結婚ってさ、やっぱり大変だよね
意外なおっさんの情報網によりっ!
令嬢に関する情報はガッツリ手に入ったっ!!
早速サックリ事情を聴いた勇者であったがっ!
しかしっ!
思いのほか重た目なその内容にっ!!
ドン引きしていたのであるっ!!!
「いやいやいや。ええー……なにそれちょっと。イケニエじゃんほとんど。ほとんどイケニエの如くじゃん、それ」
「なんだよ生贄って。また不穏当な」
「不穏当にもなるじゃろがいっ! なろうもんじゃろうがいっ!! だってあなた、考えてみなさいよ! ええ!? ご令嬢の、あれだ! 立場になって!!」
「まぁね。うん。それはね」
「完全に身売りじゃん! 売られてる訳じゃん! ええ!? 国の! 安心感のために!」
「勇者の嫁って形でね」
「そうよ! 勇者を抑えるための、アレですよ! 首輪代わりにしようって腹ですよ! 嫁やっときゃ勇者も大人しくなるだろう! 的なっ!」
「勇者なぁ。うん。まあ、そうなるわな。」
「勇者っていうか、まぁ、要するに化け物ですよ! 常識とかぶっちぎった感じの! 話が通じるかっていうか、そういう良識的なところを求められるかすらわっかんねぇーのにっ!」
「っていうかお前、自分の事だろ」
「いや、向こうから見ればの話よ! なんつったっけ? アークリンドゥン? アークリンドゥンか! そのお偉方から見ればよ! 俺って完全に理解不能な化け物のはずなわけですよ!」
「まぁ、そりゃね」
「そうじゃない!? 人種の総力で押し返せない魔族をたった一人で追い返した生体兵器ですよ! それにあなた、嫁やっときゃしずかになるでしょっ! ってっ! 楽観が過ぎません!?」
「それは、まぁ、実際のお前のことは置いておいてよ? それは、うん。俺もそう思うは」
「そうよっ! そりゃそうよ! どう考えても頭のおかしいやっばいやつですわっ! 勇者! それを大人しくさせられるかな? とりあえず試してみようぜ、的に嫁にさせられるご令嬢の立場よっ!」
「まぁ、生贄ポジションではあるわな」
「なわけよっ! そういうことなわけですよ、これっ!! もー! もー、アレだねっ! 疑うねっ! 良識を! そもそもですよ!」
「そもそも?」
「勇者がそういう、婚姻関係とかマル無視なヤヴァイ奴だったらどうするのよ、と! そういう常識が通用しない、おもんばかったりしない奴だったらさぁ!」
「難しい言葉知ってるな」
「だいったい、ご令嬢かわいそすぎない!? ええ!? 悪役にされた上に婚約破棄ってっ! 婚約破棄って!! まんま悪役令嬢やないかいっ! びっくりしたわこんなん!」
「まぁ、びっくりっちゃびっくりだけど。なんだよ悪役令嬢って」
「そうか、おっさん知らないか、おっさんだから」
「どういうことだよ。若者用語ってこと?」
「いや、よく考えたら元の世界の用語だったわ。それも超狭い界隈で使われてる感じの」
「ダメじゃねぇか」
勇者はとりあえず、おっさんに悪役令嬢とはいかなるものか説明を施したっ!!
おっさんと意思疎通は、勇者にとって生命線!
まぁそれ以前にっ!
勇者はおっさんと楽しくおしゃべりがしたかったのであるっ!!
そのための共通認識作りは、絶対に必要だったのだっ!
普通ならば、この世界にあるはずもない技術を土台としてつくられた「なろう的 悪役令嬢」を説明することは、困難であるだろうっ!
勇者自体の説明能力も、さして高くないっ!
異世界人に的確に存在しない新しい概念を伝えられる能力があるならばっ!
そもそも勇者は底辺リーマンなどやっていないのだっ!!!
しかしっ!
勇者のスペックはド底辺でもっ!!
聞き手であるおっさんは、理解力お化けだったのであるっ!!!
「要するに物語のお約束的ポジションの一つってことか。定番のヤツ的な。物語の悪役かぁ。確かに悪役にさせられてるって意味では派生の一つみたいな感じではあるな」
「そうなのよ。でもそういうのって物語だからこそ的なやつじゃん? リアルでやられるとさ」
「引くよなぁ。若干。いや、割とガッツリ」
「それよ! 引くよ俺だって! なんでそんな、酷いことできるの? アナタガタはっ! ってなるよ!」
「酷い話ではあるよな」
「そうだよ! まったく! 全くその通りなのだっ! ヘケッ!! ってなるわっ!」
「ヘケってなんだよ」
「もっと酷いのがあれだよっ! そんな、そんな不幸のズンドコに叩き落されたご令嬢に降りかかる更なる厄介ごと is 俺!! ってところだよぉっ!!」
「勇者ってお前のことだもんな」
「死んじゃう死んじゃうっ! 俺の心がっ! 俺の心がいたたまれなくて死んじゃうっ! はぁー! もぉー! はぁーもぉー! コレマジどうすんだよぉー!!」
「ほんとな」
「ていうか、え? これって、あれなの? 断ったらダメだよね?」
「そんなことしたら余計に話しこじれるだろ」
「そうだわなぁー! そうなんだよぉー! もぉーさぁー! これで俺が断り入れたら完全に踏んだり蹴ったりだもんなぁー!!」
「立つ瀬ないわな」
「これもう、逆にどうするのが正解なの? どうするのが正解の奴なの、これっ!」
「コレっていうと?」
「結婚についてよ! 結婚生活とか! 貴族の結婚生活ってどんな感じなの!」
「見合い結婚が基本だからなぁ、貴族。庶民のとは全然違うらしいけど」
貴族の結婚とはっ!!
基本的に血脈を守ることが第一の目的であるっ!!
特にこの世界において、血を守るというのはすさまじく重要な意味を持っていたっ!
例えば、魔法能力っ!
魔法の力は基本的に、血に由来するものであったっ!
強い魔法能力を有する血脈からは、強い魔法能力を持ったものが生まれるっ!
逆に、まったく魔法能力を有さない血脈からは、魔法能力を持つものが生まれることはなかったっ!
これは完全に遺伝的な要素と、霊的な要素を含んだ理由からくるものでありっ!!
普遍的な事実なのだっ!!
またっ!
魔法の特性、あるいは個性と言われるものは、遺伝するものであった!
稀有、特殊な魔法特性は、その血脈以外からは生まれることが無いっ!!
一族の証と言えるものであることも、珍しくなかったっ!
魔法絡みの理由で貴族になることを許された一族にとって、血を守るとはすなわち魔法を守ることっ!
魔法を守ることとは、すなわち貴族としての地位を守ることを意味しているっ!
血を守ることに固執するのは、むしろ当然といえるのだっ!!
あるいは、血の契約っ!!
この世界では、様々な魔法的な契約が交わされることが少なくないっ!!
一定の血脈のものがこの土地を収めている間は、水の安定供給を保証するっ!
精霊とそんな契約をすることは、日本の芸能人が浮気するぐらいよくあることなのだっ!
こういった契約は珍しくないどころの話ではなく、五つ貴族家を集めれば、四つはやっているレベルなのであるっ!
逆に言えばっ!!
そんな契約をしなければ人が住めないような土地というのが、モノゴッツ多かったっ!!
貴族家が何とか精霊と契約をし、人が住めるようにした土地っ!
そんな場所で、もし契約が途切れてしまったら、どうなってしまうのかっ!!
町や村、畑は一瞬で自然の猛威にさらされ、魔獣魔物に蹂躙されることになるだろっ!
ほかにも、様々な理由があるっ!!
血を守るということっ!
すなわち、貴族にとっての結婚とはっ!
血脈を守ることを第一の目的としっ!!
その貴族家だけでなくっ!!
土地に暮らす全ての住民にとって重大事なのだっ!!
それゆえにっ!
貴族の場合、結婚後に妾を作るのはもちろんっ!!
場合によっては、一族の血を受け継ぐ女子が、逆ハーレムを作るといったことも当然のこととされるのだっ!!
何よりも重要なのは、血脈を残すことっ!!
そういった考え方が根底にある貴族の結婚というのはっ!!
庶民のそれとは完全に別物なのであるっ!!
しかしっ!
おっさんは開拓農村で生まれ育ちっ!
碌な教育も受けずに冒険者になった、たたき上げタイプであったっ!
自分の領主のところもそんなに血に関してうるさくなかったのでっ!!
その辺の知識は割かしあいまいだったのであるっ!!!
おっさんがあいまいな知識しかないということはっ!
当然っ!!
勇者もその辺のところかなりアバウトにしか理解していなかったのであるっ!!!
「とりあえずよくわかんないけど、お妾とか愛人とか作るのはデフォらしいぞ」
「マジで? お貴族様奔放過ぎない? 下半身が。日本の政治家レベルじゃん」
「なんだ、せいじかって」
「昨今の芸人レベルの奔放さじゃん。まあ、最近いろいろうるさいらしいからアレだけど」
「芸の肥やしっていうからな」
「ってことはあれか。愛のない結婚生活は覚悟しなきゃいけないわけか」
「恋と結婚は別。みたいなことよく聞くからな。そんなもんなんじゃない?」
必要な貴族家の血脈さえ守れるのであれば、相手は一切問わないっ!
それゆえに、愛人の間に生まれた子だろうが何だろうが、欠片も問題はないのであるっ!!
愛人やらなんやらは、むしろ推奨されているのだっ!
純愛主義者とかが聞いたら、卒倒しそうな話であったっ!!
「しっかし、すげぇ話だなぁ。異世界人の俺にはついていけない価値観ですわぁ」
「俺にもよくわかんねぇよ」
ちなみにっ!
貴族社会においてはかなりヒャッハーな下半身事情ではあるがっ!
庶民レベルではそうでもなかったっ!
旦那が浮気をすれば、奥さんに半殺しにされると思って間違いないっ!!
ハーレムとか逆ハーとかは、特別な血脈を持つ特別な貴族の特権でありっ!!
呪縛でもあったのだっ!!!
「え、じゃあ、ご令嬢も逆ハー作るかもしんないってこと?」
「まぁまぁ。一般常識的にはそうなるんじゃない? 知らんけど」
「知らんけどじゃないよ、また調べてきといてよ、その辺」
「なんで俺に言うんだよ」
「おっさんだけが頼りなんですけど!? 俺、おっさんが居なかったら何もできないんですけどっ!?」
「どういうキレ方だよ。わかったよ、明日当たり行ってみるよ」
「はぁ。ってことは、俺も愛人とか作ったほうがいいのかなぁ。逆に」
「逆に。とは」
「そういうの作らなかったら浮くかもしれないじゃん? 奥さんになったご令嬢からもキモがられるかもしれないし」
「別にキモがられたってどうってことないだろお前」
「こころっ! メンタルっ! 俺のハートはところてんよりゆるっゆるなのっ!!」
「なんだよところてんって」
「何コイツ、キモッ! みたいな目で見られたら死んじゃうのっ! はぁー! もぉ! なんでわかんないかなぁ!」
「知らねぇよそんなこと言われても」
「まぁ、とにかく。その辺のことは行ってから考えるか。もらった領地に」
「そのことで気になったんだけどさ。お前、のんびりしてるけど、いいのか?」
「何がよ」
「屋敷建てに行かなくて」
「屋敷。建てる。とは。検索」
この世界の文化においてっ!!
貴族が坐する感じとかになる屋敷とは、砦と同じ扱いであったっ!!
土地は常に魔獣やらなんやらの脅威にさらされて折、その土地を収める貴族とはそれらと戦い土地を守るものであったのだっ!!
故にっ!!!
貴族が住まう館、砦は、自分が手掛けるのが当然とされていたっ!!
新しい領地を拝領した時っ!!
あるいは、代替わりした時などっ!!
何かあるたびに、屋敷や砦を新築、あるいは改装するものなのであるっ!
今回の勇者のような場合は特にっ!
自分で屋敷を作る算段を付けるのっ!!
当然だったのであるっ!!!
「しらねぇええええええええええええええええええええええええええ!!! しらねよそんなことっ!! 初めて聞いたわっ! 今ッ! 今しがた初めて聞きましてございまするぞ!!」
「お前ビビられてるから、必要最低限の事しか伝えられないんだろうな。常識的なことは伝えなくてもいいだろ、ぐらいに思われてんじゃねぇの」
実は、おっさんがいるから大丈夫だろう、と思われているのであるっ!!
「ていうか逆におっさんなんでそんなマニアックっぽい常識知ってたんだよ」
「昔それ絡みの仕事したことあったんだよ。ったく、そんときゃえらい目にあったぜ」
もちろん、それ絡みでどてらい恩を売っているのだがっ!!
言うまでもなくっ!
おっさんにその自覚はっ!!
まったくのゼロであったっ!!!
「えええ。じゃあ、なに。早く領地いかないとじゃん。クソめんどくせぇ」
「っつーか、結婚相手のご令嬢、もう出発してんだろ? 到着するのいつよ」
「カレンダーに印付けてある」
約、十二日後であるっ!
まだ交通機関が整備されていないこの世界においては、割と時間が無い感じであったっ!!
「まじかよふざけんなよぉぉおおおお、もぉおおおお!!! 勇者のところにドナドナされた上に住む家までねぇとか、ご令嬢不憫すぎんよぉおおお!! もう、アレだ! チョッパやでいってちゃちゃっとねつ造しちゃおうか! 屋敷!」
「出来んのかいそんなこと」
「逆にあなた、俺はアレよ!? なんかよくわからないぱうわぁーにあふれかえってちょっと漏れ出しちゃってる感じの勇者様よ!? うまいことやればできないことじゃねぇーっつーの!」
「なんだよウマいことって」
「俺の能力で何ができるか色々考えてあんだよっ! ヒマだったからっ! もぉーねっ! もぉー、すごいよ! マジで! 俺の能力をもってすればあれよっ! 立派な御屋敷なんてすぐ建っちゃうからねっ! レゴみたいにっ! いや、レゴ難しいな」
「れごってなんだ」
「とにかくもう、ちょちょって感じだからっ! ちょちょってっ! ちょちょいのちょい! ちょちょいのちょいやでぇ! しかしぃーい!」
もちろんっ!
そんなに簡単に行くわけがっ!!
なかったのであるっ!!!