政治物
2012年12月 日本国東京都千代田区国会議事堂本会議場内にて
「よって我が国が最善とする道は東アジアにはありません。東南アジア、アフリカにこそ我々が求めていた物があり、我々が真に友邦として付き合っていける国があるのです……」
2009年に起こった大規模な政権交代。しかし、与党となった革新党は醜態をさらし、瞬く間に国民の支持を失った。そして起こったのが今回の衆議院選挙。結果、自由党が再び政権を握る事となった。自由党の党首は、外交、安全保障の強化、東アジアでなく東南アジアとの友好や未来志向での外交、貿易関係の構築、国内インフラの再建、デフレ脱却。そのようなお題目を掲げて革新党に大勝した。しかし、日本は大震災、不況から未だ立ち直れて居ない。財政の悪化も進んでいる。まさに茨の道と言うわけだ。
所信演説を終えた阿賀は、椅子に座ると大きく息を吸った。議場は未だに荒れている。野党の面々はもちろんの事、一部与党からもざわめきが広がっている。何しろ当たり前だ。日本の首相が、アメリカからの脱却と軍備の強化、東アジアからの脱却。「一部の人間」から見れば、かなり不都合な事を普通に吐いていたからだ。
(まず、第一に経済対策。そして、インフラの再建と共に産業を活発化させる。そして、アメリカではなく東南アジアと例外部分の多い関税の自由化条約の誘いを入れる。中国に変わる企業の進出による雇用拡大やODAを餌にする。そして、同時に国防体制の強化を行ってゆく。そして、最早害にしかならない東アジアの切り捨て。もちろん一気に行っても悪影響しか出ない。十年単位は当然掛かるだろうが。しかし。これしかないのだ。日本を守り、再び再興させるためには。)
首相官邸に阿賀は居た。最低限の生活必需品しか持っていない彼は、選挙運動と最低限の生活に掛かる金以外は養護施設の運営に使っている。それは、彼自体が養護施設の出身だからと言う事情があった。それから独学で国立大学に合格し、卒業後秘書として働き、政治家になった。
「父さん、食事が出来てるよ。」
明るい声で呼んでくるのが優衣。黒い髪をポニーテールで結び、くりくりとした大きい目でこちらを見る。ミトンを付けた両手にはグラタンがあった。
実は、優衣も実の娘では無い。長年の友人が死んだ時に残した一人娘だった。彼女が死んだ時、まだ優衣は幼かった。しかし、いつの間にこんな年齢になっている。大学院2年生といったら、もう婚期だ。料理も出来て、頭も切れる。
死んだ彼女に似ていると思ったが、少なくとも一つだけ違うところがある。彼女はそんな恩を感じるような性格ではなかった。大事なのは自分の利益。都合が悪くなれば裏切る。まるでどこかの熊のような性格だったが、逆に利益になることでは裏切らない。しかし優衣は、なぜか父親に関わる事になると物凄く素直で正直だ。何故そんな事になったのか未だに理解出来ないが、彼女の嬉しそうだったり幸せそうだったりする顔を見ていると、嘘ではないと分かる。長年の経験で、こんな事ばかり身についてしまった。
「分かったよ。ちょっと待っててな。」
パソコンの設定をオフラインに変える。出来るだけ情報を盗まれないようにと近年省庁で機密漏洩への対策が進んでいるが、その効果は定かではない。しかし、パソコンをスタンバイ状態にすると、彼は椅子を立って娘の待つ食卓に向かった。
54 名前:名無し君@絶賛暇 投稿日:2012/12/17 12:15:55 ID:gfd5g14d5
なあなあ、阿賀がアメリカ中抜きして東南アジアとFTA組むとかwww
56 名前:名無し君@絶賛暇 投稿日:2012/12/17 12:16:42 ID:xdgf92et1
>>54
妥当だろうなぁ。経済的には。少なくともアメリカと組んでもまともな未来が見えてこない。保険産業はやられ、農業は壊滅。自動車の規格さえも自国で決められない。そんな感じになりかねないぜ?少なくともアメリカとの反発は必至だけど。
57 名前:名無し君@絶賛暇 投稿日:2012/12/17 12:16:58 ID:oi13fg76d
TPP自体がアメリカの為の経済再生策に過ぎない件についてwww何が中国包囲網だwww
59 名前:名無し君@絶賛暇 投稿日:2012/12/17 12:17:24 ID:qt7hsa68h
>>56
解説乙。しっかし、阿賀はアメリカを敵に回す気か?
61 名前:名無し君@絶賛暇 投稿日:2012/12/17 12:19:08 ID:2ns8ehfd6
大丈夫。確信犯が台無しにしていったから。けれども、日本がアメリカの戦略に必要な地域だと分かりきって瀬戸際外交とか。いつから阿賀は北の将軍様になりやがった?
62 名前:名無し君@絶賛暇 投稿日:2012/12/17 12:19:37 ID:irs4fs78q
ここまで話題にすら上がらない特亜とかwww
阿賀が首相就任後、初めて立ち寄った国はインドネシアだった。ASEANの事務局を抱え、東南アジアの中心とも言える国にて、阿賀は、とある提案を行った。
それは、ネット上で散々流れていたアメリカを一切通さないASEAN諸国との新貿易協定の締結。見返りは、東アジアに変わる工場としての企業の進出と、ODAの援助。そして何よりも、TTPの完全不参加表明。ASEANはこれを積極的に検討すると述べるに留まった。
してやられた。アメリカ合衆国大統領マルク・ケルビン・ダーマの顔は驚愕の色で染まった。日本のTPP不参加。これは、中国への封じ込め政策の失敗と、アメリカの経済の回復が抑制されてしまうと言うことだった。
「まさか彼らにやられるとはな……」
日本はいわばアメリカの腰巾着のような物だった。利用価値のある国家。しかも鎖で繋いでいる。彼らが反逆するはずなど無かったはずだ。しかし、日本はそれを行ってきた。数日前に特使が持ってきた国書。そこの内容を要約すると、
「TPPの不参加とデフレの脱却に賛同しろ。さもなくば、我々はアメリカを国際社会で批判する事になるし、最悪中国側へと鞍替えしてやる。」
後者ははったりかも知れない。しかし、これまでの彼らを見る限り本気だ。新しく就任した首相は一秒でも遅いという風に海外を飛びまわり政務に勤しみ、財務大臣は新しい経済政策を早速実行、円安体勢へと市場は変動している。そして、外交では東アジアからの脱却とそれ以外のアジア、アフリカへの重視姿勢が発表された。同時に、優秀な技術者に大量の予算を与え研究させ、海外への流出を抑えるという機関も作られた。
まあ、東アジアを見切るのは当然だろうな。と一人合点する。日本にとっては厄介な隣人でしかなかったからだ。そして、もしも日本がアメリカ側から離脱してしまえば、国際社会にアメリカの凋落を見せ付ける事になる。
ああ、大統領も楽ではない。選挙で打ち勝ち、任期二期目に突入しようとしていた彼はため息を吐いた。