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【超短編歴史】関ヶ原の男たち-島津義弘編-

 天下分け目の関ヶ原……

 その時男たちは……!


 テンパる石田三成。

 死にたがる島津義弘。

 働かない吉川広家。

 無駄に大活躍の宇喜多秀家。

 切れっきれの大谷吉継。


 こんな歴史小説見たことない!

 西軍がぞくぞくと引き始めてる。どうやらうちは負けたらしい。戦闘をせずずっと戦況を見守っていた俺が言うのだから間違いはない、ドヤッ。


「西軍がぞくぞく引いてるぜ」


 島津豊久、という俺の甥っ子でもある部下(結構強い)がいう。


「このまま逃げんと俺らも死ぬかね?」


 まぁ死ぬね。と思う俺。敵は数万の大軍、それに比べこちらはせいぜい千人。えぇえぇ、寡兵ですよ。ていうかここまで兵力に差があると逃げても死ぬんじゃないかね。だがもし逃げてる途中に流れ弾にあたって、だなんてことになると、うーんむっちゃカッコ悪い。となると玉砕か?数万の敵を相手にもはや兵法もへったくれも捨てて猪のように突っ込むか?

 どうせ死ぬのなら派手に行きたい。いや、逝きたい。


 どうしようか、

 よし、決めた。突っ込もう。


 んで、まずい局面になれば切腹しよう。うん、この作戦最高。



 だが、今さらだがはっきし言ってなんでこんな戦いに参加したんだろうと思う。まぁー、九州人の俺が一度決めたことにグチグチ言うのは好きじゃないのだが、今回はホント巻き添えもいいところだ。

 正直言って俺あまりあの石田三成とかいう男は好きではないし、かといってほかの連中みたいに豊臣家に恩義を感じてるというわけでもないし……。


「だがさすがに兄貴の人質見殺しにしたら兄貴キレるよな……」


 人質ってーのはあれだ、従属するという約束に送られる人のことだ。

 有り体に言っちまえばいざという時「俺に味方しねぇーとこいつの命はねーぞ」と脅すための人間といってもいい。ちなみに島津家は兄貴・義久の娘が京都にとっつかまっている。ついでに俺の妻も人質になっている。


 だがしかーしだ、現実はそう甘くない。そのころ俺の手元には二百の手勢しかなかった。

 そんな廃校寸前の小学校の全校生徒数くらいの手勢で天下分け目の戦闘に望むことなど到底できず、兄貴に援軍を求めたには求めたのだが、あちらはあちらでなんか「庄内の乱」とかいう紛争の後始末で「おめーの援軍ねーから!」と言われた。


 だが、こういう時に慕われる指揮官というのはありがたいもので、俺の窮地を知った薩摩の部下たちが遠い道を道中自給自足しながら(違法行為を含――んっんー!!)駆けつけてくれたのだ。それと手勢を合わせれば総勢一千人!廃校寸前から一気にマンモス校にまで膨れ上がったのである!

 のだが


「一千人……、フッ(笑)」


 以上が石田三成の反応である。鬼島津もずいぶん舐められたもんだ。

 当然野戦では数が多いのが有利となるが、当然それが全てではない。数の不利をさまざまな方法で覆した事例ってのはごまんとあるものだ。

 舐められて怒るというより俺は少し心配になった。


(こいつ、戦ってのをわかってるんか……?)


 そして、この不安は俺の提示した夜襲案を却下されたことで現実となった。


「しかし、敵は会津征伐からの強行軍で疲れてるし」

「今こそ夜襲を仕掛ければ勝利間違いなし!」


 賛同したのは備前の宇喜多秀家だ。そこはさすが戦上手で知られた宇喜多直家の息子だというべきか、正直ただ秀吉に可愛がられていただけのボンボンだと思っていたが、見直したぞ。それに比べて三成は……やはり戦下手の噂はモノホンか。


 さてそんなこんなで戦は始まった。宇喜多秀家は福島正則と、大谷吉継は藤堂高虎と戦っており両者善戦していた。俺たちはちょうど井伊隊と戦う位置にいたのだが……。


「第二陣!島津家出陣、ついては我が主君三成が突撃するゆえ……!」


 石田隊から使者が来た。馬上からの命令である、これに豊久がキレた。


「おい!てんめぇそれが我が叔父に対する態度かおら!?」

「……は!?」

「いいか!この際だから言っとくけど、義弘殿はお前んちの三成なんかよりずーっとつえーんだからな!」

「おい、豊久……」

「それに比べてお前んとこの三成は女の守る城も落とせない戦下手(忍城攻防戦以来そう呼ばれてた)だもんな、やーい!」

「豊久って……」

「大体なんで上方の戦いに俺らが駆り出された挙句三成みたいな戦下手に家来みたいにへいへいしてないといけないんだ!えぇ!?」

「……あのぉ」

「決めた、俺は西軍を辞めるぞ!殿ーーーー!!」


 バカ野郎、使者が呆れ返ってんぞ。と言ってやりたかったが、こうなった豊久は誰にも止められない。見ろよ、うちの兵も笑ってるじゃんか。だいたい西軍をやめるってなんだよ、今さら東軍に寝返るとでも言うのか?いや、俺は嫌だぞ。


 さて、話は戻って三成は逃げ始めて東軍が俺たち千人の軍勢を取り囲んでいる。多分今俺たちを上から見れば、丸く取り囲んでいる原っぱの真ん中に俺たち一千人がきれいにまとまっているように見えるだろう。東軍から見ればかなり間抜けに見えてるに違いない。


「さぁ、袋の鼠だぞ、どうする?豊久」

「……」

「おい、何を黙ってるんだ」

「いや、この状況でどうすれば格好良く死ねるか考えているんだ」


 阿呆か。っと、一般人なら言うだろうが、そこは俺も九州男児。「あぁ、なるほどなぁ」と頷く。前に豊久と、どうやって死ぬのが一番格好いいかとガチで討論したことがある。俺は玉砕覚悟の斬死がいいと言い、豊久は部下の命を守って腹を切るのが格好いいと言った。

 今この状況を考えると前者のほうが実行に移しやすそうだなぁなどとどうでもいいことを考えている間にも、俺たちを取り囲んでいる東軍の数は増えている。が幸いこちらに襲いかかってくる気配はない。降伏を待っていると考えられる、馬鹿な奴らだ。


「なぁ、豊久」


 豊久に声をかける。


「玉砕覚悟の斬死はお前に譲るわ」

「だから、俺は清水宗治みたく部下の命を助ける代わりに切腹が格好いいって」

「ったく、おまえはそうやってすぐ流行に流されやがって。いいか?昔っから武士は大軍と戦って討ち死にってのが一番の名誉なんだ!」

「そういう叔父さんは頭が古いんだよ!これからの時代は切腹だよ!向こう二百年、切腹が格好いいっていう時代が来る。間違いない!」


 って、こんなこと言っている場合ではない。方針が決まったのだ。方針が決まれば即☆行☆動だ。


「おい、お前ら!!」


 俺は今最も頼りになる千人の兵に話しかけた。


「俺と一緒に死ねええええええええええぇ!!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 この鬨の声に今度は東軍が驚く番だった。それもそうだ、一千人の軍勢が数万の大軍のど真ん中に向かってきたんだから、面食らっても当然というものだろう。

 ほとんどのやつはまともに戦いもせずに自然と道を開けている。俺たちにとっては好都合だ。


「怯むなぁ!!どうせここで逃げても生き延びれはしねぇぞ!どうせ死ぬなら俺の近くで死ね!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 もうむちゃくちゃである、自分でも脅しているのか叱咤しているのかわからない。


「殿!横合いから赤備えの軍勢が!」

「井伊直政隊だぜ!面倒な敵が来やがったぁ」

「うおおおおおおお、死ねええええええええ!!!!!」


 これに島津豊久が立ち止まった。


「俺がここを食い止める!俺をおいて先に行けぇ!」

「うおおおおおお!!!!豊久ああああああああああ!!!!」


 ドラマみたいなセリフを吐いて直政隊に突っ込んでいく豊久を尻目に俺は逃げた。


「豊久ぁぁぁ!!」


 背後で、「叔父さん」という声が聞こえた。豊久の声か。


「切腹をこの日本全国に浸透させてくれえ!!」


 そういうと豊久は


「うおおおおおおおお!!切腹最高おおおおおおおおおおおお!!!」


 それが彼の最後の言葉だった。

 あぁ、やっぱ大軍を相手に斬死ってかっこいいわ。と、豊久の後ろ姿に頭の中でアルマゲドンのテーマ曲を流しながらそう再確認するのだった。

 本来野戦というのは兵が多いほど有利である。城攻めの際は城兵の十倍の兵数が必要である。というのは戦国時代の戦術の常識です。

 その法則で行きますと島津義弘という人物は戦術的に見て非常識極まりない武将、ということになってしまうかもしれません。二十万の明・朝鮮軍に七千の軍勢で向かっていき、千人の軍勢で七万の敵の真ん中を突破する。そして付いたあだ名は「鬼島津」。まさしく義弘のための名前です。

 しかしただの猪武者ではなく、実は現場主義で常に兵と寝食行動を共にし、決して部下ばかりを前に出すことはなかった。逆を言えばそんな結束があったからこそ、成せた奇跡と言い換えることもできます。絶望的な戦況でただの一人も逃げ出さない信頼関係があったからこそ、義弘も一見無茶に見える戦いに挑むことができた。そしてそんな絆を持った義弘の目に、豊臣家の家来同士が相争う関ヶ原の戦いというのはどう写っていたのでしょうか。

 タイプは違う石田三成と島津義弘、忠義に厚いという共通点を考えれば両者の溝は意外と深くはなかったのではないか。それともそこですれ違うからこその乱世なのか。

 これだから戦国時代はやめられません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短いっ、と思ったけどちょっと長くなりましたね。あと三人かぁ 最後の最後で謎が、アルマゲドンは誰の感想?
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