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神様の涙  作者: 美黒
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2 雨宿りは屋内で

 次の日も生憎の雨だった。梅雨だから当然と言えばそうなのだが、もう3日連続だ。そろそろ太陽の顔を拝みたいと切実に願う。

 そういえば天気予報ではしばらくお天道様が拝めないでしょう、なんて事を言っていたのを思い出す。ニュースキャスターさんはぴっかぴっかの笑顔で言っていたけれど、そういうのを笑顔で言われてもどうにもならない。

「早く終わらないかな」

 清掃が行き届いた大学の廊下で、そうごちる。相変わらず賑やかなこの場所は、皆が傘を忘れただの、相合傘をしようだの、雨の話で持ちきりだ。

 ていうか相合傘する奴は滅びろ僕に気を遣え!


 そして、今日も当然のごとく僕は傘を持って来ていない。

 だって家を出るときは降ってなかったんだ。

 雨が降っていないなら傘なんていらないだろ?僕には万が一なんて言葉はないし。そうやって誰に言うでもなく、言い訳をしていると、ある所にたどり着く。

 廊下を一人虚しく歩き、講師の人たちや先輩達が忙しそうに駆けていくのを横目に見つつ、僕は呑気にも目的の場所でその部屋の入口を見上げた。

 そこは、一階の階段を上って左に進むとすぐに見える部屋だった。

 部屋の入口には様々な紙がべたべたと貼られ、バラのイラストを大々的に張り出してあったり、つくしの活用性について詳しく書かれたものがあったり、はっきり言って訳も分からないような植物について解説してあるものばかりだ。

 いかにもちゃんと活動していますよ、という感じに装ってあり、唯一扉の中央に綺麗な字で部屋の名前が書かれている。

 その名前とはこうだ。


『植物研究会』


 そう、ここはありとあらゆる植物の研究をするサークル……という名目の溜まり場だ。ようは、僕はここに遊びに来たのである。

 名前の通り、植物の研究をするためのサークルだという説明を顧問の講師には説明してあるが、それはただの口実だ。

 研究なんてしない。まあ、最近では名前と違った活動をするところも多いらしいし、普通だろう。僕もまともに活動することがないと分かっていて、このサークルに入ったのだ。

 今日はもう全ての講義が終わっていて、いろんな人たちが通り過ぎていく。

 その手達には傘。しかし、僕の手に傘はない。

 ならこの部屋で時間を潰そうという魂胆だ。なかなかにいいアイデアだ。たまには外ではなく屋内で雨宿りせねば。

 それに最近は全くサークルに顔を出していなかったし、そろそろ行かないと僕は行方不明者として心配されるかもしれない。

 そんな事を思いながらドアノブを回そうとすると、それより先に中からドアが開く音がする。部屋の中から今まさに出て行こうとしたのだろう、目の前に人が立っていた。

「お前、また傘持ってきてないのかよ……」

 そう言って呆れ顔で言う彼は僕の友人の幸弘だった。

 幸弘は、切れ長の目に少し日焼けした肌、前髪を後ろに撫でつけたいかにもという感じの体育会系で、まあ顔立ちは精悍な美男子とも言える人物だ。

 しかも見た目は体育会系なのに頭がいい男で、よく勉強を教えてもらっている。

 いつも申し訳ないが、案外教え方が上手くて毎回感謝することになっていた。

 幸弘ほど見た目と中身にギャップがある人物はなかなか居ないのではないかと思ったりもする。

 それに加えて幸弘は唯一この植物研究会の活動らしきものをしっかりとしている人物で、こっそり尊敬していたりもする。身体がでかい半面、植物が好きなんて、結構なギャップだと思う。

 まあ、つまり、幸弘は体育会系の見た目に反して植物が大好きな植物オタって所かな。

「分かっているじゃないか。傘と僕は相容れない存在」

「アホ、んな訳あるか。ま、ここにいるのはいいけど、鍵閉めてけよ」

「え!?何で!?」

「今日はみんな用事があって帰るんだ。俺もな。だからここで一人寂しく遊ぶのは時也だけだよ。ていうか、皆も植物についてもっと研究しろよ……。俺だけじゃ追いつかないっての」

「それはここが遊び場だと知らずに騙されたお前が悪い。そういう目的で僕も入ったんだから」

「めんどくさいから?」

「よくおわかりで!」

「はあ、もういいよ、俺一人でやるから。見てろよ、半年後にはこの研究室を植物園と呼ばせてやる」

 大々的に宣言をしながらきっちりと鍵を僕に渡してくる幸弘は、得意げだった。ああ、はいそうですね。

 それにしてもなんという事だ。誰もいないだと?中を見渡して、部屋の中を確認する。植物の写真がカモフラージュで張り付けてある壁に、散らかったゲーム機や漫画。幸弘が育てているサンセベリアがぽつん、と寂しそうに置かれているその中には確かに誰ひとりいなかった。

「鍵閉めるの、面倒くさいなあ」

 一人で遊ぶのも気が引けるし、何より鍵を閉めて元ある場所に置いて行くという行為が嫌だ。

「相変わらず面倒くさがりだな」

「流石だろ」

「褒めてねえよ!」

 僕はそのツッコミを無視してしょうがないか、と諦める。

 またあの神社で雨宿りをしよう。首を振ってため息をつくと予定を変更し、部屋の扉を閉めた。

 幸弘は呆れた様子で雨宿りをすることを悟ったのか、

「風邪はひくなよ」

 と言ってくれた。こいつ、口は悪いが良い奴なんだよな。心配性だし。

「大丈夫だ。馬鹿は風邪ひかないって言うだろ」

「それ自分の事馬鹿って認めてるよな」

「僕って馬鹿以外に何かある?」

「馬鹿しかないな」

 そんな他愛のない会話を交わしてまたな、と二人別れる。幸弘は、先にレポートを提出しなければならないらしい。そういえば僕も書かなければいけなかったんだった。家に帰ったらやるかとぼんやり考えながら、玄関に向かった。

 窓が映す外の世界は、いつ見ても気が重くなるような雨雲と音。

「行くか」

 そんな雨に負けじと意気込み、大学を出た。


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