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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
聖なる泉の守護者
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古の守護者たち





ナタリーの脳裏にフラッシュバックした断片的な記憶は、彼女の「力」が単なる偶然や個人的な才覚ではないことを強く示唆していた。彼女は、両親が遺した膨大な蔵書の中から、特に古い、そして隠されるように保管されていた一冊の革装丁の本を見つけ出した。それは、ローズ家が代々、この村の「守護者」としての役割を担ってきた歴史を記した、秘められた記録だった。


本には、ローズ家の始祖が、この村に古くから伝わる「聖なる泉」を守護する任を負っていたこと、そして、その泉の力を借りて、村の平和と繁栄を維持してきたことが記されていた。泉の力は、村に豊穣をもたらすだけでなく、悪意ある者たちを退け、病を癒し、さらには人々の心を繋ぐ「絆」を強化する力を持つとされていた。しかし、その力を発動させるためには、代々の守護者が厳しい修行を積み、清らかな心と、揺るぎない覚悟を必要とすると書かれていた。


ナタリーの母親もまた、この守護者の役割を担っていたという記述に、ナタリーは目を見張った。母親がかつて石碑の前で呪文を唱えていた記憶は、その「聖なる泉」と深く関係しているのではないか。そして、自身の「夜の顔」で発動させていた「何か」は、泉の力の一部だったのかもしれない。


「執事。この『聖なる泉』について、何かご存知ですか?」


ナタリーは、古書を片手に執事に尋ねた。執事の顔には、一瞬、驚きと困惑の色が浮かんだ。彼はローズ家の執事として、この家の秘密を全て知っていたが、ナタリーの母親が亡くなって以来、この話題に触れることは避けていたのだ。


「お嬢様…その書物は、本来、時期が来るまでお嬢様にお渡しするべきではないと、奥様から固く言い含められておりました」


執事は、観念したように息を吐き出した。


「しかし、お嬢様がご自身でその真実に辿り着かれたのなら、私に隠す理由はありません。『聖なる泉』は、この村の深い森の奥、地図にも載らぬ場所にございます。そして、お嬢様の母親様は、まさにその泉の守護者であられました」


執事は、ナタリーの母親が、いかにして泉の力を使い、村を幾度となく危機から救ってきたかを語り始めた。旱魃の年には雨を降らせ、疫病が蔓延した際には病人を癒し、そして、村に災いをもたらそうとする悪しき者たちを、不可解な現象で退けてきたという。ナタリーが廃屋で発動させた「何か」も、母親が使っていた力と酷似していることを、執事は確信していた。


「お嬢様の母親様は、お嬢様が幼くしてその力を発現させていることに気づいておられました。しかし、その強大な力が、お嬢様を苦しめることになることを案じ、力を封印し、その記憶を曖昧にさせておられたのです。いつか、お嬢様ご自身がその真実を知る時が来るまで、と」


ナタリーは、母親が自分を苦しみから守るために、そこまでしてくれていたことを知り、胸が締め付けられる思いだった。同時に、自身の「夜の顔」の冷徹さや、感情を排した行動が、すべてこの「守護者」としての宿命と、封印された力の影響だったのかもしれないと理解した。彼女の二つの貌は、天使のような優しさと、村を守るための冷徹な使命感、そしてその根源にある「聖なる泉」の力が、複雑に絡み合って生まれたものだったのだ。


「では、あの廃屋での『何か』も…」


ナタリーの問いに、執事は深く頷いた。


「はい。それは泉の力が、お嬢様の中で覚醒し始めている証でございます。しかし、その力は、使い方を誤れば、村に災いをもたらす可能性もございます。だからこそ、奥様は慎重に、お嬢様がご自身の意思でその力を受け入れる時を待っておられたのです」


ナタリーは、自分のルーツと、秘められた「力」の真実を知り、これまでの疑問が全て氷解するような感覚を覚えた。彼女の行動のすべてが、この「守護者」としての宿命に繋がっていたのだ。しかし、同時に、その力の重さと、未来への責任を強く感じた。


「聖なる泉」の守護者。それが、ナタリー・ローズの真の姿だった。彼女は、この古の使命を受け入れ、村を守り続けることができるのだろうか。そして、その強大な力を、いかにして制御し、使いこなしていくのだろうか。物語は、ナタリーが自身の運命と向き合い、真の守護者として覚醒していく過程へと進んでいく。

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