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冒険者色々

 壁に神棚っ!

 派手なランプにっ!!

 イカした刀剣っ!!!


 それがっ!

 コルテス一家のっ!!

 インテリアであったっ!!!


「ヤクザじゃぁねぇかあああん!?」


 勇者、絶叫っ!!

 もちろん心の中でのことであるっ!


 勇者とおっさんは、コルテス一家の事務所に来ていたっ!

 一応来客用のソファーに腰かけている勇者だがっ!!

 周囲はコルテス一家のメンツによって囲まれているっ!


「チクショウっ! ヤクザが多くて床が見えないっ! ヤクザが七分で、床が三分! ヤクザが七分で、床が三分だ!」


 もちろんっ!

 心の声であるっ!!


「ねぇ、おっさん。なんで俺達ここにいるのかな。もうおうちに帰りたいよパトラッシュ。パトラッシュってパトカーがラッシュしてるみたいな名前だよね。俺、最初聞いたとき絶対変形ロボット物のキャラの名前だと思ったもん」


「怖いのよ、目が。焦点合ってないじゃん。なになになに、もう。落ち着けってば、だから」


「おちつけないよ! 落ち着けるわけがないよアイツら飢えた狼なんだ! 魂が羊側の俺なんて一瞬で餌よっ!」


「お前エサになんてならねぇよ。勇者だろうが。ここにいる奴らぐらい土地ごと吹き飛ばせるだろうに」


「確かに肉体的には負けないよ!? 俺のぱうわぁーなんかバグってるぐらい激ツヨだから! でも違うの! 体は無敵でも心は最弱なの!」


「メンタル面の弱さ。心の防御力低すぎだろお前。だーいじょうぶだから、絶対。腕を振るっては敵を消し飛ばし、足を蹴りだしては目の前に立ちはだかる全てを打ち砕いてきたでしょうよ」


「何その滑らかなセリフ回し。でもさぁあああ! 最悪俺は逃げたとしてさぁあああ!」


「逃げるっていうかお前、この辺り盆地にできるだろ」


「おっさんどーするんだよぉおお!」


「俺だって一応B級冒険者だぞ。一人でどうにでもなるわ」


「だってB級って正直微妙じゃん。SSSランクとかならともかくさ」


「なんだそのえすえすえすって。お前ね、B級バカにすんなよ。普通の店で料理頼んだら、その店で一番高い料理頼むのと同じぐらいすごいんだぞB級ってのは」


「は? じゃあ、A級は?」


「その店のシェフを家に呼びつける」


「マジかよすげぇ。え、じゃあ、Sは?」


「店ごと買う」


「やっべぇ、Sランク舐めてたわ」


 どうでもいい話をしている間にもっ!

 コルテス一家の冒険者達の緊張感はっ!!

 高まっていたのであるっ!!!

 どうやら、ついにコルテス一家の長がっ!!

 顔を出すようなのだっ!!!


 ちなみにっ!

 最初から一家の家長が顔を出さなかったのはっ!

 なんかそういう伝統だからであるっ!!


「勇者様、うちの大将が参りやす」


 めっちゃスキンヘッドで顔面に傷跡がある人に言われっ!

 勇者は心底震え上がったっ!!

 顔面に傷がある人に近づかれると、めっちゃ怖いのであるっ!!!


 勇者がガクブルしている間にっ!

 コルテス一家はドアの前に整列っ!

 漂う緊張感っ!!

 ビビり散らす勇者っ!!!

 割と平然としているおっさんっ!!!

 そして、ついにっ!

 コルテス本人が現れるっ!!!


 キンッキンのパツ金頭っ!

 キメッキメのヘアスタイルっ!!

 実用性がるのかないのかわからない薄色のグラサンっ!!!


「えっ。そんな柄のスーツ、どこで売ってますの?」


 って素で聞きたくなっちゃうような奇抜なスーツっ!

 そしてっ!!

 何かよくわからんもっさもさのファーが付いたコートっ!!!


 ある意味パーフェクトスタイル!!!


 勇者はドン引きであるっ!!

 だが!

 それ以上に、コルテスの表情がおかしかったっ!!

 何かにしこたま驚いた様子で、あんぐりと口を開けているのだっ!!

 その視線の先にいるのはっ!!

 おっさんであるっ!!!


「あれ? ソーマじゃん。お前何やってんの」


「お、おっさん!?」


 コルテス一家の頭とっ!

 おっさんはっ!!

 知り合いだったのであるっ!!!




 この世界に生きる人間には、不思議な力を持つものがいる。

 魔法と呼ばれるそれらを扱うことができるものは、大きく二種類に分けられた。


 最も多く、というより一般的に認識されているのは、長年の知識蓄積によって確立された方法で「魔力」と呼ばれる生体エネルギーを操り、現象を起こすもの。

 そして、極々稀に存在する、誰に教わるわけでもなく、生まれながらに「魔力」で特殊な現象を起こすもの。


 前者が、いわゆる魔法使いと呼ばれるものである。

 ある程度の魔力を持ち、それを制御しうる才能があれば、習得することが可能だ。

 一般的に知られる魔法と言えば、これのことを指す。

 ヒューマンの人口の、約九割以上が魔法を扱うことができ。

 三割程度が、攻撃魔法などのような強力な威力を発揮することができる、と言われている。

 

 対して後者は、魔法使いと区別して「特殊能力者」などと呼ばれることもあった。

 彼らは、本来技術として習得するはずの魔法を、生まれながらに扱うことができる。

 発動させることができる魔法は、たいてい一つ切り。

 だが、その一つしか扱えない魔法は、技術としての魔法の限界を容易く凌駕する、恐ろしく強力なものばかりであったのだ。


 その強力な力ゆえに、特殊能力者は人々に恐れられた。

 理解不能な上に、魔法では再現不可能な力を振るう存在である。

 恐れるなというほうが無理だろう。

 多くの国で、特殊能力者は生まれ次第国の管理下に置かれるか。

 あるいは、虐げられて生活していた。

 子供のころのソーマの境遇は、その後者だったのである。


 生まれて間もなくの子供は、教会で洗礼を受けることになる。

 その時、魔力の量やら、祝福を受けているかなどを調べることになっていた。

 実によくできたシステムで、これによって早い段階で様々なことが分かる。

 例えば、その子供が将来的に危険な存在になるかどうか、とか。

 恐らくは、その時に特殊能力者であることが分かったのだろう。

 生まれて数か月か、あるいは一歳程度の時だろうか。

 ソーマは、孤児院の前に捨てられることになった。


 孤児院というのにもいろいろある。

 子供が大切にされているところもあるだろう。

 残念ながらソーマがいた場所は、そういう種類の孤児院ではなかった。

 十歳になるかならないかの頃、ソーマは自主的にそこを出ることにする。

 まともに食事もできないし、凍えながら寝るのであれば、外に出たところで変わらないと考えたからだ。

 出るついでに、調理用のナイフ数本と、少々のコインなどを頂いた。

 門出の祝いとして、この程度はもらって置いて然るべきだ。

 その位のことが許されるようなことは、連中にされたとソーマは思っている。


 孤児院の合った町を出て、街道に沿って歩いた。

 十数日歩いて、居心地のよさそうな街を見つけ、住み着くことにする。

 居心地がいいというのはつまり、子供の浮浪者がいても誰も気に留めない様な場所、という意味だ。

 世間的に見れば、碌な町ではない。

 だが、そんな場所でなければ、居場所のないものもいるのだ。


 捨ててあるものを拾ったり、奪ったり、盗んだり。

 食べ物を確保する方法はいくらでもあった。

 人間がいる場所ならそういったものはある程度集まるもので、やり方さえ間違えなければ飢えることもない。

 うまく立ち回っていると、おこぼれにあずかろうとする連中が寄ってくる。

 そのうち、それなりに頭の回る奴、腕っぷしのある奴も集まってきた。

 一人より大勢の方がやることは大きくなり、食べ物も手に入りやすくなっていく。

 そうなると、今度は別の欲が沸いてくるのが人間だ。

 あれがしたい、これが欲しい。

 欲求を満たすには、金が必要だった。

 多少の金ぐらいなら、簡単に手に入る。

 だが、まとまった額となると話は別だ。

 そういう大きな金を手に入れる方法などは、ごく限られている。

 盗んだとしたら、どうだろう。

 成功したとしても、盗られた連中に追われることになる。

 一気に稼ぐ方法など、限られているのだ。

 色々考えた末、一つの方法に行きついた。

 冒険者だ。


 命を張る分、場合によってはもらいが多い。

 それが冒険者という仕事だ。

 一攫千金のというわかりやすいエサがあるから、命がけの仕事でもなり手が絶えない。

 ソーマは、冒険者になった。

 小器用でそこそこに頭の良かったソーマは、すぐに稼げるようになる。

 命さえ張れば、金を稼ぐというのは案外簡単だった。

 月日が経つごとに、周りに集まっていた連中はそれぞれ別々の場所に散っていく。

 町を離れてみならい職人になるものや、ソーマが居た所よりましな孤児院に行くものもいた。

 新しい場所が見つかるなら、こんなところにいる必要はないだろう。

 その方がずっといい。

 また一人になったが、気楽でよかった。

 ただ、一人で稼げる額というのはたかがしれている。

 人数が必要な大仕事の方が、稼げる金額は大きい。

 普段は一人で動いている冒険者だが、時に他の連中と仕事をすることもある。

 ソーマも誘われ、そういう仕事に加わることが増えてきた。


 極稀に現れる、雪山の魔物。

 その毛皮はもちろん、血肉骨に至るまで、すべてが高額で取引される。

 これを討伐することができれば、利益は莫大だ。

 十人がかりだったとしても、一人頭の取り分はかなりのものになる。

 ゆうに三年は楽に暮らせるだろう。

 金に飢えたものが飛びつきそうな話だ。

 つまり、その魔物を狩るパーティに加わらないかという誘いに、ソーマは飛びついた。

 まだ若いソーマだったが、特殊能力者であったことが、誘われた理由だ。

 ソーマの特殊能力は、魔獣などと戦う時に非常に有用なものであった。

 負けるはずがない。

 簡単に大金が手に入る。

 誘われたときのソーマには、そうとしか考えられなかった。


 雪山の魔物が高額で取引されるのは、相応に理由がある。

 狩猟場所への移動の困難さ。

 輸送の難しさ。

 そして、何よりも。

 魔獣そのものが恐ろしく強力であること。

 ソーマとソーマを誘った冒険者達は、そのことへの認識が甘すぎたのだ。

 まるで話にならなかった。

 思いつく限りに事態に、用意しうる最高の装備をそろえたのにも関わらず。

 案山子か何かを薙ぎ払うように、ソーマ達の一団は叩き潰された。

 文字通り、叩き潰されたのだ。

 万全に戦う準備を整え、じりじりと接近していった。

 もう少しで、こちらの攻撃距離というところで、攻撃を受ける盾役の上半身がはじけ飛んだ。

 魔物の腕の一振りで、である。

 何とか立て直そうとしたが、まったくの無駄だった。

 地力の差がありすぎたのだ。

 さらに三人が雪上に広がる赤い染みになったところで、残ったもの全員が我先に逃げ出した。

 当然だろう。

 誰だって死にたくない。

 だが、こういう時は必ず逃げ遅れるものが出る。

 この時は、それがソーマだった。

 それでも何とか助かろうと、遮二無二攻撃を繰り出しながら逃げ回る。

 皮肉なことに、それがかえって魔物の興味を引いてしまった。

 逃げに逃げてが、ついに魔物の一撃を受けてしまう。

 命はとりとめたものの、瀕死の重傷だ。


 ああ、死ぬんだな。

 クソみたいな人生だった。


 笑いが込み上げてきた。

 捨てられて、捨てられて、ついに魔物のエサか。

 ある意味お似合いの死にざまなのかもしれない。

 喉からこみあげてくる血で咽ながら笑った、その時だ。


「あー!! くそさみーなぁ!! どこだよここ! つーか、はぁ!? なんだこの状況!? クマ!? クマかお前! クマに襲われてんのかこれ! おい、ガキ! テメェ生きてんのか!?」


 見ず知らずのおっさんだった。

 どこからともなく現れたそのおっさんは、襲ってくる雪山の魔物に真っ向から向かっていく。

 殺されるぞ。

 そう思ったが、実際にはそうはならなかった。

 おっさんは手にしていた斧で、魔物の頭をたたき割ったのだ。

 ソーマ達にとって魔物は、桁違いに格上の相手だった。

 そして。

 魔物にとってそのおっさんは、桁違いに格上の相手だったのだ。

 こんな奴が、世の中に入るのか。

 なに特殊能力者だ、俺の力なんか少しも特別じゃないじゃないか。

 冗談じゃない、俺の自信のよりどころは、なんだったんだ。

 ソーマの意識は、そこで途絶えた。


 気が付いたら、ソーマは治療院のベッドの上で寝ていた。

 慌てて置きあがるが、体には痛みなどはない。

 すぐにやってきた治療師が言うのは、運び込まれたときにはすでに外傷はなかったという。

 相当に高価な魔法回復薬を使われたのだろう、ということだった。

 訳が分からないうちに、雪山で出会ったおっさんがやってくる。


 薬使った分働け、コラ。


 嫌だと云おうにも、相手は雪山の魔物も敵わない様なおっさんだ。

 なにより、命の借りがある。

 ソーマにある選択肢は、頷くことだけだった。


「冒険者なら、カッコつけろ」


 常々、おっさんはそう行っていた。

 どういうことなのか、意味が分からない。

 困惑するソーマに、おっさんは語る。


「よく言うだろ、品が悪いだの品がいいだの。そりゃ品なんてのはいい方がいいに決まってるが、あんなもんは生まれ育った環境が物を言うんだよ。非常にありがたいことに、冒険者やってるやろうなんてなぁ、大体生まれも育ちも卑しいと来てる。お前がどうだったかは知らねぇが、少なくとも俺はそうだ」


「品ってのはつまるところ行動規範だと俺は思ってる。アレをやっていいこれをやっていい見たいな基準だな。メシを音立てて食うのは品が悪い、かっぱらうのは品が悪い。まあ、違うかもしれねぇけど。それはそう理解してる」


「よく勘違いしてるやつがいるが、冒険者ってなぁ、冒険を売り買いして生きてるんだ。他人や自分の冒険を金で売り買いしてんだな。冒険ってな要するに危険な仕事のことだ。つまり、俺ら冒険者は“冒険屋”で、一種の商人ってことだ」


「商人ってことは他人とやり取りしなけりゃならない。大体、金が絡むことしてんだ。ある程度は他人と話さにゃならねぇ。その時に必要なのが品なわけだが、俺らにゃそれがねぇ。なら、どうするか。なんか代わりになる基準がいるわけだ」


「それがまぁ、かっこいいかカッコ悪いかだ。それなら俺らにもわかる。慌てて飯をかっ込むのはカッコいいか? 細かい難癖付けて依頼料釣りあげようってやつはどうだ。俺らだってわかるようなクソ汚ねぇ格好で依頼人と会うのはどうよ」


「精一杯カッコつけろ。でもって見栄を張れ。それに金が必要なら稼げ。安心しろ、冒険者がカッコつけて見栄を張れるぐれぇの金なんてなぁ、いっぱしの冒険者になりゃすぐに稼げる」


「いっぱしの冒険者ってのはだな、つまり。カッコが付いてる冒険者のことだ」


 そんな話を、毎日のように聞かされた。

 実際おっさんはカッコつけしいだ。

 自分もそんなに金があるわけでもないのに、困ってるやつを見たらすぐに金をくれてやる。

 争いごとには必ず首を突っ込む。

 頼まれたら、まず断らない。

 そのくせ見栄っ張りで、自分が困っているところや疲れているところ、弱ってるところなどは、絶対に他人に見せない。

 どうもそれがかっこいいと思っているらしい。

 正直バカだと思う。

 付き合ってられないと思うが、おっさんはソーマを逃がしてはくれなかった。

 何度も逃げようとはしたのだが、実力差がありすぎる。

 毎日毎日よくわからん話を聞かされ、ついでに死ぬほど扱かれた。

 お前には薬の分稼いでもらわにゃならねぇが、冒険者が稼ぐには腕っぷしがいる。

 だからさっさと強くしてやろう。

 それがおっさんの言い分だった。


 ひたすら走らされた。

 冒険者は荷物を運ぶのも仕事のうちだからと、なんかやたら思い背嚢を背負わされて、やたらめったらに走る。

 へとへとになったところで、武器の素振りだ。

 槍、剣、盾、こん棒。

 色々な武器を練習させられた。

 戦う場所を選べない冒険者は、どんな武器でもある程度扱えた方が死ににくくなる。

 相手に合わせて武器を選べるぐらいになれ、というのがおっさんの言い分だ。

 それについては、なるほどと思う部分が無くもない。

 獲物は様々な形をしているし、場所も時と場合によって違う。

 色々な武器を使えれば、確かに便利なはずだ。


 訓練の合間に、ソーマはおっさんと共に依頼を受けるようになる。

 おっさんは仕事をするとき、ソーマをどんな場所にも連れていった。

 依頼人と話をするとき、必要な道具を買うとき。

 そのほか、どんな所にも連れまわした。

 はじめはうっとおしいだけだったが、そのうちおっさんの、というより、冒険者の仕事というのが見えてくるようになる。

 おっさんは態度もめちゃくちゃだし言葉遣いも悪いが、少なくとも雪山の魔物をやろうとしていた時のソーマよりましだった。

 何倍も、何百倍もまともに仕事をしていると、近くで見ているからこそ思うようになってくる。

 冒険者の仕事というのは、こうやってやるのか。

 そのうち、おっさんに連れまわされるのも訓練の一つなのだと気が付いた。

 実地でやり方を学んでいるわけだ。

 そんなことをしていると、方々で顔を覚えられるようになった。

 おっさんが連れてるガキとして、知られるようになってきたのだ。

 冒険者ボルクガングが連れているガキ、というだけで、誰もソーマを邪険に扱わなかった。

 一人で冒険者をしていたころには、考えられないことだ。

 おっさんはソーマと同じぐらい口は悪いし、態度も悪い。

 お世辞にも顔がいいとは言えないし、まぁ、他にもいろいろと残念なところがある。

 だが、皆口々に「あの人には世話になったから」とか「困った時は頼りになるからなぁ」などという。

 いつかおっさんが言っていた、カッコつけと見栄。

 ソーマはまさに、その恩恵にあずかっているということだ。

 時間がたつにつれて、それを実感していく。

 おっさんはカッコつけしいだし、見栄っ張りだ。

 自分が辛かろうが頼られれば腕を貸すし、困っている人をほおっておかない。

 だれかが、「あの人はおせっかい焼きなんだよ」と言っていた。

 本当にそう思う。

 こんなガキを連れまわして、何がしたいんだか、まったくわからない。

 なんの得があるんだろうと思う。

 きっとおっさんは、聞いたところで「うっせっ!」とぐらいしか言わないだろう。

 おっさんやたらカッコつけで、見栄っ張りで、驚くほどおせっかい焼きなのだ。


 おっさんに連れ歩かれるようになって、一年ほどが過ぎた。

 いつものように仕事へ向かうのだが、どうもおかしい。

 歩いている道が、違うような気がする。

 ソーマは悪態をつきながら、おっさんの持っている地図を覗き込み、頭を抱えた。

 おっさんは間違いなく一流の冒険者なのだが、どういうわけか地図を読むのだけは苦手だ。

 何度か行ったところや近いところならともかく、初めて行く遠いところに行こうとすると、まず間違いなく迷う。

 今回は前に行ったことがある場所だから大丈夫と言っていたのだが、すっかり油断していた。

 よくよく話を聞けば、その時は馬車に乗っていて、酒も入っていたという。

 周りを見回せば雪が降っていて、森だか山だかの中のようだった。

 冒険者がいるようなところというのは、基本的に人里離れた場所だ。

 ちょっと人の居る場所から離れると、すぐに森やら山やらの中に入ってしまう。

 だからこそ冒険者の稼ぎブチもあるのだが、こうなると文句の一つも言いたくなる。

 ああでもないこうでもないと歩き回っていると、何か動く気配がした。

 身構えたソーマだったが、現れたものの姿に、全身が凍り付く。

 雪山の魔物だった。

 一年前にソーマがほかの冒険者連中と一緒に狩ろうとした、あの魔物だったのだ。

 おっさんに鍛えられた今だからこそ、わかる。

 目の前にいるこれは、自分とは桁の違う化け物だ。

 歯の根が合わない。

 ガチガチと不快な音がする。

 自分の歯が成る音だ。


「なっつー面してんだ」


 おっさんの声に、振り返る。


「カッコつけろ。見栄を張れ」


 ふと、肩の力が抜けた。

 そうだ、カッコ悪くブルってどうする。

 こんな奴どうってことないと、見栄を張ってやれ。

 笑って見せろ。

 ソーマは無理やり、笑顔を作った。

 だんだん気持ちが落ち着いてくる。

 そうすると、不思議なことに気が付いた。

 確かに肉体的には、ソーマよりよほど力のある化け物だろう。

 だが、魔力はどうだ。

 大したことなさそうじゃないか。

 ソーマの特殊能力が破られたのは、あの肉体のせいだったのだ。


 ソーマの特殊能力は、空間を満たす魔力だ。

 なにもない空間が汚泥のように相手の体に絡みつき、動きを阻害する。

 首や呼吸器にも絡みつき、時間をかければ窒息も狙うことができた。

 一見すさまじく強力な能力だ。

 これさえあれば無敵だと思っていた時期もある。

 だが、世の中にはそんな力を、少々動きにくいかな、程度で済ませてしまうやつらがいるのだ。

 この雪山の魔物や、隣にいるおっさんである。

 特殊能力の中を突き進んでくる魔物を見ただけで、あの時のソーマは戦意を喪失してしまった。

 切り札で、最大の武器で、それが破られたらソーマにはなんの武器もなかったからだ。

 だが、今ならどうだ。

 おっさんに鍛えられ、武器の扱いを覚えた今なら。


「うっせぇーよ、おっさん! 見てろ、アイツ狩ってくっからよぉ」


 カッコつけた、見栄を張った。

 本当は心のどこかがまだビビってるし、顔だって引きつってる。

 だが。

 やってやれないことはないと、確かに思った。


 結局、仕事先へは雪山の魔獣を引きずっていくことになった。

 バカみたいにデカい魔物だったが、意地になって運んだ。

 おっさんと一緒に動くようになって、初めて一人で狩った獲物だった。

 依頼人に遅れたことについて頭を下げて、急いで仕事に取り掛かる。

 化け物と戦ってグダグダに疲れているはずだったが、きちんと体が動いた。

 鍛えた成果、だったのかもしれない。


 冬が開けて、ソーマはある大手のパーティに入ることになった。

 おっさんの顔見知りだそうで、若手を探していたらしい。

 ソーマはそこで、世話になることになったのだ。

 元々、おっさんは一人で冒険者をしていた。

 薬の代金分は、雪山の魔獣でチャラになったらしい。

 別れ際、おっさんは鞘付きのナイフを「やる」と言って投げてよこした。

 挨拶らしい挨拶は、特にない。

 あとでわかったことだが、そのナイフはとあるダンジョンのボスの牙から削り出した恩寵品で、金額を聞いたら気絶するような代物だった。


 パーティに入ってすぐは、先輩達にやたらと驚かれた。

 ガキのくせに礼儀がしっかりしてるとか、作法をよく知ってるとか。

 どれもこれも、おっさんに連れまわされたときに覚えたことだ。


 あの一年と少しの期間で、おっさんは色々なことをしえてくれたのだろう。

 冒険者としてアレコレやら。

 人としての生き方やら。

 雪山の魔獣に殺されかけて、良かったのかもしれない。

 ソーマは今、生まれて初めて、人間として立って歩いているような気がした。

 冒険者として。

 カッコつけて、見栄を張って。




「あの後、おやっさんに一人立ちを認めてもらいましてね。ファミリーネームをつけてもらって、ここに根を下ろしたんですよ」


「はぁー。お前がアイツんところの下部組織になぁー。へぇー」


「おっさん知り合いなの? どういう知り合いなの? ねぇ、どういう知り合いなの!?」


「なぁに、俺も昔、おっさんの世話になったんですよ」


 あとで、この勇者にと二人になった時にでも、おっさんとのことを話してやろう。

 おっさん本人の前で話すのは、気が進まない。

 何しろ、あまりカッコいい話ではないのだ。




 勇者がそんな感じで、心に危機を脱していたちょうどその頃っ!

 令嬢は、まさに定番の危機に見舞われていたっ!!


 そうっ!

 馬車での移動中っ!

 オーク族とっ!!

 戦闘に突入していたのであるっ!!!

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