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CORNU1 鬼の降誕

 蒼原(そうげん)。異種族植民暦28年。

 肩節角(けんせつかく)を生やした肩節角(じん)達は蒼原(じん)と交渉し、力づくで和解した。


 しかし、肩にツノを生やした一族なんて、ツノがなければ蒼原人となんら変わらない姿。さほど文化的差異は感じられない。

 ここ最近は二次活気期間によるツノ変態機能で惑星空間の空気……酸素を利用させた亜空間元素『コルネール』を発生させた。

 コルネールガス気体を元にして生成するコルネール装甲板を張り巡らせて、『神の機巧(からくり)』を顕現させたらしい。

 神の機巧は正式名称はレポールコルヌという。

 甲蔵席(コアシート)に搭乗できるのは、顕現させた一族のみだ。部外者の蒼原人に乗れやしない存在。だから『神』なのであった。


 植民化暦起源年から、レポールコルヌは顕現させていて、現在28年では、神の機巧格納デッキを用意する組織体『コルネールターミナル』《通称ターミナル》が開設、惑星各地に多くの支部ターミナルを設置するに至る。

 起源年に力づくで和解というのは、このレポールコルヌの脅威でネェティー《原生民》たちを従わせて戦意のない事を立証させた……早い話、武装勢力の姿を見せて脅しただけだった。そんな子供でもよく判る契約取引なんて、風刺画に描かれた醜態そのものでもあった。


 北北西大陸の北部峠の果てにある村里、ネェティー居住地『サワハウマ』なんて、武力制圧圏下でも支配下に置かれてないほどに影響が薄い集落だった。

 そのためか肩節角人の干渉はまずはあり得ない地域で、何にでも縛られていない世界だ。


 北北西大陸に近い巨大陸地に支部中継局を置く北方ターミナルポイントから、未踏局地へと偵察調査目的の一個小編隊の滞空滑走用レポールコルヌ『クナムジア』の索敵隊が三方に散開しつつ深奥の原野にて徹底しだした。


 その中の1体『イスウァ(しん)』がコースアウト区画に出た。後の分離編隊は、1体圏外調査という勝手な振る舞いなんて、コルネールガス体機能の無線確認が取れないでいた。


「イスウァ(しん)のガス体機能無線が途切れた。イスウァは単体活動を取ったらしい。一度合流する。他2体は付いてこい」


 隊長用クナムジアに搭乗のビテンロが緊急招集をかけた。


「ちっ……連携取れないアマチュア少女(おんな)を起用すれば、こんなものだ。合流は勿論しておくさ」


 エース称号の乗り手、ヤヅーニは、ヤヅーニ(しん)を駆って隊長クナムジアのレーダ熱源を見つけて方向転換した。


 横に太い体躯の乗り手であるショシダは、ショシダ(しん)で脳内が筋肉で出来てるのか、レーダ熱源がなくても野性の勘を働かせてビテンロの呼びかけに応じて方向転換した。


「単体の無断活動は、おいらは許せんぞ。忠実に働かねえと美味い飯は食えんのよな〜」


 一方、イスウァ神は村里を見つけて、肩節角人の管轄下にする為に施そうとした。


「村か? 何とか説得に応じてもらう。否応なしにするのは性分じゃないけど……」


 降下しだす神体の巨人の影。村人たちが怯んでは避難した。


 アナクロ水路で水路出口の竹先から(こぼ)れる生活用水を水資源注入箱にしまう担当者の少年は、そんな巨人の出現なんて情報を知らずにいた。涼しげな表情なのは、すべき勤労に精を入れているからだ。


「鳥や動物が荒々しいな。商業区画方面……何か起きたのか?」


 少年は箱をピドステップ《軽量輸送機》に積み、急いで居住区画へと駆けていった。

 ピドステップ。ネェティー交易商会が、肩節角人と交渉取引した商人兼用肩節角人傘下の役人となって機巧調度品等を仕入れに来る。その時最初に送られる便宜上機巧がピドステップであった。

 役人を通じている為に肩節角人と接触はしていない。

 少年は足腰の負担を軽くする理由だけで導入された調度品を利用していただけだ。


 村里……サワハウマ。その商業区画及び居住区画。軽量輸送機を下車して猛スピードで村長居住ポイントまでたどりついた。


「オウヤナ村長‼ オウヤナ御方はご無事でしょうか?」


 水資源調達を指示した村長補佐の中年男『ゼウセン』が少年を見遣った。


「配達どころでなくなった。ヴロド、お前あの巨人は知ってるか?」

「星の向こう側では神様と呼ぶ伝説の存在と聞く」

「ヴロド……代表として取り入ってこいよ」

「レポールコルヌのクナムジア……何度か星圏(せいけん)資料で確認はした事ある。でも取り入るだなんて……交渉ですよね」

「あんな機巧、古い人間が触れられまい。若いお前だから頼んでいるんだ」

「どうなるかなんて知りませんから」


 ヴロドは巨人の正面に立ち、交渉するサインを送る意味で両腕をばたつかせた。

 乗り手のイスウァは、少年の奇妙な仕草で干渉しようと挙動を仕掛けてみせた。


「あの少年(もの)、取り入るつもり? 無駄だと判らないのかしら」


 挙動行為の巨人を見遣るヴロドは次に背中を向けた。腰を振って尻の部分を回している。


「ウフフ……あっ、笑ったわ、あたし。相手の調子合わせたら騙される。用心……用心‼」


 巨人の膝を折らせて状態を伏せる感じにした彼女。ご神体を見詰める少年は、乗り手がいると思える甲蔵席(コアシート)のハッチカバーに取り付いた。


神制手(セッター)いるんだろう? 出てきて話をしよう」


 イスウァは少年に応じるか迷った。が、話をするくらいはと甘い考えでハッチカバーをオープンさせた。


少年(キミ)、なんか馴れ馴れしいわよ。大人しく管轄下に従ってくれません?」

「初対面の挨拶はそんなものか。呆れたぜ。こんにちはと思った俺が間抜けだった」

「ごきげんようとだけ言わせていただくわ。ん? イスウァ神に集中してくる神影像(シルエット)がスクリーンに投影してきた? 味方のご神体だわ」


 突然にイスウァ神に取り付こうと強制捕獲した隊長クナムジアが巨人の背後から胴体を固定しだした。

 その拍子でヴロドは甲蔵席内部へと引きずりこまれてはハッチが自動的にシャットしてしまった。

 ガス体通信入力をオンしてないからか、無線はオフ状態だ。

 ヴロドがシート空間内で頭を強く打った。


「ってぇ。頭がぁ〜」

「キミ大丈夫? イスウァ神の上体を寝かせたのがまずかったな。だから背中から強制されたわ。ドジしたわ……あたし」

「仲間割れか? じゃ、敵だな」

「誰が敵なものですか、冗談じゃない」

「カメラ向けた時の様子、スクリーンアップされてるよな。どう見ても強制に固定されてるぞ、あんたのご神体」

「固定というより捕捉よ。あたしが独断で個人索敵したから」

「俺が中に入ってんだ。先に降ろせよ」

「今降ろしたら生身のキミを潰す人なのよ、隊長と隊長補佐に汚い巨漢の連中はね」

「このまま俺ごと帰投するんじゃ?」


 ヤヅーニはヤヅーニ神で放火器で発射体制に入っていった。


「隊長、良くご自分の目でご覧くださいませ。この商業区画、どうやら秘密裏に調度品を買い占めて我が産物の取引をしていた様子が伺えます」

「確かに不正で便宜上機巧を入手してる住処と思える。粛正は時間の無駄である。よって焼き払おうぞ。イスウァ、お前も協力して焼き払うが良い」


 回線がオープンしてないイスウァ神の甲蔵席。その指令は彼女のご神体には伝わっていなかった。


「通信を求めるランプだわ。切り替えてなかったんだわ」


 回線を近辺者のみに入力を合わせるイスウァ。


「これで切り替えられる」


 受信データの音声をレコードパネルから聞き取った少女。


「村を焼く? 焼き払うですって?」

「あんた、上司の言葉を信じるのかよ」

「うちの問題よ。口出しは無用よ」


 放火器砲口を隊長クナムジアに向け立ちはだかったイスウァだった。


「イスウァ試験神制手(テストセッター)、砲口を隊長に向けるようには教育した覚えは……ないぞ」

「村の事情を知るのもあたしたちのお役目です。ご理解ください」

「他人の横領品の無断使用など事情にならん。お前が裏切るなら敵とみなすぞ‼」

「そんな……横領品だとしても便宜製品が生活安定になるというのに……隊長はご理解できませんか?」

「ご託は無用。笑止千万とはこの事を言う。よりによって先輩を侮辱したのだ。イスウァ試験神制手……いや、イスウァ・ティラフェリト‼ お前を先に始末してくれるっ。覚悟しろ‼」


 ビテンロ神の放火砲口がイスウァ神のご神体に向けられ構えてきた。

 戦意の欠片もないイスウァは身震いしてシートに座る資格がない様子。その光景を隣で見遣ったヴラドは、彼女をシートから引きずり降ろした。


「何をするのよ。キミはツノのない一族なのよ。乗れないわ」

「覚悟のない人は弱って死ぬ。動物界の掟にも同じものがあるんだ。生物は覚悟なしでは生き抜けないと」

「だからって……無茶よ」

「為せば成るさ。シート借りるよ」


 シートに跨がったヴラド。その時だった。少年自身、神憑きに遭った感覚をおぼえてしまい両肘からツノを発生させてしまったという。


「ツノ憑き現象だわ。強制にシートに乗った所為(せい)よ」

「つのづ……き? どうなるんだよ一体全体」

「このご神体から離れて。でないとご神体と心中しちゃうわ」


 イスウァは、計器類に取り付けてあるハッチカバーのシャットアウト切替スイッチをオンにして開閉させた。


「飛び降りなさい。あたしはもう戦意のない失格者よ。あたしを放っておいてさあ出ていって」


 甲蔵席から飛び出てくる部外者を確認できたヤヅーニは、ヤヅーニ神を駆って、対象を放火器のバーで潰そうとした。

 その瞬間、少年の全身から光が照り輝いた。


「見覚えのある輝き……だと? あれは、顕現する儀式そのものではないか⁉」


 ヤヅーニは怯んでバーを止めて潰し損ねた。

 するとその輝きはご神体の影を創り出し、神の降誕の儀式を完了させた。

 肘のツノを持つ新種のご神体『クードコルヌ』が覚醒した。その咆哮に似たノイズは、まるで赤子の産声そのものだった。


「なんだ⁉ あれは、レポールタイプではない……鬼の化生(けしょう)クードコルヌではないか⁉」


 ビテンロはイスウァ以外の編隊ご神体を引き連れて、戦略的撤退をしだした。


「イスウァ、お前はもう敵だ。だがな、今回は見逃してやる。その生まれたての鬼の化生とつるんで対抗してやるぞ。次回を期待する。その時まで何とか戦力を温存しとくのだな。さぁ、試験神制手たち撤退だ。帰投するぞ‼」


「あっ、隊長……お待ちください」

「あんたら、首がつながっただけでも幸福と思いな、ウヘヘヘヘ〜」


 汚い言葉遣いのショシダは嘲笑して撤退しだした。ヤヅーニは以前から思いを寄せていた為、イスウァの面影が離れられないまま撤退した。


 遠ざかる編隊の敵影。悔し涙のイスウァは少女に戻ったような雰囲気で顕現したイスウァ神をブローチ型の石に収めたのだった。

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