大甲子園劇場(1)
「ピッチャー福田……甲子園への……」
福田は、大きく振りかぶった。
ボールは、轟音と共にグローブへめり込んだ。
「……ストラーイクッ!バッターアウト!成滝高校、甲子園への切符を手にしました!」
歓声と共に、カメラのフラッシュが、福田をバッと囲んだ。
報道陣が福田に駆け寄り、マイクを押し当てた。
「ノーヒット・ノーランで甲子園!!おめでとうございます」
「ありがとうございます」
と福田は短く呟くと、監督の下へ駆け寄り、もう一度報道陣の方を見た。
「報道陣の皆さん!高校野球優勝旗を、持って帰ってきますね!」
その瞬間、フラッシュが場内を明るく照らした。
顔立ちの良い福田は、女性のファンからも人気があり、名投手としての人気もある。
しかし、調子にのりやすい。
今は、彼の絶頂期である。一番、良い時期だろう。
そんな福田も、県予選の度重なる緊張に疲れたか、報道陣を避け、仲間3人と宿泊先のホテルからコンビニへ向かおうとしていた。
部屋を出て、ロビーに向かった時。
白いマスクの怪しい男が、新聞を黙々と読んでいる。
福田は、ぞっとした。その男が、まるで自分を見ているように感じたからだ。
マスクは、微笑み顔で不気味である。深く彫り込まれたマスクの奥に、輝く瞳は見えない。
(あいつ……喧嘩うってうる……)
と福田は思い、マスクの男に近寄っていった。
取り巻きの3人は
「えっ…あっ…おい、福田ぁ……」
と呟いて、怖ず怖ずついていった。
福田は男の前に大きく進み出た。
「俺のサインが欲しいのかい?」
「……いいや」
「じゃぁ、何が言いたい?」
マスクの男は、静かに呟いた。
「お前みたいな奴のサインなど、いらんよ」
福田の顔はカーッと赤くなり、拳を握りしめた。
「てってめぇ……表へ出ろ!ぶん殴ってやるッ!」
と血管を浮きだたせたが、男は冷静に
「先に出てろ。100年後に行ってやる」
と答えた。ついに福田の怒りは爆発した。
「貴様!俺はなぁ、成滝高校のピッチャーだぞ!てめぇ、俺の球が打てるのか!?」
「簡単さ。お前は力づくで球を投げているからな」
男は軽々しく返した。もう福田は止められない状態となった。
「てってめぇ!野球勝負だ!外に出ろっ!」
2人と、福田の取り巻き3人は、近くの広場へ向かった。