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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
聖なる泉の守護者
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古い記憶、新たな兆し





ナタリーと神父の間の、言葉にはされない理解は、村に新たな穏やかな空気を運んできた。神父は、これまで以上に積極的に孤児院の運営に携わるようになり、ナタリーの負担を減らそうと努めた。ナタリーもまた、神父の信頼を感じ取り、これまで以上に心穏やかに子供たちと過ごす時間が増えた。しかし、その平和の裏側で、ナタリーの「隠された力」に関する、古い記憶が静かに蘇り始めていた。


村の年老いた者たちの中には、ナタリーの両親、特にその母親を知る者がいた。彼女の母親は、ナタリーと同様に、人並外れた知性と、時として常軌を逸した行動を見せる、謎めいた女性だったと語り継がれていた。村の古老の一人である老婆は、ある日、ナタリーが孤児たちに植物の薬効を教えている姿を見て、深い皺の刻まれた顔に、遠い昔の記憶を呼び覚ますような表情を浮かべた。


「ローズ家の娘は、昔から不思議な力を持っていたものさ…」


老婆は、独り言のように呟いた。その声は、風に運ばれ、ナタリーの耳には届かなかったが、その言葉には、ナタリーの持つ「何か」が、両親、あるいはそれ以前のローズ家から受け継がれたものである可能性が示唆されていた。


ナタリー自身も、時に、自身の行動の根源にある「何か」について、漠然とした疑問を抱くことがあった。なぜ自分は、これほどまでに村の秩序にこだわり、感情を排してまで冷徹な判断を下せるのか。なぜ、あの廃屋で、目に見えない「何か」を発動させることができたのか。彼女は、両親が遺した書斎の奥で、古い文献や日記を読み漁ることが増えた。そこには、ローズ家が代々、この村の守護者としての役割を担ってきた歴史が記されていたが、具体的な「力」についての記述は見当たらない。


ある夜、ナタリーは、母親が残した古いオルゴールを手にしていた。そのオルゴールは、彼女が幼い頃に壊れてしまい、音を奏でることはなかった。しかし、ナタリーが指先でそっと触れると、微かな、しかし確かに、オルゴールの中から何かが「応える」ような感覚があった。それは、物理的な音ではない、何か霊的な、あるいは潜在意識の奥底から呼び覚まされるような感覚だった。


その瞬間、ナタリーの脳裏に、断片的な映像がフラッシュバックした。幼い自分が、母親の手を取り、森の奥深くへと足を踏み入れる光景。母親が、古びた石碑の前で、何かの呪文を唱えている姿。そして、石碑から放たれる、淡い光――。


しかし、その映像はすぐに途切れ、彼女の意識は現実に戻った。オルゴールは相変わらず音を発しない。だが、その短い体験は、ナタリーの心に確かな兆しを残した。「力」は、やはり自分の中に眠っており、それは両親、特に母親から受け継がれたものなのではないかという予感。


執事もまた、ナタリーが母親の遺品に触れている時、彼女の周囲に漂う空気がわずかに変化することに気づいていた。彼は、かつてナタリーの母親が、村の危機に際して、不可解な方法で解決へと導いたことを知っていた。彼女の母親もまた、ナタリーと同じように、昼と夜で異なる貌を持つ人物だったのだ。


ナタリーの「力」の起源、そしてその本当の目的は、彼女自身の古い記憶の中に隠されているのかもしれない。そして、その記憶が呼び覚まされる時、彼女の二つの貌は、一体どのように変化していくのだろうか。物語は、ナタリーの過去と、彼女の「力」の真実へと、さらに深く潜っていく。

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