Episode 01「序章」
この物語はフィクションです。
作品内に登場する人物名・団体名・及びその他一切は全て、架空の名称であり、実際の名称とは関係ありません。
「…きて…、に…ちゃん」
深い意識の底に、誰かが語り掛けてくる。
「起きて、お兄ちゃん!!」
「うわぁっ!!」
腹部への鈍い衝撃とともに、少年――ヒスイは目を覚ました。
「いい加減にしないと遅刻するよ?今日は入学式なんだから」
寝ぼけた目で辺りを見回すと、自分の腹に妹――ヒナが跨っていた。
「あー、重いな」
(ヒナ、わざわざ起こしてくれたのか。ありがとう。)
・・・
空気が凍り付いた。
「…お兄ちゃん、もう一回言ってみてよ。誰が?なんだって?」
「だから、重いなって...え?あ…」
数舜後、ヒスイは過ちに気付いた。
思ってることと言ったことが逆だ。
寝ぼけていて頭がよく回っていなかった。
「いや、あの、、これは、なんていうか、言葉の綾っていうか……」
必死に助かる道を模索するヒスイ。
すると、あることに気がつく。
まだ頭は目覚め切っていないが、それより先にある部分が覚醒していることに。
いや、覚醒どころか臨戦態勢を取っている己のブツにッ!!
(不味いッ、今この状況でそれは非常に不味いッ!どうにかしてヒナの気を逸らさないと)
必死に身をよじらせて遠ざけようとするヒスイ。
「ちょっ、お兄ちゃん、動かないでよ!!」
だがそれが災いして、ヒナは態勢を崩し膝立ちの状態から尻もちをついてしまう。
そしてヒナが腰を下ろしたその先には、ヒスイの聖剣が仁王立ちで待ち構えていた。
(あ、これ終わった…)
ヒスイが死を覚悟した次の瞬間、
「お兄…ちゃん?なに、これ…」
ついにヒナがMy sonとの邂逅を果たしてしまった。
「もしかして、妹で、興奮したの?」
ヒナの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
「い、いや、これは、ちがっ、ただの生理現象で、朝は必ずこうなって…」
必死に言葉を並べるがもう遅い。ヒナが右手を握りしめ振りかぶっている。
ヒスイの脳裏には、死んだ両親との思い出が流れる。
(あぁ、これが走馬灯ってやつか)
「最っ低...!」
そしてヒスイの意識は再び深い闇へと堕ちていった。
―――二時間後―――
「続きまして、学園長よりご挨拶を賜ります」
「桜の花弁が咲き誇る今日この頃、多くの優秀な生徒が我がエトワール魔導学園にご入学されたことを、心より嬉しく思います。皆さんは今後この学び舎で…… そこ、遅刻ですよ。早く席に着きなさい」
学園長は途中で話を止め、講堂の入口の方を見つめた。
つられて他の生徒たちも一斉にそちらを見る。
そこにいたのは―――もちろんヒスイである。
結局あのまま1時間ほど気絶していたらしい。寝癖が直っておらず、ネクタイも少し曲がっている。
(うわぁ、みんなこっち見てるよ)
大量の視線を浴び気まずそうにするヒスイ。
そのまま静かに中へ足を踏み入れていったが、ここである重大なことに気が付く。
(あれ、僕の席ってどこ?)
そう、自分の席がわからないのだ。なぜって?朝の顔合わせにも間に合わなかったからだよ。
そのまま迷子の子犬のように右往左往していると、
「こっちだよ」
突然背後から声をかけられた。
振り返るとそこにいたのは、腰まで届く豪奢な赤い髪をもった、美しい少女だった。
少女は隣の空席を指さして、手招きをしている。
あまりの美しさに、一瞬見惚れて立ち尽くしてしまうヒスイ。
「なにぼーっとしてるの?早く座りなって」
「あ、あぁ、ありがとう…」
少女の二度目の呼びかけでヒスイは意識を取り戻し、慌てて席へと座る。
「きみ、入学式から遅刻なんてすごいね。あ、私はルナトリア・アリスリーゼ。よろしくね」
「僕はヒスイ・スーノロク。助けてくれてありがとう。よろしくね」
ルナトリアに差し出された手を握り返し、感謝の意を伝える。
屈託のない笑顔に、再び見惚れるヒスイ。
「で、なんで遅刻したの?」
「いや、実はかくかくしかじかで……」
ヒスイは聖剣のことだけ上手く隠して遅刻した理由を話した。
「うわぁ、妹とはいえ女の子に「重い」なんて言うとか、正直信じられないかも……」
若干の軽蔑すら混ざった表情でヒスイを見つめるルナトリア。
「いや、あれは仕方なかったんだって!」
思わずヒスイは、式典の最中であることをすっかり忘れて大きな声を出してしまうヒスイ。
「そこ、遅刻してきたうえにおしゃべりなんて、いい度胸ですね。成績を下げますよ!」
「す、すみませんっ!!」
当然校長に注意され、慌てて前へと向き直るヒスイ。
「続きは、教室でね」
だが、ルナトリアの一言でその後の話が全く頭に入ってこなかったのは、言うまでもない。
―――数十分後―――
入学式が終わり、生徒たちは各自の教室へと戻ってきた。
全員が自分の席に座ったタイミングで、担任の先生が話し始める。
「え~っとぉ。今日から~、皆さんの担任になったぁ~、アスナ・アルレリアです~。よろしくお願いします~」
アスナと名乗った担任は、おっとりとした雰囲気の、女性だった。
雰囲気からはまるで覇気を感じない。本当にこの学園の教師なのか怪しくなる。
他に特徴を挙げるとするなら……胸が大きい。
「いきなりで申し訳ないんですけど~、私~、今から先生たちの会議に行かないといけなくて~。私が戻ってくるまで~、皆さんでお喋りでもしててくださ~い」
そう言い残し、いきなり教室から出て行ってしまった。
唐突な出来事に、教室は静まり返る。
すると、一人の生徒が教壇の前に出てきた。
「みんな、ちょっといいかな」
その生徒は、金色に輝く髪を持った、少し童顔な男子だった。
「僕はルクス・エルヴィータ。先生がおっしゃっていたように、みんなで軽い自己紹介でもしたいと思うんだけど、いきなりそんなこと言われてもみんな困惑しちゃうだろうから、この場は一旦僕が仕切らせてもらってもいいかな?」
そんな申し出に、他の生徒は無言で頷き肯定を示す。
「ありがとう。じゃあ早速なんだけど、まずは隣の席の人と自己紹介をしてみようか」
ルクスがそう言うと、他の生徒たちは次々に会話を始め、教室内が騒がしくなる。
「また席が隣なんて運命だねっ!ヒスイくん」
すると、ヒスイが声をかけるよりも早く、相手――ルナトリアから声がかけられた。
「…ソーダネ」
「なんか棒読みじゃない?」
俺ら初対面だよね?なんでコイツはこんなフレンドリーな感じで話しかけてくるの?怖いんだけど?なにこのクソ陽キャ。
「あ、そうだ、そのルナトリアさんっての、やめない?」
唐突にそんなことを言い出してきた。
ポチャーン、という幻聴がヒスイの頭に流れる。
「気軽にルナって呼んでよ」
あ、こいつあれだ。クラスに一人はいる、陰キャ男子を勘違いさせるタイプのギャルだ。ん?ギャルってなんだ?まぁいいか。
「よろしくね、ヒスイくん!」
「う、うん。これからよろしく、ルナトリアさ…」
ルナトリアさんと言いかけて睨まれるヒスイ。
「…よろしく、ルナ」
「よろしい。やればできるじゃん」
満足したように微笑むルナ。
その可愛らしい姿に一瞬見惚れるヒスイ。
その数秒、その一瞬の油断が、ヒスイに近づくどす黒い何かの発見を遅らせた。
「―――」
その何かが短く呟くのと同時に、ヒスイは、己の死を悟った。
☨
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