記憶の扉
オリヴァーの「虚無の秩序」の装置から放たれる圧倒的な「闇の気」に、ナタリーは苦戦を強いられます。しかし、彼女は諦めませんでした。泉の囁きは、この装置がオリヴァー自身の深い「虚無」の感情と共鳴していることを伝えてきました。ナタリーは、この「虚無の秩序」を打ち破るには、オリヴァー自身の心の奥底にある「闇」の根源に触れる必要があると直感します。
ナタリーは、自身の「統合された貌」の力を、装置の「闇の気」を押し返すのではなく、その「虚無」の波動を辿り、オリヴァーの心へと向かわせます。泉の清らかな光が、オリヴァーの精神に触れると、彼の脳裏に封印されていた過去の記憶が、走馬灯のように流れ始めます。
幼いオリヴァーは、とある大国の王子でした。しかし、彼は病弱で、常に死の恐怖に怯えていました。彼の両親や周囲の人々は、病に苦しむ彼を見ては悲しみ、絶望し、そして「欲」にまみれた治療法を求めるばかり。そんな感情の波に翻弄される人々の姿に、幼いオリヴァーは「感情こそが、この世の苦しみの根源である」という考えを抱くようになります。
ある日、彼の国を疫病が襲い、多くの人々が苦しみました。彼の両親も、そして愛する妹も、感情のままに絶望し、次々と命を落としていきました。感情のままに苦しみ、そして死んでいく人々を目の当たりにしたオリヴァーは、自らの感情を完全に「無」へと押し殺し、そして「感情がなければ、苦しみも、死もない」という「真理」に囚われることになります。
ナタリーは、オリヴァーの「虚無の秩序」が、彼自身の悲しく、そして深い「喪失」から生まれたものであることを理解します。彼は、愛する人々を失った悲しみと絶望に耐えきれず、感情そのものを否定することで、苦しみから逃れようとしていたのです。彼の瞳の奥底に、微かに残る「悲しみ」の澱みをナタリーは感じ取ります。
ナタリーは、自身の「統合された貌」の力で、彼の「悲しみ」を包み込み、泉の癒しの力を流し込みます。オリヴァーの顔に、これまで見せたことのない苦痛の表情が浮かび、装置から放たれる「闇の気」が揺らぎ始めます。これは、彼自身の「虚無」の根源が揺さぶられている証拠でした。




