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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版3巻3/31発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
反光合成禁断ノ時限果実

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09

 あの父親は昔からそうだった。


 自ら起こした事業と、上級国民との繋がりを求めることに人生を捧げている。家族全員で食卓を囲う、なんて団欒があった記憶がない。食事を共にするときは、外へ向けたアピールで連れ出されたときだけ。母よりインプットされた子供の生み出した結果と成果を、知った顔でアウトプットするのだ。


 それでもわたしの人生は幸せだった。


 なにせ母がいた。いつだってわたしを守ってくれた。いつだって甘えさせてくれた。父は育児や教育方針の全てを、母に丸投げしていたおかげだ。


 結果や成果は出しているので「引っ込み思案なところに困ってるんですが」と父は笑って、わたしを外部に紹介していたのだ。


 実際、幼き頃のわたしは引っ込み思案だった。今みたいに絶望的なコミュ障ではなく、学校もしっかり通えていたのだ。


 可愛がってくれる姉さんのことも大好きだった。しっかりと意思を示し、押し通せるカッコよさに憧れていた。いつだってこの手を引いてくれたことが嬉しかった。


 母が亡くなったことで、そんな幸せが崩れ落ちたのだ。


 死因は深く語るようなものではない。ルーチンワークのような買い物、そんな出先での事故に巻き込まれただけである。


 それを知らされてから、納骨までの流れも語るほどでもない。よくある被害者家族のそれだ。


 忌引き明けを待たず、父はすぐに仕事へ復帰した。その様はまるで、突発的なトラブル処理が終わったかのようだった。


 忌引き後、すぐに姉さんは学校に復帰した。悲しくて辛いのと、与えられた権利の過剰行使は別だとばかりに。


 一方、わたしはいつまでも塞ぎ込み、現実を受け入れられずにいた。


 二週間、三週間、一ヶ月。


 いつまでも学校に行かないわたしであったが、父に学校に行くよう促されることはなかった。


 わたしは神童である。少し長く休んだところで、遅れはすぐに取り返せるだろうと放置されていたのだ。


 姉さんもそんなわたしを励まし、寄り添い続けてくれた。


 しかしそれが、三ヶ月、四ヶ月となると、父もその痺れを切らしたようだ。


 死んだ人間のことを、いつまでも引きずっている。さっさと学校へ行け。結果と成果を生み出せと、わたしをなじり罵ってきた。父にとって母とは所詮、家族システムの部品に過ぎない。失ったところで大きな損傷がないものと捉えていたのだ。


 姉さんはそんなわたしに優しく諭すのだ。貴女がどれだけ辛くて悲しいかは、よくわかっている。だって私たちは姉妹だもの。その気持ちは誰よりも理解している。でもいつまでも塞ぎ込んでいてはいけない。天国で見ているだろう母のためにも、この悲しみを乗り越えないといけないの。


 正論である。


 どこまでも正しく、模範的な社会の解答だ。


 姉さんに手を引かれるがまま、社会の箱庭に戻されたのである。


 わたしに親友はいない。それでも引っ込み思案なりに、グループには所属はできていた。受け答えだってしっかりできていたし、神童として教えを乞われるのも日常茶飯事だ。


 そんな彼女たちから、復帰を喜ぶ声と、そして慰めの声を沢山かけてもらった。数カ月も顔を見せずにいたわたしを、厭うことなく受け入れてくれたのだ。


 素直にそれは嬉しかった。姉さんに手を引かれてきて良かったと、喜びすら感じていた。


 だからわたしは、彼女たちにお礼の言葉を告げたのである。


「あ、あ、あ、あ……あり、がとう」


 自分でも初めて聞いた、吃ったその声で。


 姉さん相手にすら、満足に会話を重ねてこなかった。だから舌の回りが深刻なまでに錆びついていたのだ。


 彼女たちはそんなわたしを、未だ母の死から立ち直れていない、ただの悲哀だと受け入れてくれた。


 だから、


「あ、あ、あ、あ……あり、がとう。だってよ!」


 ギャハハと笑ったのは、お調子者の男子だった。


「あ、あ、あ、あ……」


 吃った部分だけを再び彼は繰り返す。


 頭も素行も悪いその男子のことが、昔から大嫌いであった。なにかにつけて絡んできて、わたしで笑いを取ろうとするのだ。


 そんな彼はクラスの中心的存在である。彼が笑いをもたらせば、それを呼び水に男子たちが追随する。教室が笑声で包まれるのだ。


 今回もまた、同じことが起きただけ。


 いつものように友人たちが代わりに憤る。他の女子生徒も味方について「ちょっと男子ー」と声を上げ、性別による対立が起こる。


 わたしはその影に隠れて、笑いの台風が通り過ぎるのを待つのであるが、今回ばかりはそうならなかった。


 教室に響いた笑声が、わたしには嘲笑にしか聞こえなかった。


 母の死を乗り越える。そんな模範的な社会の解答を出すために、姉さんに手を引かれながらも箱庭へと戻ってきた。


 なのになぜ、こんな仕打ちを受けねばならないのか。


 模範的な解答を求めてやったきた場所で、啼泣という形で応えたのだ。


 嘲笑は白けるように収まった。次の瞬間にはざわめきだし、ことの発端の男子は責め立てられ、彼は道連れを作るかのように、笑った全員が同罪だと喚き出した。


 担任が来るまで騒ぎは収まらず、最後にわたしは保健室へと送られた。気持ちが収まったら、教室に戻ろうと優しい声をかけられたのだ。


 次の日も、


 次の日も、


 そのまた次の日も、


 ずるずるずるずると教室への階段を登ることができずにいた。


 わたしは神童である。授業なんて出なくても、遅れの全てをすぐに取り戻した。元々、その先すら一人で走り抜けていたのだ。やってることは復習と変わらない。


 優秀すぎるがゆえに、先生がたも成績を盾に取り、教室へ戻るよう促せなかったのだ。


 父もまた、結果と成果を出すそんなわたしに、箱庭に戻ることを強いてこなかった。自走だけで結果と成果を生み出せるのなら、好きにしていいとまでお達しがくだった。


 かくしてわたしは、二度と教室に足を踏み入ることはなかった。


 週に一度だけ登校し、保健室でテストだけ受ける学校生活。三桁以外の数字なんて見たことがない。自分の教育方針はこれで正しかったのだと、父は己の偉業のように誇ってすらいた。


 姉さんはこのままではわたしのためにならないと、父を説得しようとしたようだ。だがそれは全て跳ね除けられた。あんな猿どもにわたしの才を潰されてなるものかと、理解者ぶって語っていたようである。


 ならばとわたしを説得しようとしたが、無駄である。この頃には最強スキル、顔を俯かせて黙って乗り越える、を会得していた。


 わたしのことを誰よりも想ってくれる姉さん。憧れてきた。いつも優しく引いてくれるその手が大好きだった。


 いつしかその引いてこようとする優しい手が、嫌になった。煩わしくなった。放っておいて欲しかった。


 姉さんから逃げるように、部屋に引きこもる日々。


 こうして日々の会話の相手を捨て去ったわたしは、日に日に発声スキルや、自己主張の術を衰えさせていったのだ。


 絶望的なコミュ障を育てる土壌は、かくして誕生したのである。


 姉さんはやはり間違えていなかった。間違ったのは楽な道を選んだわたしと、父の教育方針である。教育や子育てを知らない男が、ある日ポン、と大きな子供を託されたのだ。ある意味、当然の帰結である。


 父が失敗を悟ったのは、高校受験を控えた最後の一年。その始まり。高校は義務教育ではないと思い出したのだろう。


 急遽教育方針を変えようとも、わたしには最強スキルがあるので無駄であった。父も父で忙しい時期であったので、いつまでも相手をしていられない。


 だから思い出したように説教をしてくる様は、まさに滑稽であった。だってそうであろう。教育と子育てを頑張ってきた、父親の真似事をしているのだから。


 よくもまあそんな恥知らずな真似ができるものだ。そんな真似をして許されるのは亡き母や、わたしのことを想い続け、どうにかならないかと模索してきた姉さんだけである。


 心に寄り添った結果の失敗なら、また話は別だ。だがそんなことは一切ない。父が今日までしてきたのは、子供が生み出す結果と成果を買ってきただけである。黙って払えば買えていたものが、このままでは非売品になると焦ったに過ぎない。


 以上が、我が家の実情である。文野家でまともなのは、姉さんだけなのだ。


 こんな話、いくらレナファルトでも陽気に茶化して語るには、あまりにも生々しすぎる。


 なのでこれ以上は、センパイに語るつもりはない。折角噛み合った歯車が、またズレるのはごめんである。


「待て、東京の姉さん?」


 だからセンパイが、そちらの方に気を取られてくれて助かった。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



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― 新着の感想 ―
[一言] 母親が存命なら、ずいぶんと様子は変わったのかなあ。 活動報告を拝見しました。5人にパパは入っていないのね/w ただやっぱり、当事者二人に加えて、少なくとも味方と敵の視点、っていうのも読みた…
[一言] 一回見たとこ長々とやるな
[良い点] いるいる。こういう人の失敗を、苦手を、どうしようもない部分を笑いのネタにして身内だけで盛り上がるクソみてぇな奴 そういう奴が通知表で『明るくクラスを盛り上げる中心的な人物です』って評されて…
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