更なるおっさんの正体
「おーう。例の件な、大体わかったぞー」
勇者に令嬢のことを調べてくれという無茶ぶりをされたおっさんは、しかしっ!
令嬢のことを結構詳しく調べることに成功していたっ!
普通、貴族の世界のことを一介の冒険者が調べることなど、できるはずがないっ!
ならば何故、一体どうやっておっさんは情報を仕入れることに成功したのだろうっ!
それには、それなりの理由があったのである!
B級冒険者ボルクガング!
恐るべき面倒見の良さで勇者に懐かれた彼は、昔から驚くほど面倒見がよかったっ!
それは、まだおっさんが若い冒険者だった時代の事である!!
森の中を探索していたおっさんは、不審な物音に気が付いてそちらへと向かった!
そこにいたのは、地面に倒れ伏した若い冒険者達と、加害者と思しき見た目のいい男性冒険者達!
しかも、男性冒険者達は、まだ少女ともいえるような若い冒険者達に、乱暴をしようとしていたのだっ!!
一瞬にして激昂したおっさんは、たった一人でその男性冒険者全員を叩きのめしたっ!
単身で魔物の群れを狩り殺すおっさんが、強姦魔共に負けるはずがないのだっ!
バカ共をぶちのめして縄で縛り上げたおっさんは、少女達に状況を聞いた!
どうやら少女達は駆け出しであり、装備の乏しさからほかのパーティと組むことにしたのだというっ!
そこをこのクズ共に付け込まれ、酷い目にあわされそうになったのだっ!
事情を聴いたおっさんは、おもむろに反吐にも劣るクズ共を素っ裸に引んむくと、装備など一切合切を袋に詰め込んだっ!
そして、少女達に向かって、人数分の金貨を投げたっ!
動転している少女達に対して、おっさんは「そいつぁ、分け前だ」と肩をすくめるっ!
「冒険者ってのは、自分の判断一つで生きる死ぬが決まる仕事だ。結果的に生きて金が稼げるなら、ラッキーってな有様よ。だから今日のことを誰に話したところで、可愛そうに、なんて言っちゃぁ貰えねぇ。俺が通りがからなきゃ、ついていったお前らが悪い。だが、こうして金になったなら、あやかりたい羨ましい、なんて言われる」
悲しいかな、それが冒険者という仕事の現実であるっ!
己の命一つ掛け金に、進んで死地に飛び込まねばならない商売なのだっ!
「お前らにも事情ってやつがあるだろうからさ、この仕事辞めろとか、月並みな説教はしねぇよ。だから、先輩冒険者としてありがたい助言を一つくれてやる。ソイツで腹いっぱい飯を食え。そうすりゃ、頭が動くようになる。知識と経験と判断力が、冒険者の一番の武器だからな。装備なんざぁ、余った金で整えりゃいいんだ」
金貨一枚というのは、少女一人が数か月は腹いっぱいでいられる金額である!
ついでに言えば、クソ野郎どもの装備を全部売ったところで、少女達の人数分の金貨になんてなるはずがないっ!
そのことを少女達が知ったのは、おっさんがクズ共を引きずって森の中に消えていった、数か月後の事であるっ!
この少女達はおっさんの言いつけを守り、飯を食い、装備を整えたっ!!
少女達はのっぴきならない事情があり、冒険者をつづけるしかなかったのだっ!
だが!
おっさんの助言を律義に守った彼女達は、めきめきと実力を伸ばしていったっ!
後に、少女達は成長しっ!!
人類最初のSSS級冒険者パーティ「白銀の戦乙女」となったのであるっ!!!
また、別の時っ!
山の中で一週間ほど迷子になったおっさんは、死にそうな思いをしながらもなんとかとある町へたどり着いたっ!
食料が付き、森で山菜などを取りながら食いつないでいただけに、喜びも一入である!
おっさんがスキップでギルドに向かうと、何やらもめている様子!
聞けば、鍛冶屋のおっさんの孫が死にそうなのだという!
孫を助けるには、超山奥でしか見つからない超希少植物が必要だというっ!
しかしっ!
この時期の山の中はウルトラデンジャーな危険地帯っ!
好き好んでそんな危険地帯に飛び込もうとするヤツは皆無だったっ!!
そうっ!
好き好んでは!!
驚くべきことに、そのデンジャーゾーンはまさにおっさんが迷いまくっていた辺りだったのだっ!!
しかもっ!!
おっさんが確保していた山菜の中に、そのレア植物があったのだっ!!
土下座してレア植物を売ってくれと頼む鍛冶屋のおっさんに、おっさんはこう言い放った!!
「悪いけどな、俺ぁ腹減ってんだ。金なんか要らねぇから、なんかうまいもん食わせてくれ」
実際!
おっさんのまともな食事への欲求は限界に来ていたっ!!
この時のおっさんの中の価値観で言うならっ!
金<<<<<<<<<<<<(超えられない壁)<<<<<<<<<<<<<焼肉定食
だったのっ!!!
鍛冶屋のおっさんは、おっさんを物理的に引きずって町の食堂へ駆け込んだ!
そして、レア植物とメシを物々交換したのだっ!!
鍛冶屋のおっさんの孫は、手に入ったレア植物で、無事に命を取り留めたのであるっ!!
死ぬほど喜んだ鍛冶屋のおっさんだったが、レア植物の市場価格を聞いて腰が抜けるほどたまげたっ!!
平の宮仕え十人分の年収ぐらいの金額だったのだっ!!
鍛冶屋のおっさんは、おっさんに金を払おうとしたのだが、おっさんは断固として受け取らなかったっ!!
「冒険者が一度した契約破っちまったら信用失うんだよ! この商売、信用が無くなったらおまんまの食い上げだっての!」
冒険者の心意気というやつであるっ!!
ちなみにこの鍛冶屋のおっさんは、そこらへんに転がっている野良おっさんではないっ!
鉄を操ることに長けたドワーフ族でありながら、魔法にも深い造詣を持つ鍛冶師でありっ!!
魔法を添付した武器を作ることに関しては世界でも指折りの技術を持ち!
百単位の弟子を抱える、鍛冶師ギルドの最高技術顧問っ!
そしてっ!
歴史上はじめて一般兵にも扱える対魔族兵器を実用段階まで押し上げた、伝説の鍛冶師だったのであるっ!!
またまた、別の時っ!!
森で薬草をとる依頼を受けていたおっさんは、やたらと周囲を踏み荒らしまくっている兵隊達を発見したっ!
連中はおっさんが秘密にしてた薬草の群生を踏み荒らし!
あまつさえっ!!
兵隊は全員、漫画雑誌「てんぴょん」派だったのだっ!!!
ゆるふわな感じの日常系漫画専門誌として大手の一つであり、おっさんが大好きな「ほりでー」のライバル紙であるっ!
だが、流石のおっさんも推し雑誌が違うからといって、目くじらを立てたりしないっ!
問題は、兵隊達の態度だったっ!
連中はこともあろうに、「ほりでー」をズタボロにディスって笑いものにしていたのであるっ!!
「毎日が祝祭日っ!」をうたい文句にしているゆるふわ系雑誌である「ほりでー」は、楽しみの少ない冒険者家業を彩る癒しであったっ!
その癒しを土足で踏みにじるような行為を、おっさんの正義は決して許しはしなかったのだっ!!!
一体どうやってぶちのめしてやろうかとコッソリと兵隊をつけることにしたおっさんは、連中の会話を聞いて腰が抜けるほどの衝撃を受けたっ!!
連中は「ほりでー」をディスるだけでは飽き足らずっ!!
エルフの村を襲撃する計画を立てていたのだっ!!!
まさに蛮行!!
人ならざる悪行であるっ!!
「これで大義名分ができたぜぇえええ!! 生まれてきたことを後悔させてやるからよぉおおお!!」
おっさんは兵隊達が油断したすきを突くため、準備を整えたっ!
そして、闇に紛れて村を焼こうとした兵隊たちの背後にっ!
奇襲を仕掛けたのであるっ!!
響き的に侮られがちだが、B級冒険者は強いっ!!
具体的に言うと、北海道のヒグマに素手で勝てるぐらい強いのだっ!
特に魔法も使わず、肉体のみで戦う系冒険者であるおっさんは、素手でカバに勝てるぐらい強かったっ!!
そんなおっさんが森の中で奇襲を仕掛けたのであるっ!!
悪逆非道っ!
クズにも劣る外道共に、負けるはずがないのだっ!!
徹底的に兵隊共を叩きのめしたおっさんに、状況を知ったエルフの村の住民は心の底から感謝したっ!
何かお礼をというエルフ達に、おっさんはこう言ってのけるっ!!
「あいつら薬草だけじゃなくて、キノコまで踏んで歩きやがった。しかも、タケノコを食いながらな。とことん趣味の合わない野郎共だぜ。俺は気に食わないからぶん殴っただけだっつーの。礼なんて言われるようなことはしちゃいねぇよ」
そして、おっさんは報酬などは一切受け取らずっ!!
薬草を採集して帰って行ったのであるっ!!
ちなみにこの村は、エルフ宗教の信仰対象である、「世界樹」を祭る村の一つであった!
いわば、エルフ族の聖地だったのであるっ!!!
またまたまた、別の時っ!!!
山の中を散策していたおっさんの耳に飛び込んできたのは、布を裂くような悲鳴っ!!
何事かと駆けつけたおっさんの目に飛び込んできたのは、武装したヤカラと、それに追われた子供達であったっ!!
明らかに事案っ!!
ヤカラをボコボコにのしたおっさんだったが、連中は自分達は合法だと言い出したっ!
「俺達ぁ、許可をとった亜人労働斡旋業だぞっ!」
悲しいかなっ!
奴隷というものこそ禁止されたこの世界だが、奴隷とほぼ変わりないシステムは存在していたっ!
人間種至上主義国では、いわゆる亜人種に認められた権利はすさまじく乏しいっ!
ほぼ奴隷同然で働かされることなど、珍しくなかったのであるっ!!
その待遇の悪さは、現代日本における超低賃金二重派遣社員以下であったっ!!
しかしっ!!
おっさんは問答無用で、ヤカラ共にさらに追い打ちをかけたっ!!!
「ふざけたこと言ってんじゃねぇーぞシャバ僧がぁ!! ホントに許可とった労働斡旋業者ってのはなぁ、金持ちなんだよ! テメェーらみてぇーに金もなけりゃ風呂にも入らねぇ見てぇなビジュアルじゃねぇーんだよっ!! もうちょっと見れるツラになって出直してこいっ!」
まさに年の功っ!
おっさんの言う通り、ヤカラ共は違法業者だったのだっ!!
というより、完全な人さらいっ!
ゴリゴリの犯罪者だったのであるっ!!
無事に子供達を親元に送り届けたおっさんは、やはり礼も受け取らずに去って行ったっ!!
「子供を助けるのは大人の仕事だろ。それをしたから礼を貰ったなんてなったら、情けなくてお天道様の下を歩けなくなるぜ」
かっこつけられるだけかっこつけて、おっさんはさっさと山の中へと戻って行ったっ!
ちなみにっ!
この助けられた子供達の中には、獣人族の王族の子供もいたっ!!
現在の獣王その人であるっ!!!
ほかにもっ!
似たようなエピソードがっ!!
てんこ盛りなのであるっ!!!
昔からかっこつけしぃな上に、物事に積極的に首を突っ込んでいくスタイルっ!
それを貫き続けてきたおっさんは、知らず知らずのうちに方々に恩を売りまくっていたのだっ!
故に!
おっさん自身知らないうちに、様々な方面から影の支援を受けっ!!
どこぞの王族かと思われるような圧倒的権力を持ち合わせていたのであるっ!!!
しかしっ!
悲しいかな、おっさんはそのことを全く知らないし、気にもしていないのでっ!
大抵の場合は宝の持ち腐れであったっ!
それが、こういった極たまに起こる、本来はアクセス不可能な情報などを知りたい、といった場面でっ!
いかんなく発揮されるわけであるっ!!
「さっすがおっちゃんだぜぇ! 声がまるでダメなおっさんに似てるだけのことはあるぜぇ!!」
「固有名詞じゃねぇだろまるでダメなおっさんって」
「まるでダメなおっさんが固有名詞になる人が居るんだよ日本にはっ! 超声がいい人! ギャンブルやってるときに解説とかしてくれそうな感じの! 自分がやってるときにやられるの絶対やだけど!」
「どういうことだよ」
「しっかし、あれじゃない? よく調べられたね、マジで。どうやったの」
「それがさぁ、俺にもよくわかんねぇんだけど。ギルドとか酒場とかで聞いて回ったら、たまたま詳しいやつに出くわしてな」
「それにしたって良く聞き出せたね、マジで」
「あれじゃない? 俺の? 大人の魅力? っていうの?」
「あ、はい」
「なんだよ」
「そうでですね、はい」
「突っ込めよっ! 悲しくなるだろ!」
「そうしようと思って」
「どういうことだよ」
「これに懲りたら俺のことをもっと構うんだなっ! 寂しさというのはそういう感情なのさっ!」
「野郎のかまってちゃん行動、クソめんどくせぇな」
こうしてっ!
勇者は自分の婚約者についての情報をっ!!
入手したのであるっ!!!