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センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?【コミカライズ版2巻8/28発売!】  作者: 二上圭@じたこよ発売中
エピローグ

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116/118

01

 奴隷の管理者になった経緯を語ろう。


 人の顔色を伺いながら、いかに責任を押し付けるか。仕事の成果は二の次三の次。なにより大事に尊ぶべきは、社会の不文律に従順であり、人間関係の立ち回りの結果である。上座下座や呼称のルール、お世話になっておりますと脳死なビジネスメール。金も出ない始業時間前の出社強要に、遅刻は一秒足りとも許さんが、終業は無限に伸ばすことこそが美徳である。無駄なものにまみれ疲れ果てたところで、お辞儀ハンコというバカみたいなマナーを破ったばかりに、これでもかと人間性を否定され詰められて、ついには社会からドロップアウト。


 そんな社会の洗礼を受け、二度とあんな怖い場所に戻れるかと戦々恐々。そうやって彼らは親のスネをかじりつきながら、就いている職業がある。


 そう、自宅警備員である。


 ザ・日本人らしい働き方(むだ)を全うできないばかりに、社会不適合者の烙印を押された者たち。


 彼らが皆、仕事のできない無能というわけではない。むしろその逆で、無駄なことができないばかりに、能力を発揮する場を奪われているのだ。


 ただの秀才ではない。かといって神童と呼べるほどでもない。それでも天才と呼ばれる多くの人材が、社会にはいくらでも引きこもっている(ねむっている)


 そんな彼らが社会の不文律やマナーをガン無視して、ただ仕事に没頭させればどうなるか。その環境を与えてあげればどれほどの成果を生み出せるだろうか。


 そしてIT業界は今、大いに人が足りていない。かといって、無能でも数がいればいいというわけではない。人手不足ではなく、人材不足なのだ。


 それらに目をつけたひとでなしが、その二つを掛け合わそうと動き出したのだ。


 悪い人間ほど鼻が利くもので、持つ人脈から彼らを掘り当てる。


 彼らも親に対して後ろめたいものや負い目がある。戻れるものなら、この社会に戻ってきたい。


 そんな彼らに付け込むように、ひとでなしはこう囁くのだ。


 無駄なことは求めない。口が利けないなら文字で交わせばいい。ただその能力を存分に発揮してくれるだけでいい。


 そんな美味しい話があるのなら……と、悪い蛇の囁きでその気になる。そうしてついに社会に戻ることを決めて、親御さんもこれにはニッコリ。どうか私たちの子をよろしくお願いします、とその頭を下げるのだ。


 そうやって奴隷船に乗ってきた奴らを、管理するのが俺の仕事である。


 最初はリモートワークなんて形で、しばらく意思疎通を図りながら、彼らをやる気にさせる。おだてて、頼って、凄いぞって、こんなできる奴が来てくれて助かる。天才は違うな、こんな人材を手放した無能共には感謝しないとな、って。失った自尊心と自己肯定感、そして俺への信頼を植え付けるのだ。


 実際、俺が必死こいて一ヶ月で終わるかどうかの仕事を、涼しい顔で数日かそこらでこなすのだから、彼らはマジの天才である。


 この業界は、時間を短縮できるなら、いくらでも金をかける投資家たちで満ちている。ガミがそういった人たちから仕事を引っ張って、俺ができるかどうかを精査して、奴隷たちにぶん投げる。そして上がってきた成果を俺が独り占めし、その結果ガミが大儲けするという図式である。


 社会のルールをしっかり守った、極めてまっとうな商売だ。


 モラルがどうかと問われれば、間違いなく触れている。


 なにせ天才共を、新社会人の賃金で使っているのだ。本人たちはこき使われている自覚はない。むしろ与えられたものを喜んで受け取り、成果を生み出し、自己肯定感を得ている。そうなるように俺が管理し、囲っているのだ。


 そのためにガミは、ルールがガチガチの日本から、ルールがガバガバな東南アジアに拠点を置いたのだ。ガミが一財産を築いたホームなだけあり、色々と融通が利くのだ。


 元は自宅警備員というだけあり、彼らは外と内をハッキリ分ける。外部の人間との接触を最低限に抑えるのだ。異国だからこそその習性はより顕著となり、相談できる相手を極限まで限らせる。


 そんな閉ざされた世界。この楽園(かいしゃ)から出ると、またろくでもない社会(げんじつ)が待っている。ここより楽で楽しいところはない。この人だけは自分のことを本当に理解してくれていると依存させ、洗脳しているのだ。


 我社はそんな奴隷共を安く使って高品質を生み出す。やりがい搾取を地で行く、社会の錬金術師(ブラック企業)である。


 上手くいくためのポイントは、奴隷に奴隷の自覚はさせない。この生活こそが幸せだと信じ込ませることだ。


 実に楽な商売である。ガミにとっては、だ。


 奴隷の管理というものも大変で、勤務時間外の相談なんて当たり前。それだけではない。奴隷に仕事を与えるために、その中身を自分でも理解していないとならない。それを生み出す技術は手に持たずとも、それを判断できる目を持たなければならないのだ。


 技術は日々新たなものに更新されている。


 なにが必要なのかを知るためにも、勉強ばかりの日々である。それも奴隷の管理の傍らでやらねばならないことから、仕事とプライベートの区別なんてついていない。


 年収は日本にいた頃より、三倍近く上がったが。メリハリついていないことを踏まえ、時給換算すると大したことはないのだ。


 ここまでやってようやく、年相応の社会人より少し稼いでいる程度。全くもって、まともに勤めて稼ぐっていうのは、コスパの悪いことこの上ない。そりゃあ、やりがい辺りに縋らなければやってられんというものだ。


 俺もまた、ガミに搾取されている奴隷であった。


 最近、管理する奴隷が増えてきて、よく考えることがある。


 社会というものは常々よくできている。


 使う奴隷が増えるごとに、なあなあにしてきたものを、白黒つけさせないといけないと思うようになってきた。


 よかれと思いやったことが間違いだった。その一人の失敗を収拾するため、他の者を巻き込む形になった。あのときは少数だったから、誰も一人を責めることはなかった。困ったときはお互い様だと、笑って終わった。


 けど数が増えるにつれて、人の意思も増えていく。そして数が増えたからこその、見えてくる不満も出てくるだろう。


 誰も彼もが好き勝手を始めると、管理する側も大変だ。


 だからやってはいけない共通認識、規律を作らねばならない。


 まずは一個、作るかと考えた。でも一個作ればまた一個、一個、一個と、必要なものを考えるようになり、次から次へとそれを掲げると、縛られる不満が出てくるだろう。それを全うできないことの辛さと苦しみが生まれるのだ。


 でもそれは、数を抱える上で仕方ないものであり……やっぱり社会っていうものは、上手いことできているなと思った。


 かつて中指を立ててきた社会のルールやモラル。考えれば考えるほど、それが必要であることの意味、ただわかるのではなく、肌で感じるようになっていた。


 その辺りで、考えるのが面倒になった。そのときになったらまた考えればいいと、未来の自分に課題をぶん投げたのだ。


 どうせガミにとってはこの商売は、人生の遊び。ダメならダメでそれでいい。上手くいったら儲けものなのだ。


 俺は奴隷たちの人生の責任を、端から取るつもりはない。


 それを薄情だと罵られようと、会社なんてそんなもの。倒れたときは社員の未来、その責任なんて取るつもりはない。結局会社っていうのはそんなものだから仕方ないだろって、自分が悪いことをしていると自覚しながら逃げるつもりだ。


 奴隷相手とはいえ、確かに向き合っている内に生まれてくる情はある。プライベートの相談を受けるうちに、なんとかしてやりたいと思うくらいには、向き合っているつもりだ。


 でも俺の背中は他の人生で埋まっている。これ以上は乗せられない。定員オーバーだ。


 前に、仕事の取引相手にこう問われたことがある。


 葉っぱに賭け事に女遊び。誘っても乗らない俺に、なにが楽しくて生きているんだ、って。揶揄するのではなく、本気で不思議そうにされた。


 だからこう答えた。


 なにかがあったときのために生きている、と。


 そのなにかは絶対起こらないが、なんて付け足すと、まるで煙に巻かれたように、なおさら不思議そうに首を傾げるのだ。


 とにかくそうやって、奴隷の管理をしながら忙しい毎日を送っている。日本で暮らしていた最後の一年。終電帰りの日々なんてぬるま湯に思えるほど。休みなくガミの馬車馬となっていた。


 その生活が存外、悪くない。起きないと信じているなにかが起きたとき、今築いているものがそれを受け止める。堕ちなくても、泣くほど痛い思いはしなくて済むだろうと。自分で今築いているものに満足しているのだ。


 こんな生活がかれこれ二年も続いている。


 仕事も順調で、軌道に乗っている。


 最初はダメで元々と着いてきた身としては、ガミの経営者としての手腕に目を張るばかりだ。


 そして今日もまた、新たな環境に夢と不安を抱いた奴隷が出荷されてくる。


 それを空港まで迎えに来た。


 さて、今回はどんな奴隷が来るのやら。いつもならリモートワークでしっかり信用を築いて、自分の意思でこっちに来ると決断されるのだが。今回はそれがない。


 なにせスケジュールを確認した上でガミ(しゃちょう)が、新たな奴隷を送るから回収しろと、連絡を寄越してきたのが昨日の今日の話。


 いきなりだなと舌打ちしたが、問題というほどではない。問題だったのは、奴隷の回収が終わったら、向こう一ヶ月の休みをくれるというのだ。


 寝耳に水とはこのことだ。


 スケジュールも既に調整済み。俺がいなくても回るよう、既に手を回している。


 その理由も教えてもらえずいるから、ただガミの思惑に首を傾げるのではない。ただただ不安に飲まれていたのだ。


 そうやって現在、空港内の待ち合わせで使われる場所にいた。


 予定の飛行機が到着してから、それなりの時間が経っている。その飛行機で来たと思われる日本人たちが、ちらほらと周りに現れ始めた。入国審査がスムーズに終わり、荷物を受け取っているのなら、そろそろ向こうも姿を現すはずだ。


 といっても、相手の顔なんて知らないのだが。


 待ち合わせ場所に着いたら向こうから連絡がくるとだけ、ガミには伝えられていた。


 相手は自宅警備員上がりなのだ。本当にそれで大丈夫なのかと不安である。


 そうやっていると、また一人日本人らしき少女が隣に並んでいた。


 純白のワンピースに麦わら帽子。いかにもな夏のお嬢様。


 麦わら帽子で顔は隠れて見えない。でも、顔を見ずとも美少女なのは、そのスタイルの良さから感じ取れた。


 こんな絵に描いたような清らかな戦乙女と、肩を並べたいと白昼夢にして監獄に囚われ続けてきた。理想ばかりが高くなり、現実を受け入れることができなくなっていた。


 今はもう、そんな夢を見ていない。現実を見据えている。


 その上で、戦場へ出ずに終わるだろう人生に納得している。我がグングニルはこうして、振るうことなくその生涯を遂げるのだ。


「ん?」


 なんて感傷に浸っていると、スマホが鳴った。


 メッセージが一件。


『待ち合わせ場所に着きました』


 相手は『I.R』。ガミから送られたQRコードで登録した、今日出荷されてきた奴隷である。


『そちらの特徴は?』


 こっちの特徴を告げようかと思ったが、今日の格好は黒シャツにチノパン。見た目はどこにでもいるような成人男性である。自宅警備員上がりに見つけてもらうよりは、こっちから探したほうが早いと思ったのだ。


 すぐ訪れた返信は、


『赤いキャリーバックを手にした巨乳JD美少女です』


 だった。


「は?」


 ただ、そんな声が漏れた。


 いくら社会のマナーを求めないとはいえ、仮にも今日から上司になる相手にこのメッセージ。完全にふざけている。これは開幕説教せねばならんと憤ったのだ。


 なんてわけではない。


 たった一つアルファベットが変えられた、見覚えのあるメッセージに唖然としたのだ。


 スマホを覗いた視界の端。そこにある赤い色。


 釣られるがまま視線を映すと、赤いキャリーバックがあった。


 そこから視界を上げると白いワンピース。そして麦わら帽子に隠れていたものが、今はこちらを覗いていた。


 得意げな、してやったりといったその笑顔。


 かつて上目遣いでおどおどとしていた小動物顔は見る影もなく。あの過去から地続きとなった面影は確かに残っており、すっかりと垢抜けながら成長していた。


 それが誰かなんて、見間違おうはずがなかった。


「……レナ?」


「お久しぶりです、センパイ」

最終話は18時に投稿します。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
推しの百合営業系Vチューバーの間に男が挟まったばかりに、脳破壊された主人公が子供時代にタイムリープした話。
本編とその前日譚まで完結しておりますので、よろしければこちらもご一読ください。



コミック版が3月28日に発売、予約受付中!
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『センパイ、自宅警備員の雇用はいかがですか?』書籍版、発売中!
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― 新着の感想 ―
[良い点] 社会に馴染めない潰れた神童の自信を回復させた敏腕ブラック上司がそのノウハウで同じような事をしてるんですね分かります タマとガミは優秀な奴隷《じんざい》を安く使えて嬉しい 自宅警備員達は出…
[良い点] この展開を待っていやした!至高of至高
[一言] おおっと・・・自宅警備員に永久就職志願かな?
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