二つの手が、センパイへの感謝を示す。


『こんな自分を受け入れてくれてほんと感謝。そんな貴方にガチで感謝。こんな友にマジ感謝』


 わたしの手が離れた瞬間、レナファルトが発作を起こした。


 なにせレナファルトは、ボケなければ死んでしまう病を患った重病患者。らしくない自分の発言を取り繕う下手な照れ隠しだ。あまりにもボケが雑すぎた。


「ラップの感謝率は異常」


『センキュー! センキュー!』


「今どんな顔してんのか見にいくわ」


『ノーセンキュー!』


「ひゃ!」


 立ち上がる気配を感じ、焦って反射的に立ち上がる。そうやって机にぶつかり、物音を立て悲鳴を上げるわたしを、ふすま越しで笑われた。


「後はあれだ。家事くらいはやってくれ。それだけでだいぶ助かる」


『お手伝いさんありきのパラヒキニートに家事ができるとでも?』


「ケッ、クソザコナメクジかよ」


『そこはご指導ご鞭撻お願いっすね。ラーニング速度は神童なんで、ゼロが一にさえなれば、後は戦いの中で成長していく系っす。そのままメイド属性を獲得する予定なんで。メイド王に俺はなる!』


「対人恐怖吃音症パラヒキニートクソ陰キャ処女メイド巨乳JK美少女の誕生である」


『我が事ながら属性過多すぎてマジ笑う』


 立板に水のように紡がれる属性過多に、ついクスリと笑ってしまった。よく一度も詰まらず言い切れたものだ。吃りのスペシャリストとして、尊敬の念をまた一つ、積み上げてしまった。


 センパイはレナファルトとの関係を大事にしてくれた。だから戦場には連れ出してくれないし、整備員の任も与えてくれなかった。


 巨乳JK美少女のブランド力から対価を要求することなく、リスク(わたし)を背負ってくれたのだ。


 センパイにはいつだって、与えて貰ってばかりである。


 だからわたしなりに、センパイに報いたい。なにかを与えられるようになりたいと、この胸に新たな願望を抱いたのだ。


 家事、か。


 勢いでメイド王になるとまで大言壮語したが、こんなわたしでも務まるだろうか。


 ……いいや、そんな心配はない。


 わたしは神童である。その気にさえなれば、センパイの身の回りのお世話なんてちょちょいである。それこそわたしなしで生活が成り立たないほど、ダメンズに堕としてみるのも悪くない。


『センパイ』


 センパイがわたしをこうして受け入れたのは、社会的に許されないことである。どれだけ言葉のレトリックを操ろうとも、中指を立てた社会は助走を付けて君死に給えと唱えるのだ。


 そんなリスクを背負わせてしまったのに、文野楓の手は自然とこう動いたのだ。


『貴方に会いに来て良かったです』


 わたしの救いはここにある。


 それだけは間違いでなかったのだ、と。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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『センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?』書籍版、発売中!
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― 新着の感想 ―
[一言] 「大丈夫だからゆっくり変わっていこう」は要するに今の自分はダメだと否定されることと同意ってやつ思い出しました
[一言] >都井氏にクワトロスコア 33x4 なんでや・・・阪神関係ないやろ・・・(震え声)
[一言] この姉さん、別に優しくはないと思うけどね。 本当に優しいなら、「友達と共に登校させる」「喋れなくなっているなら、家で喋らせる」、「妹の気持ちが理解出来ないなら、カウンセラーなりに頼る」など、…
感想一覧
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