魔力に物を言わせるというスタイル
「できたな」
「うん、できた」
屋敷がっ!!
完成したのであるっ!!!
ここまでに何があったのかっ!
ざっくり説明させていただこうっ!
勇者が賜った領地は、元々は王国の直轄地であったっ!
そのため、その土地を管理するための役人っ!
代官が、その土地の実質的な運営をしていたのであるっ!
この代官っ!!
通常ならば、悪逆非道なキャラになるところであるだろう、がっ!!
特にそんなことはない平凡な感じの人物であったっ!!!
領地経営の手腕に置いては、可もなく不可もなくっ!
領民からの評価も、可もなく不可もなくっ!!
万事に置いて、可もなく不可もなくだったのであるっ!!!
そのためっ!
突然現れた勇者への対応も実にスムーズっ!
「あ、はい。お話は伺っています。よろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。あの、早速で申し訳ないんですが、今後の事なんですが。あの、私はあくまで名誉職でして。実務の方は、ちょっと…」
「はい、そのへんは、承っておりますので。今後も引き続き、私か、あるいは勇者様の方で選定なさった方が代官という形になるかと…」
「もうそのへんは、あのー、当てもないですし。王都で此処の代官さんは優秀だとお聞きしていますから!」
「精一杯やらせては頂いてはいるんですが、それはさすがに過分なご評価と思いますが…。任期中、特に大きな事件もなく、飢餓などもなく代官を務めさせていただいていることだけは、自慢させて頂いています」
「もう、それが何よりですから、はい」
そんな感じの地味な大人会話を経てっ!
勇者は無事に領地入りっ!!
早速、屋敷をぶっ建てることにしたのであるっ!!
勇者はまず、屋敷を建ててもいい場所を代官から聞き出したっ!!
代官によれば、この辺りは比較的田舎なのでっ!
土地は腐るほど余っていて、選び放題だというっ!!
そこでっ!!
勇者はいくつかの条件を出しっ!!
当てはまる場所を代官に教えてもらうことにしたのだっ!
一つっ! 領地の中央街からそれほど離れていないことっ!
二つっ! 別に平地でなくてもいいから広い土地であることっ!!
三つっ! 家をぶっ建ててもプロ市民とかのデモ攻撃を仕掛けられない場所であることっ!!!
かなり難しい条件であるが、しかしっ!!
「この辺は田舎なので、まぁ、大体街の周りなら当てはまるのではないかと。このご時世勇者様に喧嘩を売る奴がいるとも思えませんし」
一つ目は、街の周りはほとんどがら空きなので解決っ!
二つ目は、田舎だったことにより解決ぅ!!
三つ目は、勇者の持つ力に大体の人間がビビるので無事に解決したのであるっ!!!
かくしてっ!
勇者は無事に屋敷を建てるための土地をっ!!
確保したのであるっ!!!
その日のうちに屋敷建築予定地までやってきた勇者はっ!
早速、屋敷建築に取り掛かったっ!!
大工などの職人などは、一切連れてきていないのにかかわらずであるっ!
勇者には、秘策があったのだっ!!
「あ、どうも。わたくし、最近になって召喚されました、勇者でして。あ、初めましてー。実は、今度私、ここの領主に…あ、ご存知でしたかっ! やっぱり情報が早いですねぇー!」
はた目からは、勇者が突然虚空に向かって話しかけ始めたようにしか見えなかったっ!
実際勇者は普段からアレな感じなので、下手をしたら本格的にアレしちゃったように見えるだろうっ!!
しかしっ!!
勇者の話し相手は、きちんと実在しているのであるっ!!
その相手とはっ!
この土地に住まう精霊達っ!!
勇者は通常の人間には見えない精霊と、会話することができるのであるっ!!
勇者はこの土地に住まう精霊達に、あるお願いを持ち掛けたっ!
そのものずばりっ!!
屋敷を作ってほしいというものだっ!
様々なものに宿るのが精霊達であるっ!
彼らに頼めば、人間やらほかの種族がいちいち手間をかける、何百倍もの速度で屋敷が建つことは間違いないっ!!
しかしっ!
それは精霊にとっても重労働っ!
簡単に引き受けて頂けるはずがないっ!!
こんな時っ!!
物を言うのは、やはりアレであるっ!!!
「あ、もちろんお礼の方はできうる限りですね、やらせていただければと思っておりまして。とりあえず手付として、まぁ、手土産がわりなんですが、一億ほど」
現ナマっ!!
と、いっても、人間の金貨などではないっ!!
この世界の根幹をなすエネルギー資源っ!
魔力であるっ!!
勇者の無尽蔵に保有し、使った傍から回復していくそれはっ!!
精霊のような超自然的存在にとっては、まさに垂涎の的だったのであるっ!!
「広さとか規模とかはある程度こちらで指定させていただきたいんですが、えーっと、デザインとかはそちらでやって頂けると…あ、やっぱりそういうの専門にしてらっしゃる精霊さんもいらっしゃいます? 美の精霊さん。それはたのもしいですねぇー! ただ、あの、それほど華美になりすぎると…あ、お分かりになってますよねっ! やっぱりプロは違うなぁ! あっはっはっは!」
なんかそんな感じのオトナトークによりっ!!
交渉は無事に成立っ!
あほみたいな速度でっ!!
屋敷は完成したのであるっ!!!
「俺ずっと数えてたんだけど。大体600数えるか数えないかで完成したぞ、この屋敷」
「うん。いや、ちょっとあの、俺もここまでとは思わなくって」
「金貨を顔に投げつけろ、なんて言葉があるけど。その通りだな」
「俺の世界では、札束でほほっつらを引っぱたけって言いましたけどね」
「なに、さつたばって」
「お札です、お金の。国の中央銀行が発行してる紙幣なんですよ。特別丈夫な紙に、超精密に絵とかが印刷されてる、偽造困難な奴です」
「金でいいんじゃないの? ゴールド」
「いやぁー、まぁ、色々あってそんな感じになったらしいですよ。俺もあんまり授業真面目に受けてなかったんで覚えてないですけど」
「お前、学校行ってたの」
「義務教育と高校大学ですけど。まぁ、授業なんてほとんど聞いてませんでしたよ。しっかり勉強してればもっとましな人生送ってたんでしょうけど」
「学校行くってすごいことだろ」
「義務教育って言葉通り、俺の国のその当時では、親が教育受けさせるのが義務だったんですよ。そうしないとまともな仕事に就けないし」
「基本教養だったのか。すげぇな」
「いや、まぁ、いったところで俺みたいに碌な仕事に就けない奴なんてゴマンといましたけど。それにしたって結局は個人の資質ですよ。高校や大学に行ってなくったって、俺よりもよっぽどまともな生活をしてる、俺よりもよっぽど頭もよくて体力もあってモテる奴はたくさんいましたから」
「何、急に自虐的になって」
「わかってるんですよ、勤めてるのがブラック企業だとか、政権がまともにやらないからだとか、誰かのせいにしてみたところで、結局自分の実力なんだって。選択のせいでも何でもない。そういうところでしか働けないぐらい能力が低かったんだ」
「怖い怖い。どうした」
「誰かのせいにしたってっ! 結局自分が駄目だっただけだったんだっ! 当時は自分のせいだと思ったら押しつぶされそうで認められなかったけど、今だったら認められるっ! あの境遇は俺の自業自得! 分相応だったんだっ!」
「いやいやいや」
「所詮俺はダメな大人だったんだっ! 俺はダメダメの実の、ダメダメ能力者だったんだぁー!! うわぁあああああああああ!!!」
「なんだお前、もう。めんどくせぇなぁ。落ち着け落ち着けぇ」
「ううっ! おっさん…!」
「まだいいじゃねぇか、定職についてたんだろ? 俺なんてこの年で根無し草だぞ」
「おっさんと比べられても…」
「ぶっ飛ばすぞ」
「でも、そうだよなぁ。俺は少なくとも、召喚されるまでは定職についてたんだ。下の下の上ぐらいではあったはずさっ!」
「まぁ、そうかもな」
「どうせもう元の世界には戻れないんだっ! 俺はこの世界でぬるく生きていくんだっ!」
「言い方。もうちょっと言い方をだな」
「うわぁっ!? もう屋敷が建ってるっ!?」
驚いた声を上げたのは、後からやってきた代官であるっ!!
そしてっ!
この代官が、爆弾をぶっこんできたのだっ!!
「よく職人連中を説得できましたねぇ。これだけのものを作るとなると、とりまとめも大変でしたでしょうし。あ、コルテス一家はどうやって説得したんです?」
「は? 誰それ」
コルテス一家とはっ!!
この辺り一帯を縄張りにしている、冒険者パーティであるっ!!
パーティと言っても、その規模は絶大っ!
本体であるコルテス一家だけでも百人前後っ!
そのコルテス一家の傘下に収まっているいくつもの「枝」と呼ばれる下部パーティまで含めれば、千人規模の巨大組織であるっ!!
彼らは、魔物退治などの荒事で金を稼ぐ傍らっ!
副業も持っていたっ!!
街中でのいざこざなどへの介入っ!
みかじめ料を取っての、飲食店などの護衛っ!!
さらには、大きな事業があるときに、取りまとめなどをして手数料を頂くっ!!!
つまるところっ!
「ヤクザじゃん」
「何、ヤクザって」
「なんていうか、任侠団体っていうか、こっちで言うとなんていうんだろう。組織犯罪集団?」
「ああ、はいはい。大体言いたいことはわかったわ、うん。暴力団な」
「暴力団って言葉あるんだ。マジか。じゃあ、ヤクザもありそうなもんじゃん? どういうことなのそれ。ええー」
ともかくっ!
屋敷を立てるとなると、それは大きな金が動く大事業であるっ!!
本来は、街に大きな金が落ちるありがたいことなのだっ!
しかしっ!!
勇者は精霊とかに頼んでしまったのでっ!
これから暮らすことになる街にっ!!
一銭の金も金も落としていないのであるっ!!!
「ままままままままま」
「なに。お袋の事、ママって呼ぶタイプなの?」
「まずいよねこれっ!! おっさん、これまずいよねぜったいっ!!」
「ん、まぁ。うん。そうねぇ」
「しってるぅ! 知ってるもん俺っ! そういう人達ってそういう利権絶対に手放さないんでしょっ! 色々難癖付けて追い込みかけてきたりするんだぁ!!」
「お前大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないでしょっ!? そういう連中ってドスとかハジキとかもって突っ込んでくるんだよっ! 超怖いっ!」
「負けないだろお前。魔族ボロスコにしてんだぞ」
「迫力の問題っ! ヤクザとかチンピラとかはこう、なんかそれだけで怖いんだよっ! リアルに感じられてっ! こう、魔族は非現実っていうか、元の世界に居なかったから身近に感じないっていうかっ!!」
「あー。逆に」
「そう、なんていうか、見たことも聞いたこともないものだったから、魔族はなんていうか、現実味が薄いっていうか。ヤクザの人は、元の世界でもいたし、そういう感じの怖い人たち見かけたこともあるから。生々しいというか」
「なんとなくわかる気はするわ。言わんとすることは」
「でもあれでしょ!? 別におれは付き合わなくてもいいんだよねっ!? あれだよっ! 代官さんさぁ! いってさぁ! 話付けてきてよぉ!」
しかしっ!
そういうわけにもっ!!
行かなかったのであるっ!!!
とりあえず代官の屋敷件役所に戻ったところっ!
なんとっ!
既にコルテス一家から、勇者をご招待する旨の知らせが届いていたのだっ!
「なにこれぇえええ! 無理無理無理無理! 行かないいかない! え? いや、え? 行かないに決まってるじゃんこんなのっ! ほら、あれだ! ほら! 偉い人を呼び出すとか失礼じゃない!? 的なっ!」
「え? ああ! そうか。勇者様は異世界の方ですものね。ご存じないのも当然ですか」
説明しようっ!!
この国の文化には、目上の相手を自分の本拠地に招いてもてなすというものがあるのだっ!!
昔っ!!!
とある武将が己に二心が無く、自分の財力では必死こいてもこの程度っ!
一生貴方についていきますと示したという故事に倣ったものだそうなのだがっ!!!
詳しくは「ピープル・ライト書房 国内の流儀 ~間違えると恥をかく編~」に書いてあるっ!!
ただしっ!
異世界にしか売っていないのでっ!!
恐らく読むことは、できないのであるっ!!!
「ちょっとぉおおお!!! 聞いてないよぉおおお!!!」
「しょうがないじゃん。まあ、がんばって来いよ」
「はっ!? いやいやいや、なにいってんの! 何言っちゃってんの!? おっさんも行くに決まってんじゃん! おっさんも行くに決まってんじゃん!」
「何で二回言ったよ」
「大事なことだからよ!! ぜってぇーやだしっ! 一人で行くとか! 暴れるからね! 俺前後不覚になって暴れるからね!? いいの!? 街とか滅ぶよ! すごい滅ぶよ!!」
「わかったよ、ったく。いきゃいいんだろ、いきゃぁ」
「ふっふー! さっすがおっさんだぜぇー! これでもう何も怖くない!!」
こうして、勇者はっ!
コルテス一家の元へっ!!
赴くことになったのであるっ!!!