無の変質
ナタリーは、届かない歌声に絶望するのではなく、自身の「統合された貌」の力を、水晶の「虚無」の波動そのものに直接働きかけることに集中します。泉の清らかな波動を最大限に引き出し、古の箱の「変質」の力を呼び覚まします。それは、対象の性質そのものを変化させる、ナタリーがこれまでほとんど使ったことのない、最も根源的な力でした。
ナタリーが水晶に手を置くと、七色の光が水晶を包み込みます。「虚無」の波動と「変質」の力が拮抗し、時計台の内部は激しい光と闇の渦に包まれます。ナタリーは、水晶が放つ「虚無」の囁きに、オリヴァーの冷徹な思想と「感情なき秩序」への執着を感じ取ります。それは、彼が「欲」や「憎悪」といった負の感情を忌み嫌い、それらを生み出す「感情」そのものを世界から排除しようとしていることを示していました。
ナタリーは、泉の光と古の箱の力を融合させ、自身の心の中にある「希望」と「共感」、そして「悲しみ」や「喜び」といったあらゆる感情の輝きを、水晶へと流し込みます。「感情がなければ、苦しみもない。だが、感情がなければ、真の喜びも生まれない…!」ナタリーの強い思いが水晶に伝わります。
やがて、水晶は脈動を止め、その表面に微かな亀裂が走り始めます。そこから、光が漏れ出し、水晶全体が淡い光に包まれます。そして、水晶はゆっくりと、しかし確実に、透明な輝きを放つ「生命の源」のような光の結晶へと変質し始めました。それは、「虚無」が「存在」へと、そして「無関心」が「可能性」へと転じられた瞬間でした。




