僕と『俺』とブロローグ
『俺』はお前そんな意味のわからないことを言う目の前のおにいさんはどこか楽しそうだ。
「意味わかんない」
『意味わかんないか、意味わかんないね。そうだろうな。それよりお前の名前は?』
う
「僕は独」
『独か、どくね。いい名前だ。羨ましいくらいだ』
おにいさんは、楽しそうに言う。
目は死んで口が裂けたように笑いながら。
「結局、おにいさんの名前はなんなの?」
『ないよ。捨てちまった。名前があるから俺のことを認識するんだと思って名乗らないうちに忘れたよ』
「ふーん」
『興味なさそうだな』
「うん」
目の前のおにいさんもあまり興味が無いのかつまらなそうにしている。
「おにいさんってあまり気持ち悪いって思わないね」
『なんだいきなり』
「うーんなんていうか、僕は今までで一度も他の人のことがわからないんだ」
『あぁ、なんとなくわかるぜ』
僕は、生まれてから今まで自分以外を理解したことが無い。
他人、友達、家族さえも分からない。
何を考えてるのか分からない。どんな気持ちなのか。どんな性格なのかも分からない。
相手が笑顔を見せていてもそれが分からない。気持ち悪かった。
そんな僕が目の前の人だけは何を考えてるのか、どんな気持ちなのか、それを理解することができた。
『俺は、一人が好きだ。理由なんて無い。周りのことが理解出来ないししようとも思わない。
だけど、お前のことは理解できる。
独、これがどういうことか分かるか? 今まで、誰も理解出来なかった俺とお前がお互いを理解し合っている。これには意味がある』
「意味?」
『そう意味』
意味なんで分からない。ただ僕はこの人に出会ってからすごく落ち着いたんだ。生まれてから違和感を感じて生きてきた。まだ、10歳で短い時間しかないけどとても苦しかった。
周りを理解できない僕と僕と同じ気持ちの俺。それが意味するのは…
「仲間?」
『せ〜いかい。
俺と独は仲間だ。仲間という言い方には少し間違いがあるが。正確には同種だ』
「同種?同種って犬とオオカミみたいな種類のことだよね?」
『そう、犬とオオカミみたいなもん。まぁこの場合、俺がオオカミで独が犬だけどな』
僕は犬らしい。それでも納得いかないことがある。
「同種って言っても僕は人間だよ。おにーさんは何なのか分からないけど僕は別に特別でもなければ凄くもない普通の人間だよ」
『普通か、普通ね。別に俺らの種族の話をしているわけじゃない。性格、性癖、異常性の話をしてるんだよ。
それに独、お前は普通じゃない。お前は終わってる。10年間という短い人生でそこまでどうしようもなく終わってる人間を普通とは言わない。異常だよ』
おにーさんは諭すように語りかける。
『だからさぁ〜、そんな異常なお前とお前と一緒で異常な俺の正体を知りたくないか』
「正体?」
『そう!正体!周りが理解できない。まるでこの世界とは違う生き物みたいな感覚。その正体を知りたくないか?』
おにーさんはとても楽しそうにしながら手を僕の方に差し出した。
正体と言われてもよくわからないし僕はずっとこれが普通だと思っていた。
だけど、僕はこの人となら今の世界が変わると思う。つまらない世界はもう飽きた。そのために僕は…………、
「うん、知りたい」
『じゃあ、決まりだ!』
僕は、差し出された手を掴んだ。
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