七草粥
「七草粥っていつだっけ」
「あー⋯⋯昨日だね」
あまりに不毛なこの会話は、私と夫とのものである。
「なになにー?」
娘が飛び跳ねながらこちらへ来た。冬休みで体力を持て余している彼女は、基本アグレッシブに動き回る。
「んー、昨日、一月七日が、七草粥っていう特別なお粥を食べる日だったよねーって話」
「お粥なら昨日食べたよ!」
夫が穏やかに説明すると、娘は意外にもそう答えた。
「え、昨日は唐揚げだったじゃん?」
驚きつつ、私。七草粥なぞ一切頭になかったので、胃を全くいたわらない夕飯である。
「おばあちゃん家で食べたもん」
「あぁ、なるほど」
私たち夫婦が共働きなので、小学校が休みの娘は昼間、私の母の家に預かってもらっている。そこで昼食にでも出たのだろう。
面倒を見てくれるのみならず、伝統を教えてくれるなんて、いい母親だなぁと思っていた⋯⋯のだが。
「すっごい豪華なお粥だよね?」
「⋯⋯え?」
夫と顔を見合わせる。
「え、なにが豪華?」
実家にいた頃、母が一月七日には必ず七草粥を作っていたが(献立がひとつ決まるのがどれだけ有難いか、と母の談)、豪華とは無縁の代物だ。記憶が正しければ、七草の他には、出汁と塩しか入っていなかった。
それが豪華⋯⋯?
今まで私たちが娘に食べさせていた料理ってなんだったんだ⋯⋯?
確かに高価でもないし、華やかさもさほどなかったが⋯⋯七草粥に劣るほどの代物だったのか⋯⋯?
軽く自信喪失しながら、娘の言葉を待った。
「春の七草っていう、七種類の野菜が入ったお粥でしょ?」
「う、うん」
「お粥なのに具が七つも入ってるんだよ!」
「そうだね」
「ママのお粥は卵とネギしか入ってないから、すごいよね」
「え⋯⋯⋯⋯」
意味がわかった気がする。
しかし、風邪のときなどに食べるお粥としては、卵とネギはポピュラーな方で。なんなら実家の母も同じ作り方をするもんで。具材が多いお粥といったら、中華粥みたいな国を超えたお粥になるわけで⋯⋯。
「具が多いから、豪華に見えたの?」
なにをどう言ったらいいか迷っているうちに、同じことを思ったらしい夫が訊ねる。
「うん。知らない野菜がたくさんだった」
「そっかぁ、でもとても身近な野菜なんだよ、春の七草って」
夫が娘に、春の七草の種類、そして七草粥の由来を説明するのを横目に、私は深い溜息を吐いた。
「材料が七つもあれば豪華なのか⋯⋯」
今日の夕飯は八宝菜にしてやろうと決めるのだった。
2021/01/08
春の七草の繁縷、飼ってるインコにお裾分けしてました。