グワッ、バシュンッ(効果音)
「ディーン君、勝負だよ!」
「だからやってやるって言っただろ。さっさと構えろ。」
いつの間にか周りの人たちはみんな静かにこちらを見ている。もちろん先生もだ。
ディーン君は片方の拳を顎の辺りに、もう片方を軽く前にだし、腰を低く保っている。なるほど、急所である顎を守ってもう片方の手で相手との間合いを測ってるようだ。
「ディーン君が受けなら俺が攻めか。」
俺は流水の構えではなく、別の構えになる。あとなんか知らないけど、周りの見ていた女の子たちが一瞬ざわついた。なぜだろう?
「ふぅぅ…よし行くよ。」
俺は腕の力を抜き、だらんと腕を垂らす。体の芯は保ったままそれ以外を全て脱力し、垂らした腕をそのままに揺れるような動きをでディーン君に近付く。
「…なんだその構えは。馬鹿にしてるのか?」
ディーン君は俺の動きを見て、何をしてるのか分かっていないみたいだった。そのせいか、顎に構えていた拳を下ろした。つまり、格好の餌食である。
「シュッ!!」
「がっ…はっ!?」
俺は脱力した腕を、しならせるようにして空いた顎を打ち抜いた。
脱力から一気に力を入れることで、瞬時の動きの速さを高めたのだ。更にこれは不意打ちの類いの技であり、見た目からはただ腕を下ろして立っているだけなので、警戒はしない。そこを狙った技でもある。
「名付けて『鞭拳』ってところかな。」
ちなみにこれはリューンじいちゃんの教えてくれた技である。じいちゃんの場合は速すぎて見切れない。気が付いたら顎を撃ち抜かれているほどだ。俺の速さはそれの半分にも達してはいないだろう。
「くぅ……あぁ!」
ディーン君は吹っ飛ばされてもすぐに立ち上がったが、頭を押さえて苛立ったような声をあげている。それはそうだろう、顎を打たれたのだから。
顎というのは人体の急所、強く叩けば脳震盪を起こさせるほどだ。それほどの強さで殴ってはいないが、それでもクリーンヒットしたのに立ち上がってくるのはびっくりだ。
「くそ…どんな魔法を使いやがった…まるで手が伸びたみたいだったぞ。」
「魔法じゃない…よ!」
まだ顎へのダメージが残っていてフラついてるみたいだ、今がチャンスだろう。このまま方をつける。
すぐに近づいて腰に蹴りを放つ。重心を大きく乗せた蹴りだ、外れたら隙が出来るけど、いまのディーン君には避けられない。
「ぐぅ…!なんて重さだよっ!」
ディーン君は蹴りを腕で払うように止める。しかし、それは悪手だろう。この蹴りを入れられた時点で君の敗けは決まっているのだから。
「俺の勝ちかな。」
「は?何をいって……っ!?」
ディーン君は庇った腕を押さえてうずくまった。
「ほら、ダメージを抑えきれてないよ。」
ディーン君の腕は腫れていて、痛々しいほどに赤くなっている。すこしやり過ぎた、内出血と骨折の両方を引き起こしたみたいだ。
「大丈夫?これ以上はやめた方がいいんじゃないかな…」
武術の戦闘に置いて、片手のハンデはとてつもないものになる。それは例えるなら武器を持っていない状態で戦場へ赴くのと大差ないほどだ。
「ぐぅ…うるせぇ!やられたままで終われるか!片腕が使えなくたって魔法があるっ!」
ディーン君が呪文を詠唱しようと距離を取る。
残念ながら、魔法も同じだ。痛みが強いとそっちに気を取られてしまう。よっぽどの達人でなければ集中出来ずに不発で終わるだろう。
「よし、もういいだろう。二人ともそこまでだ。」
先生が割って入る、止めに来てくれたみたいだ。よかった、これ以上抵抗するんならなんとかして気絶させたところだったよ。
「先生!俺は負けてません!!」
「バカ野郎!自分の傷くらい判断できるようになれ!見せてみろその腕!……やはりな、打撲傷もそうだが、筋肉が切られている。どんだけ鋭い蹴りをしたら切れるんだよ…」
「ぐぅ…痛い!先生強く握るのはやめてください!」
「うるせぇ!いいから保健室にいくぞ!あ、お前らは教室に戻っておけ!道は分かるよな?よし!分かるな!」
だから確認の意味がないってそれ…
大丈夫かな、ディーン君。筋肉が切られてるって言ってたけど……もしかして病気か!?筋肉が切断されていく病気って怖すぎるだろ!どんな病気だよ!
「スルヴァ?なんでそんな恐ろしいものを見たような顔をしてるのよ?」
「クレアか、なぁクレア、都会の病気って筋肉が切れたりするのか?」
「さぁ?私医学に興味ないし。でもディーン君のは確実にあんたのせいよ。」
「えぇ!なんで!?」
クレアは俺の反応を見ると頭に手を当てて首を振る。なんだよう、何か文句があるなら言えよ…俺が何かしたっていうのか?
「まあ、戻っていればいいって言ってたし、私たちも帰りましょ。」
「そうだな。」
それにしても、なんでさっきから視線が集中してるんだろう。ジロジロと四方八方から見られてちょっと気持ち悪い…ウプ……
「なぁ、なんだ俺はこんな注目されてるんだ?クレア。」
「だから、あんたが強すぎるからよ。何処で習ったのよ、あんな構え。見たことないわよ。」
「リューンじいちゃんが考えた構えだよ。凄かったでしょ?」
「誰よリューンじいちゃんって!知らないわよ!」
む、そりゃそうか。クレアにはいつか村に遊びに来てほしいな。トリノとレイチェル、ニアにもな。
それからしばらくして先生が帰ってきた。ディーン君は即刻病院送りらしい。下手をすれば腕が使えなくなっていたそうだ。
正直、申し訳ないことをした、そんなに力を入れたつもりはなかったんだけど、病気と重なってしまったらどうしようもない。今度会ったときは謝りにいこう。
次は面接ということで、数人が適当に先生に選ばれて部屋へ案内される。残りの人はみんな勉強なり練習なり、待っておけば良いらしい。
クレアと俺の番はまだ来ておらず、最初に座っていた位置に戻る。
「ふぅー、楽しかったな。」
「そう?私は全部一瞬で蹴散らしたからつまらなかったわ。」
「流石クレアだな、今度俺にも火炎魔法見せてくれよ。」
「え?この前見せたじゃない。」
「え?何時?」
はて、今日会ってからしばらくの間共に行動してたけど…見せてもらったか?ブルームスフィアやフレイムストームは火魔法だろ?うむむ、思い出せないな。
「ねえねえ!スルヴァ君!」
「ん?ああ、ニアか。」
いつの間にかニアが現れていた。気配を消すのが得意なのか、全然気付かなかった。
「凄かったね!ディーン君を一瞬で倒してたし!」
「あぁ、運が良かっただけみたいだよ。ディーン君、病気だったみたい。」
「え?そうなの?風邪かなぁ…でもスルヴァ君の攻撃は凄かったよ!腕がこう…グワッと伸びてバシュンって感じだったし!!」
「いや感覚肌か!」
「おい、うるさいぞ。失格にされたいのか?」
おっと、先生に怒られてしまった。多分、ニアが言っているのは『鞭拳』のことだろう。グワッと伸びてバシュンっていうのは…まあ分からんでもないけどな。
「えへへ…怒られちゃった。スルヴァ君は結局何勝したの?」
「一応、全勝かな。」
「へぇ、すごい!私なんて一勝しか出来なかったのに…」
へへ、そんな褒められてもなにもでないぞ?でもまあ、嬉しくなっちゃうけどな!
「ねぇ…私が間にいるの忘れてない?」
「あ、ごめん。クレア、そこに居たのか。」
「最初から居たじゃない!」
俺とニアがクレアを挟んで会話していたのでごりっぷくのようだ。悪かったって。ニアが自分の席にいそいそと帰っていく。あぁ、クレアが叫ぶから…もっと優しく話そうぜ。
「それにしても次は面接ね、ようやく受験も終わりだわ。」
「そうだね、俺は正直見たことないものがいっぱいでもう少し居たいんだけど。」
「この後はどうするの?」
「村に帰るよ。みんなが待ってるし。」
早速帰ったら自慢するんだ!他の模擬試合で全勝したってね!みんな褒めてくれるかな?
「そういえば田舎って言ってたけど、あんた家はどこなの?」
「トラン山の頂上。」
「ちょっと、冗談は強さだけにしてちょうだい。」
別に嘘は言ってないんだけどなぁ…というか強さが冗談ってどういう意味だ?訳がわからん。
「え、本当なの…?うそ、あそこ怪物だらけじゃなかった?」
「あー…まあね。でも村のみんなの方が怖いかなー。」
デアーばあちゃんとかキレさせたりしたら1番怖い。じいちゃんが言っていた。
『女を怒らせちゃあいかん。何故じゃと思う?…キレたらなにするか分からんからじゃ。ほれ、デアのやつがそうじゃろう。畑に隕石降らせておいて結局ワシが掃除するはめになったんじゃからのう。胸が垂れとるばばあは心まで腐っておるからの。』
あの時のリューンじいちゃん…まさかデアーばあちゃんが聞いてるとは思ってもみなかったんだろうなぁ。まさか家ごとすり潰されるとは考えもしなかっただろう。
「あんたがおかしい理由って、もしかしてその人たちのせい…?」
「俺を育ててくれた人だよ。」
「私、例え誘われても絶対に遊びにいかないわよ。」
えぇ!なんで!?ぐすん、ぐすん。せっかく友達が出来たら連れていこうと思ってたのに…ひどいや、なんでなんだよう。