誤算
どれくらい眠っただろうか
桐島は目を覚ますと久々の熟睡に憂いでいた。
この被験体入手に至るまでかなり神経衰弱しきっていたからだ。
どうやら半日近く眠っていたようだ。被験体の状態も安定している。
研究所内は常時密閉されており、昼夜を知る術は時計と己の体内時計のみだ。
桐島は腕時計を見ると午後二時過ぎだった。
とうに狂っているであろう体内時計の調整も兼ね遅い昼食を孤島の岬で取る事にした。
適当に食糧を見繕い研究所の分厚い扉を開けると太陽の光に一瞬、目が眩んだが桐島の心は光を浴びたように晴々としていた。
桐島
「さてと、飯を食いがてら小一時間程太陽光を浴びればセロトニンが分泌され狂った体内時計も治るだろう」
そう言うと桐島は海を眺めながら岬にある岩に腰掛けハムサンドを口に頬張った。
ちょいとした遠足気分で童心にかえる桐島だったが頭の中は禁断の研究でいっぱいだ。
再び分厚い扉を開き桐島は毎日ひたすらデータを重ねる。
この調子なら半年もすればこの被験体は頭部だけが異常に膨らむだろう。そうなればオーバードレーン脳波を捉え更に詳しく調べれば必ず手がかりを得られるだろう。
しかし、桐島のシミュレーターとは裏腹に被験体の頭部は肥大するどころか身体共、急速に育ってゆく。
桐島はデータを元に様々なシミュレーションを試みたが日に日に育つ被験体に焦りを募らせていた。
桐島
「なぜだ‼ なぜうまくいかないのだ‼」
そう叫んだ時だった
被験体が眼を見開き桐島を睨みつけていたのだ。
桐島
「なっ、眼が、、、瞳が赤い
まさか、虹彩異色症…………赤いオッドアイなのか?!
アルビノ且つオッドアイとは信じられん」
桐島は再び被験体の瞳を見るとまるで透き通ったルビーのように輝き、白い素肌と赤い瞳に思わず見とれてしまっていた。
その時だった
被験体、いや彼は右手の拳で培養液が浸る強化ガラスを殴り始めたのだ!
桐島
「馬鹿な! 腕が、いや身体が 身体を動かせる訳がない‼ 後頭部から小脳、脳幹を貫き下垂体へと穴を開けたんだぞ‼
はっ! 先ずは彼を止めなくてはっ‼」
慌てふためき緊急停止ボタンを押したが反応がない。桐島はボタンを連打したが無駄だった。
そうだ!ブレーカーだと思い全ての電源を落とそうとしたその瞬間、研究室の照明が一斉に破裂しあちこちで火花を散らしはじめたのだ!
桐島
「い、一体なにが起こっているんだー!」
桐島は両腕で頭を護るようにしゃがみこむ。
すると全照明の消えた真っ暗な研究室の中にポツリと一ヶ所だけが光を放った。
桐島は恐る恐るその光に近づくとそれは一台のパソコンだった。
桐島はそのパソコンを拾い画面を見るや絶句した
モウ 少シデ 俺ハ 成長スル ソレマデ待テ
その文章は培養液内に漬かる彼から送られてきたものだった。