年下の恋人がいる友人
「年下の恋人~」で短く3本あります。
その1です。お話自体はつながっていないので単品で読めます。
俺にも人並みに友人がいる。たぶん、親友とかいうレベルのものだ。
その友人、尚下には年下の「彼」がいる。
まあ、別にどうでもいいんだが、こんな話を聞いた。
「で、うざいんだ?」
「だな」
クールな尚下と甘ったれな年下の恋人では、それなりにバランスがとれているのだろうと、他人事に思っていた。
「俺のどこが好きなんですかーとか、人が勉強してんのにぐちゃぐちゃ訊いて来やがって、うざい。死にやがれとか思った」
「ふーん」
口が悪い友人のことだ、きっとその通りに言ったのだろうと思うと、ちょっと同情する。
「曲がりなりにも恋人してるんだから、答えてやればいいのに」
「こっちは受験勉強で忙しいんだ。ガキたれの相手ばっかりしてらんねーだろうが」
たぶん、そういう態度が、不安を煽るんだろうな、と思ったけど、俺も今、真剣に積分解いているからそこまでつっこむ気になれなかった。
「しょうがないよ、ガキなんだから」
「そうなんだよな……あーわかんない、ミチ、ここ、教えろ」
尚下は俺を、ミチ、と呼ぶ。名字が道下だからだ。席が隣になって、名字に互いに「下」という文字があったこともあって、なんとなく親近感を持ったのだ。
「どれ? んーと、これ使うんじゃない? 似た問題、こっちにあった」
「あー…ほんとだ、サンキュ」
俺たちは、一緒に勉強すると、不思議と効率が上がる。普通、友達同士で勉強すると、なかなかはかどらないものだが、俺たちに関しては、お互いに邪魔とならないばかりか、心地よく勉強が進むのだ。
「くそ……」
尚下が、ペンを止めてこぼすから、俺も、ちょっと積分を頭から追いやって尚下の顔を見てやる。
聞いてあげた方がいいような気がしたのだ。
「ホント、おまえって俺のことわかってくれるし、安心する」
ため息をつきながら、ペンを鼻の下に挟んで唇をとがらせる。美形でクールな尚下が、こんなことするなんて、みんな知らないんだろう。
「あんまりうるさく邪魔するから、こう言ってやった」
『いつもいつも、俺の勉強の邪魔してばかりで、本当に俺のこと考えてくれているのか、正直、わからない。
結局、俺の将来とか、がんばっていることとか、そういうことは無視?
俺と居たいっていうのも、おまえがそう望んでいることだろ? 自分がよければ、それでいいってことなのかな。自分の欲が第一ってこと? もうわからないよ』
言ったら、「彼」は予想以上に落ち込んで、泣きそうになって帰ってしまったのだという。
「言い過ぎじゃん」
「わかってるよ……だって、うざかったんだ。今度、模試があるって言うのに」
ていうか模試ですか!
「そんなに気にするほどの成績じゃないだろ」
「だってホントにうるさいんだよ。勉強しててもいいから一緒にいさせてくれって言うから、いさせてやったのに」
「ほんで何時間放置したのよ」
「えーと、2……3時間かな」
「そこまで行くと、放置プレイ?」
「そうかな」
「ヒサは不器用だねぇ」
優しく言ってやると、尚下は、いつもクールなはずの表情を、くしゃっと崩した。
泣きそうなのは、おまえの方だろ、とは言わないでおいてやったし。
そんなガキたれでも、選んじゃったのは尚下で、傷つけたって気にしちゃっているのも尚下なのだ。
「まー、謝る必要はないと思うけど」
「そうかな」
「だってホントにガキたれじゃん」
「そうだけど……でも、俺も、ちょっと冷たかったかなとは思う……」
「あんまりわかってくんないと、いくら好きでも、むかつくよなー。まあ、謝ってきたら、素直に赦してやれば? そのとき、ちゃんと謝った方がいいと思うけど」
俺は、年下は嫌いだ。絶対年上がいい。その辺、尚下の好みは理解できない。
趣味が違うところも、俺たちが親友としてうまくやっていける要因なのだろう。
程なく尚下の携帯が鳴り、案の定年下の彼で、尚下は、俺の目の前で特に気にすることもなく電話をしていた。会話からすると、謝られ、謝り、仲直りしたらしい。
よかったな、と言ってやったら、うれしそうに頷いていた。
「と、まあこんなことがあったわけですよ。ねえ、俺の彼氏として、あんた、どう思うよ?」
と、俺の年上の彼氏に聞いてみた。
「おまえら、仲良すぎだ。むかつく」
そういう意見も、有りですね。
モスバーガーでポテトとコーヒーでブレイクしながら適当に書いた話。
つまり、書いた人の趣味がどっちかというと年上×年下なのです。