05
父ガチャ失敗からの姉ガチャ星5。しかし使い勝手は最悪だ。
渡る社会は鬼ばかり。神童たるこのわたしが、なぜこんなにも追い詰められなければならないのか。父と社会と陽キャを呪った。
そんなわたしの不幸のバランスを取るように、世界は心の支えを配布してくれた。それがなければもっと早い段階で、人生のリセマラに走っていたであろう。
センパイは配布キャラでこそあったが、性能はまさに星5相当。その代わりにキャラデザが長らく謎であった。きっとクソ絵師が担当したのであろうと割り切っていた。
蓋を開けてみればとんでもない。
SNSでフォロワー十万超えの、お仕事募集しているイラストレーターが担当していたのだ。
神はいた。
一切センパイ観を損なうことのないキャラデザ性能。下手にイケメンにしなかったところにこだわりを感じ、よくわかっているじゃないかと絵師さんを称賛した。
まさに理想通りのセンパイだ。
人生最大級に安堵しながら、わたしは神への感謝を捧げた。
センパイもセンパイで、巨乳JK美少女に釣られて来てみれば、クソ陰キャに声をかけられ狼狽えていた。マジかと三回唱えられた先で、ようやくわたしがレナファルトだと信じてくれたようだ。
「とりあえず……着いてきてくれるか?」
と言われるがままに着いていく。
駅から離れるに連れて、ゴミのような喧騒と極彩色に輝く看板は失われていく。
気づけば住宅街へと足を踏み入れており、どこに向かっているのかくらいは見当がついた。
「そういえば、俺の家のことは前に話したよな?」
「よ、よ、四、十人で、で……すよ、ね?」
不意にかけられたその質問を、吃りながらもすぐに応答した。
ホラーハウス。事故物件に住んでいるらしいセンパイは、自らの住居をよくそう表現していた。
一家心中、押し入り強盗、カルト教団やネットで募った集団自殺。
都度五回の取り壊しは全て失敗。工事に関わる機械や人間に、数々の不調をもたらし、怪我人や病人が続出したようだ。お祓いを頼むも、携わった僧侶は心筋梗塞で倒れ亡くなったとのこと。
センパイはそれらをよく、華々しい経歴と、輝かしい戦歴だと表現している。おかげで町内からは近隣八分を食らっており、実に過ごしやすい環境だと、文字通り草を生やしながら語ってくれた。
頭のネジが一本飛んだそういうところを、センパイマジヤバイとリスペクトしているのだ。
「その辺り大丈夫か?」
肩越しに振り返ったセンパイは、心配そうに問いかけてくれた。
いくら自分が大丈夫だからと、独りよがりにならないところがセンパイの良いところだ。いつだってわたしの心に寄り添おうとしてくれる。
ホラーハウスは正直怖い。
「あ、あ、あの、家に……いる、よりは」
でもあの家よりはずっといい。
センパイがいる場所が一番いいのだ。
辿り着いたホラーハウスは、ボロボロとは言わないが、決して綺麗な佇まいではない。華々しい経歴と輝かしい戦歴を知っているゆえに、おどろおどろしさを感じてしまった。
開かれたその玄関は、まさにホラーハウスの口である。
「なにはともあれ、いらっしゃい、レナ」
「お、お、お、お邪魔、しま、す……センパイ」
だけどセンパイと一緒ならば、その口の中に飛び込むのに迷いはなかった。




