第2章「虚」:穴と振り子
新宿の夜は暗く、湿っぽく、うつろな視線が注がれていた。うつろは静かな路地裏を、的確に動き回っていた。次の獲物は、雨とネオンに気をとられながら一人で歩いている若い女性だった。
瞬時に、うつろは彼女を捕らえ、意識を失わせた。目を覚ますと、冷たく、何もない地下室に縛り付けられていた。コンクリートの壁には、目の前に置かれたテレビの明かりがかすかに反射していた。
スクリーンに青みがかった光が映し出された。歪んだ声が語り始めた。
「ようこそ。あなたはこれから絶対的な恐怖を体験することになる。もし脱出に失敗すれば、あなたは死ぬ。これは穴と振り子の物語…」
物語が進むにつれ、若い女性はロープを振り切り、脱出方法を見つけようと試みた。しかし、どの試みも無駄に思えた。象徴的な振り子、つまり彼女の頭上でゆっくりと揺れる吊り下げられた葉っぱは、緊張とパニックを増幅させた。
ついに、恐怖と脱出の不可能さが彼女を圧倒した。若い女性は屈服し、恐怖の残響だけが残された。
ウツロは儀式めいた静けさで近づき、鋳型を用いて、まるで作品の不気味な印のように、遺体に特別な「虚」の印を残した。彼は慌てることなく、遺体を街の目立つ場所、賑やかな路地へと運び、そこで発見されれば衝撃と不安が広がるだろう。
街はすぐに彼を発見するだろう。一方、影の中でウツロは完成した作品を見守り、自らの恐怖が広がり、手がかりと恐怖、そして謎を残していくことに満足感を覚えていた。
翌朝、殺人課に通報が入った。新宿の路地裏で遺体が発見されたという。現場に到着すると、真っ先に駆けつけたのは新任の刑事たちだった。
藤本麗奈はしっかりとした足取りで路地の隅々まで見渡していた。長身といかつい物腰は、たちまち敬意を抱かせた。隣では、力強く落ち着いた雰囲気の森本大輔が好奇心旺盛に辺りを見回し、時折微笑んで場の緊張を和らげていた。
「うわあ…新宿にしては寒いな」大輔は遺体を見ながら言った。「犯人は相当ヤバいな」
青木はレイナを見ると緊張し、思わず少し不安げな表情で見つめた。
「おはようございます…」と、プロフェッショナルな口調で言った。
レイナは眉を上げて、彼を上から下まで見下ろした。
「青木、君はまだ成長の余地がある。私のことではなく、仕事に集中しろよ。」
長谷川巧と青木俊平が間もなく現場に到着した。巧は冷静に現場を視察し、青木は衝撃の事実を受け止めようとしていた。
若い女性の遺体は丁寧に並べられ、「虚」の刻印が正確に刻まれていた。細部に至るまで、犯人の綿密さと芝居がかった演出が見て取れた。
「これは…」青木は戦慄を抑えきれず言った。「どうしてこんなことができたんだ?」
「カットは精密で緻密だ」と、チームが遺体安置所に到着した時、宮下薫は説明した。「エドガー・アラン・ポーの『落とし穴と振り子』の要素を再現している。偶然ではない。象徴的で劇的なのだ」
大輔は頷いた。
「そうだな…犯人は間違いなく文学に精通しているな」
レイナは腕を組み、冷たく遺体を見つめた。
「本当に…彼は几帳面なサイコパスだ。我々の少しでも不注意が、同じことを繰り返す原因になる。」
タクミはチーム全員を見渡し、細部まで記録した。
「よし。パターンを見つけなければならない。全ての痕跡、遺体の位置全てが手がかりになる。この男は何もかも見逃さない。」
遺体が遺体安置所に運ばれると、チームは細部に至るまで綿密に調査を開始した。宮下薫は傷跡、遺体の位置、そして「虚」の刻印を確認し、巧たちは動きを注意深く見守った。
突然、薫は眉をひそめ、遺体の中から見つけた小さなものを拾い上げた。
「待って…何かあるわ」
皆が身を乗り出して覗き込んだ。それは小さなカードで、血や湿気から守るためにビニールで丁寧に包まれていた。薫はそっと封筒を開け、そこに書かれたメッセージを声に出して読んだ。
「『父の罪は子に降りかかる』ということわざがあるのはなぜ?
『母の罪は子に降りかかる』ということわざがないのはなぜ?」
重苦しい沈黙が部屋を満たした。巧は視線を落とし、メッセージの真意を思案した。
「これは…単なる殺人じゃない」と彼は言った。「奴は俺たちを混乱させ、考えさせようとしている。まるで俺たちの心を弄んでいるようだ」
大介は腕を組み、眉をひそめながら、苦笑いした。「まあ…確かに成功してるな」
レイナはカードを見つめながら付け加えた。
「ただの芝居がかった演出じゃないわ。これはもっと深い何かを示唆しているの。もしかしたら、彼は私たちに道徳観を問いただしたり、被害者に家族的な共通点を見つけさせたいのかもしれないわね。」
青木は黙ったまま、考え込み、いくぶん動揺した様子で、メッセージを解読しようと頭をぐるぐる回していた。
「変だ…」と彼は呟いた。「こんなのは初めてだ。」
タクミは頷いた。
「よかった。これで彼の心情について間接的な手がかりが得られる。だが、同時に一つ確かなことがある。あらゆる殺人は計画的で、意味のある計画なのだ。我々は単なるサイコパスを相手にしているわけではないのだ。」
カードを読んだ後、チームは静まり返り、それぞれがカードの意味を理解しようとした。巧は眉をひそめ、何か関連性があるのではないかと考えた。
「被害者には家族ぐるみの繋がりがあるかもしれない…このメッセージの意味を説明できる何かがあるかもしれない。」
麗奈は腕を組み、慎重に頷いた。
「そうかもしれない。あの若い女性の家族や経歴を調べてみるべきだ…」
大輔はため息をついた。
「どうだろう…これは偶然というより心理戦のようだ。まあ、それが犯人のやり方だ。芝居がかった演技をするんだ。」
思案に耽る青木は、家族の繋がりについて考えずにはいられなかった。同時に、あの若い女性が「誰かの罪を償う」かもしれないという考えが彼を不安にさせた。
薫は遺体を再び調べながら、こう付け加えた。
「手がかりとなるものは排除できないが…このメッセージは被害者とは何の関係もないような気がする。もしかしたら、彼女ではなく、犯人の過去に何か示唆するものなのかもしれない。」
巧は事件の複雑さを認識し、ゆっくりと頷いた。
「その通りだ。その説は否定できない。奴は我々の心を弄んでいる。疑わせ、存在しないパターンを探させようとしている。あらゆる細部が我々を混乱させるために仕組まれている。」
遺体安置所の明かりに照らされて輝くカードは、我々に忘れがたい警告となった。虚は殺すだけでなく、自分を止めようとする者を心理的に操るのだ。狩りは始まったばかりだった。




