オークって基本緑色らしいんだよね
勇者の力を受け、何とか魔族を退けることに成功した。
壊滅的な打撃を受けた魔族は、這う這うの体で自分達の住処へ逃げ込んだ。
彼らが再び外界へ出るまでに勢力を取り戻すには、向こう数百年はかかるだろうといわれている。
魔族の脅威は、事実上去ったといってよいだろう。
しかし。
それに納得しない勢力も、少なからずあった。
魔族が弱っている今のうちに攻撃を仕掛け、殲滅してしまうべきだ、というのだ。
確かに、人間は魔族に一方的に蹂躙された。
だが、弱っている今であれば、何とかできないこともない。
多大な犠牲を払ってでも、後顧の憂いを取り払うことが必要だ、という主張も、あながち間違っているとばかりも言えないだろう。
現に、総力を挙げて魔族と戦えば、何とか競り勝つことができるはずだ。
もっとも、それは実行しえない事であった。
まず、「人種」側は、魔族が住まう離島に近づくことすらできない。
離島の周辺の海域は非常に荒れており、現在人種が作りえる船ではとても渡り切ることは出来なかった。
危険なのは、波や風だけではない。
この海域は強力な水棲魔獣の巣になっており、近づけばまず間違いなくそれらの襲撃を受けることになる。
現状の人種では、この双方を同時に相手取ることは、不可能であった。
つまり現在の人種では、攻撃を仕掛けることはおろか、魔族が住む島に近づくことすらできないのである。
では、まったく手はないのか。
といえば、そうではない。
たった一人だけ、危険な海域を鼻歌交じりに突破できる人物がいる。
勇者である。
現状の人類種では、魔族の島への攻撃は不可能だ、という「穏健派」に対し。
「魔族殲滅論者」の多くは、勇者の存在を持ち出してくる。
勇者がその気になれば、魔族の殲滅など簡単なはずだ。
ならば、どんなことをしてでも勇者の力を借りるべきである。
恐ろしく他力本願な主張ではあるが、魔族を滅ぼそうとすれば、それぐらいしか方法が無いのも事実だ。
もっとも、勇者としてはどんなに頼み込まれたとしても、魔族を滅ぼすつもりは全くなかった。
混乱を避けるために情報の一般公開はされていないが、「魔族を滅ぼすことができない理由」があるのだ。
それを知っているのは、ごく限られたモノ達だけである。
ゆえに、魔族殲滅論は実現不可能であるのだが、それを唱えるものは後を絶たない。
中には弁が立つモノもおり、まるで正論であるかのように語られることもあった。
にもかかわらず、多くの権力者から無視され続けることで、そういった論調のモノ達の不満は次第に高まりつつある。
そうなってくると、時に過激な行動に出ようとするものも現れるようになっていった。
腰の重い国家中枢を飛び越えて、直接勇者に談判しようというものが、現れ始めたのだ。
だが、「魔族を滅ぼすことができない理由」を心得ている勇者は、全く気聞く耳を持とうとしない。
業を煮やした「魔族殲滅論者」の中には、強引すぎる手段に出るものも、現れ始めていた。
森の中を走り抜ける黒塗りの馬車っ!
その左右を守るのは、騎乗した騎士六人であるっ!!
なんかシリアスで悲壮感たっぷりな感じで走る彼らだったがっ!!
それもそのはずっ!
なんかすげぇーでっかいダチョウみたいなやつに跨ったっ!
2mぐらいある緑色の肌をしたブタっ鼻の人達にっ!!
追われていたからであるっ!!!
「オークっ! オークですよお嬢様っ!! 捕まったらヒドイことされるに違いありませんっ!」
叫ぶ侍女の人っ!
黒塗りの馬車は、リーヴェエルダの乗ったものだったのだっ!
周囲の騎士達はかなりマジな感じになっているのだが、侍女はなぜか若干嬉しそうだったっ!
なぜならっ!
オーク族に追われるのとかっ!!
物語の定番シチュエーションだからであるっ!!!
ちなみにっ!
この世界でのオーク族は、「人種」として数えられる理性的な種族であるっ!
ただ、体格が良く腕力もあるので、傭兵や肉体労働者として活躍する種族であった!
それゆえっ!!
なんかそうい感じのエロい本とかでは、なんやかんや題材にされたりするのだっ!
しかしながら昨今の「種族差別撤廃運動」的なやつでなんやかんやあって、そういうのを公の場で口にしたりすると袋叩きにあったりするのであるっ!!
ファンタジー世界もいろいろ難しいのだっ!!!
「統一した武装に連携した動き。おそらく軍人か職業傭兵の方々でしょう。誘拐目的なら身の安全は保障されるでしょうし、暗殺目的なら酷いことをされる以前にさっぱり殺されます」
「なんでお嬢様そんなに冷静なんですか!?」
「騒いでどうなるものでもありません。むしろ邪魔になりますから。静かにしているのが一番です」
つい先日まで魔族と戦争していたのであるっ!
身分ある貴族家の娘であれば、このぐらい度胸は座っていて当然なのだっ!!
「でも、あのオークが持ってる武器、変な形していますね」
「たしかに、そうですね。どこかで見た覚えがある形なのですが」
そこでっ!!
リーヴェエルダの表情が凍り付いたっ!
武器をどこで見たのか、思いだしたのだっ!!
「魔族が使っていた武器に形状が似ている?」
そうっ!
オーク達が使っている武器は、魔族が使っていたもののレプリカだったのだっ!
特に特殊な能力とかはないが、なんか妙に特徴的な形状をしているので、割とぱっと見で判断できる種類の奴なのであるっ!
「なんでまたそんなものを持っているのでしょう?」
「まさか、過激派の方でしょうか」
「過激派、と言いますと?」
「絶対に魔族を滅ぼすべきだ、という方々の総称です」
「なんで魔族の武器を持ってると、そういう連中かもしれないとなるのです? 滅ぼしたいほど嫌っているなら、むしろ連中の武器を使うのは嫌がるのでは?」
「魔族の武器で私達が惨殺されたら、勇者様はお怒りになるかもしれない。と、思いません?」
「へ?!」
「もしかしたら、そういう筋書きを考えているのかもしれない、ということですよ」
実際っ!
その通りであったっ!!
勇者の嫁になる予定のリーヴェエルダをっ!!
魔族の武器で殺害っ!!!
勢いに任せてこれを魔族のせいにしてしまえば、勇者はブチ切れて魔族をせん滅するはずっ!
そんなガッバガバな青写真を描いているのであるっ!!
リーヴェエルダの説明を聞き、察しの悪い侍女はなるほどと手を叩いたっ!
「って駄目じゃないですかぁ!! もし本当にそうだとしたら、捕まったら百パー殺されるってことですよね!?」
「なるだけ惨たらしく殺されるでしょうね。怒りをあおるのが目的ですから。でも、魔族が人種を殺す場合、ただただ命を刈り取るだけで、他のことに興味はないそうですから。そういう意味では安心ですね」
「安心じゃありません、何一つ!」
「とりあえず、静かにしておいた方がいいですよ。貴女の叫び声で指示がかき消されて、騎士の方々が後れを取ったりしたら大変ですから」
侍女は慌てて、両手で口を塞ぐっ!!
もちろん、箱馬車の中で騒いだところで、さして外に影響はないだろうっ!
単にっ!!
リーヴェエルダにとってうるさかったから、黙らせただけだったのであるっ!!!
しかしっ!
このままではマズいというのも、偽らざる事実であったっ!
護衛についえいるのは、腕っこきの騎士六名であるっ!
それがこのように逃げの一手に回っているということは、相手の戦力がかなりのものであるという証拠だろうっ!
意外とのっぴきならない状況なのであるっ!!
リーヴェエルダが落ち着いているのは、ひとえに彼女が受けてきた貴族教育の賜物と言えるだろうっ!
と!
その時であるっ!!
響き渡る爆音っ!!!
揺れる黒塗りの馬車っ!!!
シェイクされるリーヴェエルダと侍女っ!!!
「キャー!!! なにごとですかぁあああ!?」
悲鳴を上げて床に転がっている侍女をしりめに、リーヴェエルダは窓から外の様子をうかがったっ!!
後部ガラスの向こうに見えたものっ!!
それは、マントをなびかせた男の後ろ姿であるっ!
貴族であるリーヴェエルダは、この後ろ姿に見覚えがあったっ!!
王城のでのお披露目の際、遠目に見たことがあるその姿っ!!!
「あれは、勇者様?」
とはいえ、後ろ姿であるっ!
それを見て咄嗟にそう考えたのは、ほとんど勘のようなモノであったっ!
しかしっ!
この勘はっ!!
的中していたのであるっ!!!
馬車追跡中に、文字通り飛び込んできた勇者っ!!
これに驚いたオーク達は、息を呑んだっ!!
先頭に立っていた頭目オークが、震える声を絞り出したっ!!!
「お、おめさ、ゆうしゃさぁでねっかんべなぁ! なすて、なっすてごっただどこにおめさがおるだかぁ!」
なんて!?
そう思った方も多いだろうっ!!
オーク族は頭蓋骨の作りとか方便とかなんかそんなような関係で、メタメタ聞き取りにくい独特の言葉を使うのだっ!!
勇者は険しい表情のまま、口を開くっ!!
「なすてもこすてもねっかんべやぁ! おめだづごそなすてこっただところでこんなこつすとるだぁ! もうようへいすごどさすねぇっていうてたべなぁ!」
そうっ!
勇者も独特な言葉のっ!!
使い手だったのであるっ!!!
そしてっ!
このオーク達と勇者はっ!!
顔見知りだったのであるっ!!!
このオーク達は、元々は農民であったっ!
だが、魔族が襲ってきた戦争当時、村や田畑を焼かれてしまったのであるっ!
そんな状況になった農民達が、食い扶持を稼ぐ方法など限られていたっ!
武器を手に、日に幾らというような命を張った兵卒仕事をするしかなかったのだっ!!
たまさかそんな彼らと同じ戦場に立った勇者は、一緒に酒を飲んだりして意気投合っ!!
アレコレと話をする中になっていたのであるっ!
もちろん、間に立ったのはおっさんであったっ!!
ここから先の会話は、教科書の翻訳風の文章でお楽しみいただきたいっ!
なぜならそのままを文章にしてもっ!!
何言ってんだか全然わかんないからであるっ!!!
「あ、あなたは、勇者さんではありませんか! どうして、どうしてこんなところにあなたがいるのですか?」
「どうしてもこうしてもありません。 あなた達こそどうしてこんなところでこんなことをしているんですか。 もう傭兵仕事はしないといっていたではありませんか」
なんかこう、無機質な同時通訳音声で脳内再生していただきたいっ!
そこに超早口で聞き取れない津軽弁とかのイメージを重ねて頂くとっ!!
より楽しんでいただくことができるのであるっ!!!
「これには、深い事情があるのです」
「いったい、なにがあったのですか」
「戦争が終わり、私達は村に帰りました。平和に暮らしていたのですが、突然、兵隊が現れたのです」
「その兵隊は、村の女子供を人質にしました。そして、ここを通る馬車を襲えといったのです」
「襲わなければ、人質はチャーシューにすると脅されました」
「私達はブタではありません」
「あの戦で死んでいった仲間の、妻子も捕まっています」
「私達は必ず護と約束しているのです」
「なんっでばはぁ、すぉっただごどにぃ…‥」
最後の勇者のつぶやきは、翻訳さんが聞き漏らしたものであるっ!!
とにかく、のっぴきならない状況になっているらしいことは、勇者も理解したっ!
一刻も早く、詳しい事情を聴かなければならないっ!
しかしっ!
それには黒塗りの箱馬車が邪魔であったっ!
家紋のようなモノが付いているのを見るに、おそらく貴族であろう!
勇者的に貴族というのは、何やかんやうるさいし、話をややこしくするやつらとしか認識していなかったっ!
実際、戦時中は結構足とか引っ張られまくって若干キレ気味になったこととかもあったぐらいであるっ!
ここはとりあえず、さっさと馬車を行かせてしまうのが良かろうっ!
そう判断した勇者は、オーク達を待たせて置き、馬車に近づいていったっ!
近づいていくと、どうやら騎士達は勇者のことを知っているらしく、敬意を示す敬礼の姿勢を取っているっ!
勇者も軽くそれを返すと、騎士の一人に話しかけたっ!!
「あのー、ちょっと込み入った感じになってましてぇ。なんていうか、ここから早いところ逃げてもらえると助かるかなぁー、って」
困惑する騎士達っ!
状況が呑み込めていないので、どうしていいかわからないのだっ!
「構いません。勇者様がそうおっしゃっているのですから、出してください」
そういいながら、馬車の中から一人の女性が下りてきたっ!
リーヴェエルダであるっ!
その姿を見た勇者はっ!!
「あ、はっどっどうも……」
めちゃくちゃテンパっていたっ!!!
日本時代、異世界に来てから共に女性との接触は娼館ぐらいしかなかった勇者にとってっ!
生身のご令嬢は刺激が強すぎたのだっ!!
「このような状況ですので、手短に。私はリーヴェエルダと申します。わけあって、家名を名乗ることが今はできませんが、お許しください」
「あ、いえ、その、はい。あ、勇者の、えーと、山田一太郎といいます」
そうっ!
勇者の本名は山田一太郎であったっ!!
中学時代のあだ名は、ワープロソフトであるっ!!!
「なにか事情がおありのご様子。元々、私どもは勇者様へお目通り頂く予定でおりましたし、事情はその時に」
「え? あ、そ、っすね。はい。えっと、なんていうか、はい。じゃあ、その、えー、そのときに。おねがいします。はい」
リーヴェエルダを乗せた馬車と護衛の騎士達は、足早に立ち去って行ったっ!
少し前まで戦時下だったこともあり、こういう融通は利く騎士が多いのだっ!
「あの子、めちゃくちゃかわいかったなぁ。っつーか、リーヴェエルダってどっかで聞いたんだけど。どこでだっけか」
そうっ!
勇者は自分の婚約者の名前をっ!!
忘れていたのであるっ!!!
っていうか貴族の名前は割と似通ったのが多すぎて、ただでさえ訳が分からなくなりやすいのだっ!
外人さんには「家重」も「家治」も同じように聞こえてしまうらしい現象と、同じようなものといえるだろうっ!!
「いや、そんなことよりもこっちだ、こっちっ! おめさだづっ! すぐぬむらさいっでよめっごやらこどもらやらだすげるべぇ!」
いうが早いか、勇者はオーク達の元へ走ったっ!
移動しながら事情を聴き、少しでも早く村へ駆けつけるためであるっ!
勇者がリーヴェエルダのことを思いだすのは、もう少し後のことであったっ!
そして、リーヴェエルダ達はっ!
何も知らないおっさんが一人でだべっている屋敷へ向かったのであったっ!
リーヴェエルダたちへの対応はっ!!
おっさん一人に託されたのであるっ!!!