大甲子園劇場(2)
(なぁに、俺の球が打てるわけがない……)
福田はそう思っていたが、取り巻きの三人はめっぽう弱気で
「福田ぁ……何も映画みたいに対決しなくても……」
とぶつぶつ言っている。その言葉は、福田にとって忌々しかった。
福田とマスクの男は、グラウンドに立った。
福田がボールを握り、男はバットを握っている。
「よしっ!いくぞっ!」
福田は大きく構えた。胸をピっと張っている。
しかし、いつもと違う。
男から殺気が感じられたからだ。
(くっそう……投げにく……)
だが、成滝高校のピッチャーとしてのメンツがあった。
ゆっくりと振りかぶる。
取り巻き達ののど仏が唸る。
ビシュッ
ストレートど真ん中。しかし、男は振らなかった。
第2球目。
素早く振りかぶった。
ドシュッ
ストライク。男は振らずに、微笑した。
第3球目。
更に強くなる男の殺気に、福田は意識を失い掛けた。
(うんぬ……ちっきしょう……ちからづくで……)
大きく振りかぶった。
男は微笑んだ。
球は大きな弧をえがき、空の向こうへかき消えた。
福田は、言葉が出なかった。
一方マスクの男は、微笑みながら福田に近づいた。
「力で封じ込めようとしたからさ!今は抑えられても、そのうち肩にガタがきて、投げられなくなるさっ」
男は空を見上げた。
「この世で幸せになる奴は、どんな奴か知ってるか?」
「知らない……」
「バカだから仕方がないが……まぁこれだけは教えてやるよ!」
空にやっていた目が、地に降りてきた。
「幸せを掴む奴は……頭の良いヤツさ……」