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3分読み切り短編集

七草粥

作者: 庵アルス

「七草粥っていつだっけ」

「あー⋯⋯昨日だね」

 あまりに不毛なこの会話は、私と夫とのものである。

「なになにー?」

 娘が飛び跳ねながらこちらへ来た。冬休みで体力を持て余している彼女は、基本アグレッシブに動き回る。

「んー、昨日、一月七日が、七草粥っていう特別なお粥を食べる日だったよねーって話」

「お粥なら昨日食べたよ!」

 夫が穏やかに説明すると、娘は意外にもそう答えた。

「え、昨日は唐揚げだったじゃん?」

 驚きつつ、私。七草粥なぞ一切頭になかったので、胃を全くいたわらない夕飯である。

「おばあちゃん()で食べたもん」

「あぁ、なるほど」

 私たち夫婦が共働きなので、小学校が休みの娘は昼間、私の母の家に預かってもらっている。そこで昼食にでも出たのだろう。

 面倒を見てくれるのみならず、伝統を教えてくれるなんて、いい母親だなぁと思っていた⋯⋯のだが。

「すっごい豪華なお粥だよね?」

「⋯⋯え?」

 夫と顔を見合わせる。

「え、なにが豪華?」

 実家にいた頃、母が一月七日には必ず七草粥を作っていたが(献立がひとつ決まるのがどれだけ有難いか、と母の談)、豪華とは無縁の代物だ。記憶が正しければ、七草の他には、出汁と塩しか入っていなかった。

 それが豪華⋯⋯?

 今まで私たちが娘に食べさせていた料理ってなんだったんだ⋯⋯?

 確かに高価でもないし、華やかさもさほどなかったが⋯⋯七草粥に劣るほどの代物だったのか⋯⋯?

 軽く自信喪失しながら、娘の言葉を待った。

「春の七草っていう、七種類の野菜が入ったお粥でしょ?」

「う、うん」

「お粥なのに具が七つも入ってるんだよ!」

「そうだね」

「ママのお粥は卵とネギしか入ってないから、すごいよね」

「え⋯⋯⋯⋯」

 意味がわかった気がする。

 しかし、風邪のときなどに食べるお粥としては、卵とネギはポピュラーな方で。なんなら実家の母も同じ作り方をするもんで。具材が多いお粥といったら、中華粥みたいな国を超えたお粥になるわけで⋯⋯。

「具が多いから、豪華に見えたの?」

 なにをどう言ったらいいか迷っているうちに、同じことを思ったらしい夫が訊ねる。

「うん。知らない野菜がたくさんだった」

「そっかぁ、でもとても身近な野菜なんだよ、春の七草って」

 夫が娘に、春の七草の種類、そして七草粥の由来を説明するのを横目に、私は深い溜息を吐いた。

「材料が七つもあれば豪華なのか⋯⋯」

 今日の夕飯は八宝菜にしてやろうと決めるのだった。

2021/01/08

春の七草の繁縷(はこべ)、飼ってるインコにお裾分けしてました。

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