全自動の家(ショートショート)
ある週末、私は招かれていた同僚の家を訪れた。
彼は独身だが中々立派な一軒家に住んでいる。
小さな庭は手入れが行き届いていて、干された洗濯ものが見える。
扉の前に立ちインターホンを鳴らそうとしたとき、家の中でチャイムが響いたのがわずかに聞こえた。同僚はすぐに出てきた。
「やあ君か。待っていたよ」
彼は少し息を切らしている。外で汗をかいた後のようだ。
「招待してくれてありがとう。ところでこのインターホンなんだが、手も触れずに音が鳴るのだね」
「ああ、そこのカメラが顔認識して、僕でなければベルを鳴らす。簡単な仕組みさ」
確かに見上げるとレンズがこちらを覗いていた。
「私の家には監視カメラすらないよ」
「来客にわずらわしい思いをさせまい、というだけさ。しつこい新聞の勧誘なんかを追い返す役にも立ってるがね。さあ、あがってくれ」
扉に近付くと自動で開いた。自宅に自動ドアとは恐れ入る。
入ると一見したところは普通の住居にしか見えない。
「ここが客間だよ、どうぞ」
客間の扉もひとりでに開いた。この調子だとこの家の扉という扉は全て自動なのだろう。
部屋に入ると「少しくつろいでいてくれ」と言って、彼はどこかへ行ってしまった。椅子に腰かけて、机を眺めながら待つ。
お茶もお菓子も出ないのか、と思っていたら、天井からお盆に乗った茶と菓子が出てきた。なんとも手の込んだものだ。
少し経った。
私はトイレに行きたくなった。きっと先ほどの緑茶のせいだ。
客間を出てふと立ち止まる。当然、私はトイレがどこにあるか分からない。同僚もいないし、そこらの扉を開けて回るのも失礼だ。
困っていると、なんと廊下がベルトコンベアのように動き始めた。バランスをとりながらそうめんみたいに流されていると楽しくなってくる。
そしてコンベアが止まると私の目の前には一つ扉がある。確信と共に中に入ると、果たしてそこはトイレだった。この程度の考えならお見通しという訳か、感服するしかない。
用を済ませ、また流されて客間に戻ると同僚がいた。なぜかさっきよりも激しく息を切らしている。
「い、いやあす、すまない。待たせたね」
なぜこうも疲れた風体なのか気になるが、相手がそのことを切り出さないので聞きづらい。
「で、どうだね。感想は?」
「そこらじゅうの自動化についてかい?一番に言うなら、その徹底ぶりに驚かされたよ」
「そう言ってもらえると嬉しいね」
同僚は満足げな表情を浮かべて、言葉を続けた。
「僕らは毎日のように会社であくせく働いている。そんな僕らが我が家でさえ様々な労働をせねばならない。これは全く許せないことだ......」
彼の言葉には熱がこもっている。並々ならぬ決心の末なの だろう。相当の金額がかかっているはずだ。そんな間にも家のあちこちから機械音が響いてくる。
「それを解消するためには、一切の自動化しかないと僕は結論したのだよ。あ、すまない。少し席を外させてもらうよ」
まただ。
私は耐えきれずついに質問した。
「さっきから君は何をしてるんだい?そんなに息を切らして。スポーツなら一緒にやるし、急ぎの力仕事があるなら私も手伝うよ」
すると彼は突然恥ずかしそうな顔になり、小さな声でこうこたえた。
「うん......手伝ってもらえればありがたいんだがね。実は最近、家の工事にばっかりかまけていて、電気料金も支払えていなくて。ついに先日電気が停められて、仕方なく自転車で発電しているんだ......」




