カウンターのカウンター
さっきの先生を追って廊下を走る。
すると突然、すれ違いそうになった銀髪の女の子から話し掛けられた。
「廊下は走っちゃダメだよ。」
「おっ……と、すみません。」
廊下を走るのは駄目だったのか。でも今は急いでいるし、許してほしい。
「入試を受けに来た子かな?」
「ええ、まあ。」
「急がないで良いの!?先生行っちゃうわよ!」
先を走っていたクレアが振り向いてこっちを見る。
「すいません、急いでいて…あの、行きますね!」
銀髪の女の人はニコッと笑みを浮かべると、ヒラヒラと手を振ってくれた。
「何してたの?」
「ん、なんか知らない女の人に注意された、廊下を走るなって。」
「ふぅん、まあいいわ。それより、あの建物に入っていったみたいよ!」
クレアが指を指す場所には大きい建物があり、その中に別の生徒が入っていく。どうやらあの中で試合を行うようだ。
ガラガラと扉を横に開いて中に入る。中は外観と同じように、広い武道館のようになっていた。リューンじいちゃんの道場を十個並べてもこれだけの大きさにはならないなぁ…
「よし、全員入ったな?確認はとらんぞ。えー、ではこれから試験を始める。ルールの説明をするぞ。」
他の生徒はみんな自由に地べたに座り込み、楽な姿勢で先生の話を聞いてるようだ。
「まず、この試合は1vs1の真剣勝負だ。他者の介入は許されない。もしも他者による補助が発覚した場合はその場で帰ってもらう。もちろん失格だ。」
これはまあ、当たり前だろう。実力を図るのに他の手助けがあれば本来の実力は調べられないもんな。
「片方が参ったと言うか、意識がなくなった時点で試合終了、場外は無しだ。まああまり大きく暴れなければそれでいい。」
「先生!戦う相手はどうやって決めるんですか!」
「うるさぁいっ!いまから説明する!!」
さっきのメガネくんが手を上げて質問をしたら一括された。怖いって…都会は声の大きい人が多いよ。もしかしてたんぱく質足りてないんじゃない?
「戦う相手は完全にランダムだ。お前らにはくじを引いてもらう。それには適当に番号が振られていて、それによって戦う相手が決まるわけだ。」
なるほど、まあ俺はなんでもいんだけどね。というか筆記なくて本当によかった。歴史とか、数学とか……全然知らないもんなぁ。
「ではくじを引く順番を言っていくぞ!まずは…………」
数分間待つと、俺の番になりくじを引く。そのくじは18番と書かれていた。ちなみにこの空間にいるのは40人ほどである。
「よーし、全員引いたな?確認はせんぞ。」
いいの?この人が試験官で。めっちゃ適当やぞ。
「じゃあ戦う相手は…自分の数の上下ともう一人は好きな相手を選べ!」
うーん、適当だなぁ。1番と最後の番号の人はどうなるのかの説明はまだか?
「あと1番のやつは40番と戦えよ。」
まあそうなるよな。さて、じゃあ俺の相手は19番と17番…ということになるのか。
「あのー、19番の人か17番の人、いませんかー?」
周りは戸惑っているのか、動きがない。ざわざわと周りの動きを見ているようだ。このままだと何もできそうにないので、その辺に向かって問い掛ける。すると、人混みのなかから、黒髪の男の子と金髪の女の子が出てきた。
「俺が18番なんだけど…どっちが19番、17番なのか教えてくれない?」
「我が17番じゃ。よろしく頼むの。」
「僕は19番だよ。よろしくね。」
金髪の女の子はじいちゃんみたいな話し方の女の子で、もう一人の黒髪の男の子は貴族みたいだ。
「えっと…どこで戦えば良いのかな?」
「ふむ…あの暑苦しい男はそのような説明はせんかったの。」
暑苦しい男、あ、先生か。ちょっとわかる気がする。うるさい感じがクレアに似ててちょっと苦手だよ。
「僕が聞いてくるよ。」
「あ、ありがとう。」
貴族の男の子は先生の方へ歩いていく。どうやら優しい貴族のようで、ディーン君みたいに平民を無駄に敵視してるわけじゃなさそうだ。
「つまらんのう…何でこんな小さき子と肩を並べて戦わんとならんのだ。」
小さい子達って、同い年じゃないのか?それに背丈ならむしろ君の方が……
「お主はどうじゃ?我はつまらんぞ。」
「え?うーん…俺って田舎から出てきたからさ、目新しいものが一杯で飽きないんだ。」
ほら、こんな同年代の可愛い女の子と話すことだって俺にはほぼ初めてみたいなもんだから。
「田舎とな?ここからどれくらい遠いのじゃ?」
「そうだな…300kmくらい?」
「田舎以前にどうやってそこから来たのかが気になるわ…」
金髪の女の子が呆れた表情でこっちを見つめる。そうかな? 300kmくらいだから、まあ遠いけどそこまで気にするほどじゃないよね?
「どうやってって走ってだけど…」
「おーい、聞いてきたよー。」
お、帰ってきたみたいだ。手を振りながら走ってくる。なんだろう、この子なら仲良しになれる気がする。
「なんかもう、この辺で適当に戦えば良いみたいだよ。」
「これまた適当じゃのう…あやつが試験官でいいのか?」
「いや、ダメだろ。」
いやまあ、それでも試験官をしているんだから、観察眼や洞察力は人より長けているんだろう。
「じゃあまあ…やりますか。」
「うん、どっちが先にやる?僕か、えーっと……」
「ん、我の名前はレイチェル=フォントじゃ。レイチェルと呼んでくれ。」
「僕はトリノ=ユウリ。トリノでいいよ。」
「お、どうやって呼ぼうか迷ってたんだ。俺はスルヴァ=トルミニ。田舎者だけど、仲良くしてくれ。」
トリノにレイチェル……よし覚えた。でもあれだね、村にいた頃って覚える名前が少なかったけど、都会は人が多くて覚える名前が多すぎるよ…クレアの名字ってなんだっけ。レッドフィールドとかだっけ…
「じゃあ…トリノと先に戦っても良い?別にこだわりはないんだけど。」
「我は構わんぞ、待っておる。」
「よし、負けないぞ!」
俺だって負けないぞ!このためにしっかり練習してきたんだ!まずは…流水の構えで様子見だな。
「好きなタイミングで来い。」
「行くよっ!」
数メートルの間を開けて、互いに見つめ会う。呼吸を聞き、筋肉の動き、目の動きを見て相手の動きを予測する。
「はぁっ!」
トリノは素早く距離を詰めると、回し蹴りを放ってくる。
こい!受け止めてやる!…………………………
いや来いよ!?待て…もしかして誘ってるのか?蹴りに意識を向けているのか脇ががら空きに見えるんだが…誘っているのだったらここで間合いに飛び込むのは不味いか…一旦身を引こう。
「ふっ!」
「うまく逃げたみたいだね…」
うまく逃げた……?あぁ、誘ってたのを避けたことへの称賛かな?
「いや、俺もビックリしたよ。まさかこんな手でくるなんてね!」
読めないな…最初から誘ってくるとは……流水の構えのカウンターを読まれたか?我流のはずだから知られているはずはないんだがな……カウンターのカウンターとは、流石は都会、考えることが違うな。
「次、いくよっ!」
「今度こそっ!」
来いっ!…………………………………
うん、これさっきと同じ軌道に同じ速さの回し蹴りだ。ついでに言えば脇腹も空いてれば、足の重心もずれていて崩せそうだな。
誘ってるっぽいけど、このままじゃ一方的に攻められるだけだし、一発打ち込んでみようか。
「ここだっ!」
「ふぐぅっ!?」
回り込んで脇腹を殴る。もちろん、傷付けたりしたら怖いので加減はしたけど…もしかして力を入れなさすぎたか?トリノは殴られた脇腹を押さえてふるふると震えている。
「ま、参ったよ。僕の敗けだ。」
「え?あの…」
参ったって言ったよな?え、でも…は!もしかして軽くやり過ぎたせいで怒った!?
「面白い試合じゃったの。お主、スルヴァじゃったか。なんで最初に打ち込まなかったんじゃ?見えとったろう?」
「え、誘ってたんだよな?ビックリしたよ、カウンターの構えにあんな綺麗に引っ掛かりそうな蹴りを放ってきたから流石に罠だと気付けたんだけど…」
あれ?トリノは?あ、先生の方に行ってる。なんか体を引きずっているような動きだけど…腹痛か?痛いよな、腹痛。俺も村のそばにあるマンドラゴラとかを生で食べたら二日ほど地獄だったもん。
「……まあいいのじゃ。ほれ、我とも戦うぞ。久し振りにやりがいのありそうな試合が出来そうじゃ。つまらんと思っていたが…これは俄然楽しみになってきたぞ。」
「え、あぁうん。戦うのは良いけど…トリノ、大丈夫かな?」
よく分からないけど…もしかして最初から腹痛だったのかな?だから誘っていたのに動けなかったのか。納得だ。
「ほれ、構えるんじゃ。」
「うん、分かった。」
とりあえずまた流水の構えで、レイチェルを見据える。とりあえず、一勝はした。二勝すれば、あとは面接で失敗しなければ多分受かるだろう。あと一回は負けても良いと思えると、なんだか心に余裕が持てるよね。
「いくぞ?」
「来いっ!次も、負けないぞ、」