5 知らない気持ちは、僕を侵す
女の人に免疫がなくて、草食系男子のひ弱な男の僕は、雨宮さんと話している時だけ、そんな自分から離れていくような気がした。
それは、彼女にもっと良く見てもらいたい、とか、恥ずかしいとこを見せたくない、とかそんな感情が渦巻いているのだろう。
雨宮さんと話している時、心が落ち着いて楽しくなる。もっと話したくなる。もっと……触れてみたいとも思う。でも、僕はこの感情の正体を知らなくて、どうしようもなかった。僕は、一体どうしてしまったのだろう。それを知るのは、もっともっと、後になりそうな気がした。
土曜日になり、その日は大学が休み。僕はといえば激しい雨の中、友達に家に来てもらって、勉強を教わっていた。
ちなみに僕は一人暮らしで、親に仕送りをしてもらって生活している。だから、今は友達と三人でひたすらわいわいとやっていた。
実は僕の成績はかなりスレスレで、雨宮さんに話した勉強がちょっと苦手、なんて事は間違いだった。
本当は、超ド級に勉強が駄目だった。
「だーかーらー!ここはこうだよ!xをかけんの!」
「え?yじゃなくて?」
「何でそうなるの?おかしいよね?」
「~~~だーーーーっ!分かんねえ!」
僕はシャーペンを投げ捨てるように置いてその場に寝そべった。ちょっとどころじゃない。かなり分からない。
サークルが同じ植物研究会の友人である幸弘と、もう一人、ちょっとたれ目気味の髪が長くて、ひょろっとした男、友樹は僕を見るなり同時にため息をついた。二人同時って息合ってるなこいつら。
「……お前さあー、このままじゃヤバいぞ?」
「退学?退学来る!?」
「茶化すなよ友樹。僕だって頑張ろうとしてるけどさあ……」
相変わらず友樹はニヤニヤしながら人を茶化してくる。ホント、人をからかうのが好きで呆れるよ。……いや、呆れられるのは僕の頭か。
どうしても、追いつかないんだよなあ……。先生の言葉を聞いていても、さっぱり分からなくて、毎回テストで困ってる。それに、この大学に入るのもかなり苦労したのだ。今じゃあり得ないぐらい勉強したし、それでも分からなくて、結局ぎりぎりで受かった形に落ち着いた。このままじゃ、友樹の言う通り退学や留年……。
それを考えると憂鬱になる。僕もため息をつくと、ごろごろしながらもう勉強は嫌ですアピールをした。
「僕、今梅雨病でさ。死にそう」
「何だその五月病まがいのものは」
「雨でやる気が出ないんだよねー」
「時也が梅雨病?それってアレだよね、確か梅雨のように人がじめじめして鬱陶しくなる現象」
「いや違う!やる気でないって言いたかったんだよ、話を広げるな!」
ガバッと起き上がって咄嗟に突っ込むと、友樹は笑い声をこぼして、やっと起き上がった、なんて言いやがる。ムカついたのでまた寝転がってやった。
友喜はこうやって人を茶化すのが大好きで、場のムードメーカーでもある。おまけに顔もいいから女の子にはモテモテ、だそうだ。
別に、羨ましいとか思ってないぞ?
女の人と話すなんて本当に勇気がいるんだから、さ。
僕は更にごろごろと寝返ったりして子供のように振舞う。そんな僕を見て二人は眉を寄せ、ひそひそと話しあっている。会話の内容はニートだのごみのようだの、酷い。それが友達に対する言葉か。
だって、しょうがないじゃないか。第一、こんな雨の中じめじめと勉強なんて出来るわけがない。そう思って窓を見ると、僕は昨日の事を思い出す。
そういえば彼女――雨宮さんは、今日もあの神社に居るのだろうか。雨の日に会いましょう、だなんて言ったが、それが何時頃の何曜日にしようだとか、そういう詳しい話はしていない。ただ雨降る日に……、と。僕にとって雨降る日という事は雨宿りをする日の事で、つまり大学がある平日の夕方なのだが……。もしかして、そういうの関係なしにあの神社に来ているのだろうか。
――まさか、本当に?
確かに雨の日にまた会いましょうなんて言ったけど、今日は土曜日だぞ?一般的にも休みだし、多分……来ていないだろう。僕はそう思い込むことによって、体中から溢れてくる『何か』の感情を抑え込む。僕は、その感情を放置して、外を見続ける。
それは完全なる逃避だった。
相変わらずの雨は、二人が来た頃よりも酷くなっていた。ざあざあと打ち付けるような音が家の中に居ても聞こえて来て、それが更に憂鬱な気分へと誘う。
いくら梅雨だからといっても、最近はやけに雨が酷い気がする。
嫌がらせだろうか。
「はああ」
駄目だ。雨を見るだけで気分が重い。2人はどうして平気そうなんだろう。ちょっと羨ましい。
「何ため息ついてんだ。さっさとやるぞ」
幸弘にそう言われて背中を叩かれると、僕は仕方なく起き上がってシャーペンを握る。
やはり今日もずっと雨なんだろうか。
さすがに雨の中来てもらった二人に申し訳なくて、冷蔵庫にあったケーキをあげたけれど、僕の気分は下がる一方で。
雨は、止みそうにない。
「ちなみにこのワーク1時間で終わらせなかったら罰として薔薇のツタでマキマキの刑な」
「酷いうえに痛いよ!」
今年はかなり雨の日が多いらしく、雨量も相当酷いらしい。そんな情報を朝の天気予報で見ると、外に出ない事を決意する。
正直僕にとって雨量とかどうでもいい。ただ雨が降っているのか降っていないのかの違いなのだ。
と言う事で今日、日曜日も絶賛雨だ。雨は降り続けて、まるで自分が主役だと言うように風と共に踊っている。
僕はベッドの横にある窓を見てため息をついた。
「今日は絶対外に出ない」
そうやって小さく宣言すると、起き上がって冷蔵庫に向かう。僕は朝必ず牛乳を一杯飲むという習慣があるのだ。
決して背を伸ばしたいとかじゃない。……違うからな!
一人でぶつぶつとそんな事を寂しく言いながら、冷蔵庫を開ける。そして僕はある重大な事実に気付いた。
「牛乳が……ないっ!」
何という事だ。牛乳がないなんて前代未聞。僕はこれからどうやって背を伸ばせというのだッ!大学生だからもう背は伸びないとかそういう事は考えない。僕は希望を捨てない男なのだ。ここだけはポジティブなのだ。
そういえば、昨日全部使い切ってしまって、次の日買いに行こうと考えていたのを思い出す。
三人で勉強中だったのもあって面倒くさかったのを覚えている。
ちら、と窓に映る外の景色を見て僕は再び深いため息をつく。
さっき決意して宣言したばかりじゃないか。
だけど牛乳がないなんて今日僕は何をすればいいのだ。
「…………ううん」
考えて考え抜いた結果、僕は、外を恨めしそうに見ながら鏡で多少の髪を整えて、服も着替えて、玄関に嫌々向かい、家を出た。
やはり買いに行くしかない。今日買いに行かないと明日も困る。それに明日も雨らしいし。
……ということで牛乳が好きな僕は仕方なく。
仕方なくっ!
雨の中外に出たのだ。
「雨果てろ雨果てろ……」
呪文のように小さくぶつぶつと呟いて外を歩く。さすがに今は傘をさしているのだけれど、真っ黒の傘は、まるで僕の心情を表しているかのよう。
ああ、これでは駄目だ。気分が落ちて行くのが分かって憂鬱になる。
家を出て真っすぐと進むと、ここらでは広い道路にたどり着く。
僕は信号を酷く恨めしそうに見つめて、青になるのを待つ。
こんな雨の中、少しでも長い時間外に居るのなんて屈辱的だ。
信号が変わるのを待ちながら、抱えきれない負の感情を押さえこみ、ぼんやりと考え事をする。
結局昨日はワークを終わらせられず、幸弘に罰を与えられた。まあその罰はといえば、何処からか取りだしてきた植物の種を僕に託し、育てる事だったのだけれど。
何の花かと聞いたらそれは咲いてからのお楽しみ、というまるで女子のような発言をしてきたので、呆れたのは内緒だ。
友喜は笑って俺にもちょーだいっ!とか言い出して、調子に乗った幸弘は植物トークをしだすし、後半は勉強どころではなかった。まあ、楽しかったから良かったのだけれど。
「おかげで、更に外に出たくなくなったんだよな」
わざわざ楽しんだ後に、面倒くさい思いをして買いにいく必要なんてないと思ってしまった。おかげでこの様だ。
昨日の僕を恨む。
ここからだと一直線に歩けばスーパーにたどり着く。
そこで、信号が青に変わり、再び歩き出した頃に近道を使って早く行く方法を思いつく。
「……神社の前の道なら、近道、だよな」
真っすぐ進まずとも、住宅街の小道を通って神社の前を通ればスーパーに早く着くのだ。
思い立ったらすぐ行動。僕は道を変えて、大通りから小道に入る。
そうして歩いていると、ふとあの神社の前に通りかかって立ち止まってしまう。
「そういえば、雨宮さん……」
昨日も今日も雨は降っている。でも、さすがに……雨宮さんは居ないだろう。僕は何となくそう決めつけて通り過ぎようとする。
しかし足は自然と立ち止まってしまう。
もし……もし、本当に居たら?
もし、雨の日は必ず来る約束だと、雨宮さんは思い込んでいたら?
そんな考えがよぎって、僕は神社の鳥居の奥を見つめた。すると、小さく動く人影が見えた。
「え……?」
まさか。
まさか居るというのか?今日は休みだぞ?日曜日だぞ?
でも、曜日指定なんてしていないから絶対に居ないとは言いきれなかった。僕は多分、お参りしに来た人だろう、と思いつつも神社に足をのばしてしまう。
段々と、近づいて行く内に人影があらわになってきた。
その人は白を基調としたワンピースを着て、髪が長くて、清楚で、美人で……。
そして何故か儚くて。
そうして僕は雨宮さんを見つけたのだ。
「……雨宮さん……?」
「赤瀬さん……!」
話しかけると、少し下を向いていた顔をあげて、僕を嬉しそうに見つめた。そして、僕の名前を呼んでくれる。苗字だけど、名前を呼ばれた事に嬉しくなって顔が赤くなってしまう。とりあえず、黙っているわけにはいかない。
「もしかして……待っててくれました……?」
僕がそう言うと、彼女は酷く恥ずかしそうに、少し苦笑いしてこくり、と頷いた。僕は途端に自分の行動に後悔する。
もっと、もっと早く来ていれば……。
でも、今は朝だからこれ以上は早く出来ない。僕は、不安を抱えながらもう一つの疑問を口にする。
「もしかして……昨日も?」
「あ、えっと……。気にしなくていいんですよ!私が勝手に来ているだけですし」
「ていうことは、昨日も……来てくれてたんですね?」
「……はい」
雨宮さんは、顔を俯かせてそう言った。僕はその姿を見て、昨日の浅はかな思考を恨んだ。何で。何で来ていないだろうと思ったんだ。
いや、思ったんじゃない。思い込んだんだ。
僕はここ数日間で、何かの感情が芽生えつつあった。
それは雨宮さんに会ってからで、この不思議な感覚に疑問を持って、知らない感情に少し……恐怖を覚えた。甘酸っぱいような、胸が苦しくなるような、でも嬉しくなるもの。何故なのは分からない。
だから、雨宮さんに会いたいと思いつつも、この感情が何か分からなくて、やっぱり行けなかった。僕は、本当に最低な男だ。
「でも……こんな朝から待っててくれたんですか?」
僕は、ざわざわと蠢く謎の感情を抑えながらそう聞く。まだ十時だ。こんな時間から待ってくれていたとは、本当に申し訳ない。だって、そうなら昨日も朝から待たせて、僕が待ちぼうけさせたって事だろ?それは、酷く申し訳ない上にどう謝ればいいのか。
「えっと……。あの。実は出かけていたら突然雨が降ってきて……。雨宿りしようと思ったら丁度この場所の近くだったんです。だからここに居たら、赤瀬さんに会えるかな……って。まさか本当に会えるなんて……」
そう言われると、僕は途端に嬉しくなってしまう。さっきの後悔や不安は何処へ行ったのやら、雨宮さんの言葉に翻弄されている。単純な男だなって自分でも思う。
でも、僕はその時点で何も気付けなかった。
雨は昨日から絶え間なく振り続け、朝から出かけているなら必ず傘を持っているはずなのに持っていない事を。それが、何の意味を表しているのかを。
その意味に気付くのは、もっと後の事だった。
雨宮さんの言葉は、僕に会いたかった、なんて解釈していいんだろうか?
だがそれを正直に聞ける訳もなく、直接は恥ずかしくて押し黙った。
代わりに僕も、会えてうれしいです、と小声で言う。聞こえるか聞こえないか位の小ささだったけれど、照れ臭そうに笑う雨宮さんに、しっかり届いたみたいだ。
「たまたま通りかかって、雨宮さんがいたからびっくりしたんです」
「ふふふ……。偶然。……でも、今日は雨宿りで来たわけじゃないんですね?」
そう言うと、雨宮さんは僕のさしている傘を見る。そうだ、僕は牛乳の買い出し中だったのだ。
「ああそうだ、牛乳を切らしてしまって、買いに行こうとしていたところなんですよ」
「そうだったんですね。なのに、ここに寄ってくれた……嬉しい」
くすくすと上品に笑う彼女を見て僕は考える。
今日は傘を持っている。そして、こんな雨の中女性が長時間居たら、例え夏が近づいていようとも風邪をひいてしまうかもしれない。雨だってしばらく止みそうにないし。
「もし良かったら、送って行きましょうか?」
「……え?」
「僕と……、相合傘になっちゃいますけど、送って行きますよ。こんな所にずっといたら風邪をひいてしまいますから」
そう言って僕は傘を彼女に近づける。すると、雨宮さんは少し戸惑った様子で、でも優しく、首を振った。
「大丈夫ですよ。こう見えても私、身体強いですから。気にしないでください」
「そ、そうですか」
断られた事が予想以上にショックで、先ほどとは打って変わって心が重くなる。しかし、それを表に出さないように必死に努力した。
雨宮さんは申し訳なさそうに眉を寄せてほほ笑んでいる。本当に優しい人だな。
でも、そのほほ笑みから嫌悪感とか、そういう負の感情は読み取れなかった。それは、別の事情があるような、何か違う意味で断られたように受け取れた。
とりあえず、嫌で断られたわけじゃない、って事だよな……?
「あ……そろそろ行かないと特売が……」
僕は、はっとしてその言葉を漏らす。すると、雨宮さんは更に申し訳なさそうにして、頭を下げる。
「あ……。すみません、私が足止めしてしまったんですね。どうぞ、構わず行って下さい」
僕は少しだけ、行くかどうか迷ってしまう。でも、やっぱり特売の時間に間に合わないのは、一人暮らしの僕にはきつい。こればかりはしょうがないので、雨宮さんにすみません、と会釈して、来た道を戻って行った。
僕は、ヘタレで草食系男子。地位も金も富も……いや一般の大学生ならなくて当然だけれど、根性も何もかもが、ない。ないないづくしだ。でも。
さすがにこんな雨の中女性を……、しかも、少しずつだが仲よくなっている女性を放っておく事なんて出来ない。
僕は、急いでスーパーに走って牛乳とある物を買うと、またあの神社に向かった。
袋に入った牛乳が重くて、走りにくかったけど、僕は急いで向かう。
するとやはりというか、恒例の息切れが起こった。
「はあ……はあ……」
だから運動の出来ない草食系男子が全速力で走れる訳ないんだってば。
そう心の中で愚痴りつつも、走る足は止まらない。まるで自分の意志で走ってないようだ。
どんなに遅くても、少しでも、早くあの場所に戻りたい。そんな思いをかかえて、息も切れ切れに走った。
ようやく神社にたどり着いた頃には、傘をさしていたにも関わらず、全身濡れてしまって、見た目が最悪な人になっていた。雨と汗が混じって嫌な感触が頬を伝う。暑いし、気持ち悪い。これだから雨は嫌いなんだ。
「……赤瀬さん……?」
雨宮さんのところに行くと、彼女は驚いたように僕を見た。それもそのはずで、全身濡れて髪はぼさぼさ、服がべたりと肌に張り付いて息も絶え絶えな僕が目の前にやって来たからだ。あまりにもみすぼらしい見た目となっているだろう。
雨宮さんの驚く顔が可愛くて、乱れた心臓に癒しが与えられる。心なしか、息切れも収まりつつあるような。
でも、いつまでもそんな事に気を取られてはいけない。僕は、右手に持ったある物を差し出す。
「これは……」
「それ……はあ……か……はあ……はあ……」
ぜ、全然喋れねえ!息切れ酷過ぎだろう!やっぱり全然収まってないじゃんか。
「ふふ……傘、ですね?」
「はあ……そ、う……です……」
僕が、何とか声を絞り出して、途切れ途切れに言うと、ついに雨宮さんは、声を小さくあげて笑いだす。
笑われた……恥ずかしすぎる。何やってんだろ僕……。
「笑わないで……下さい、よ。全速力で走ったんですから!」
まだ肩は上下しているものの、ようやく話すくらいには回復したので、反抗してみる。ちくしょう僕ってみじめ!
僕の言葉を聞いて雨宮さんは少し目元をぬぐいながらごめんなさい……と謝る。全然申し訳なさそうに見えないし、涙出ちゃうくらい面白いですかこれ。そんなに僕は間抜けですか!
「赤瀬さんって……一昨日もそうでしたけど、運動苦手ですか?」
「そうですよ!僕、走ったらすぐ息切れしちゃうんです!」
もう半ばやけくそで開き直って言うと、雨宮さんはまたも笑う。いい加減やめてくれませんか!ちょっとした拷問だよこれ!
「でも……わざわざ私のために?」
「そうですよ!笑わせるためじゃないですけどね!」
「ごめんなさい……ふふ」
そうやっていつまでも笑っている雨宮さんにため息をついて、もういいです、と拗ねて見た。
そう、僕は彼女のために傘を買ってきてあげたのだ。僕と帰らなくてもいいから、風邪をひかないように、と思って買ってきたのに、こんなんじゃダメダメだ。
本当は心の狭い僕だから怒っている所だけど、雨宮さんの笑う姿は可愛いから許す。何か腹立たしいが。
僕は、傘を持った手を彼女に近づける。すると、雨宮さんは遠慮がちに手を伸ばして受け取ってくれた。
「あげます。傘があれば、風邪をひく前に帰れるでしょう?」
「……ありがとう、ございます。大事にしますね」
そう言って彼女は嬉しそうにすると、早速と言わんばかりに一歩外に出て、傘を広げた。
傘は質素ながらに周りに白のレースをあしらっており、白いイメージがつく雨宮さんに凄く似合っていた。うん、あの傘を恥ずかしながら買った甲斐があったというものだ。
プレゼント用に包みますか?とか聞かれた時、何故だか物凄く恥ずかしくて死にそうだったからな!
そう思いつつ、僕は彼女を見る。うん、本当に――。
「綺麗ですよ」
それを聞いた雨宮さんは、傘を差しながらはじけるような笑顔を見せた。今までで最高の笑顔は、僕の心に沁み込んで離れなかった。