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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
新たな旅立ち
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黄金の闇





人目を避けるように通路を進むと、ひんやりとした空気が肌を刺した。通路の壁は粗い石造りで、豪華な夜会の会場とはまるで異なる雰囲気を醸し出している。足元には湿った土の匂いが漂い、不気味な静寂がナタリーたちを包み込んだ。


やがて、通路は巨大な扉へと続いていた。重厚な鉄でできた扉には、不気味な紋様が刻まれており、そこから微かに「闇の気」が漏れ出している。ナタリーは泉の力を集中させ、扉に触れた。ひやりとした冷たさと共に、強い負の波動がナタリーの手に伝わってきた。それは、無数の人間の「欲」と「執着」が凝縮された、まさに**「黄金の澱み」**の波動だった。


「これは…想像以上です」ナタリーは呟いた。


執事が扉に耳を当てた。


「中からは何も聞こえません。しかし、この邪悪な気配は…」


ナタリーは意を決し、扉の取っ手に手をかけた。錆びついた金属が軋む音を立て、扉はゆっくりと開いた。


その先には、広大な地下空間が広がっていた。空間の中央には、巨大な水晶のような塊が鎮座している。それは、金色の光を放ちながらも、その輝きはどこか濁っており、周囲の空気を重く淀ませていた。水晶の表面には、無数の小さな「光の点」が吸い寄せられるように集まっては、その光を失っていくのが見えた。泉の囁きは、あの光の点が、この都市の人々の「欲」や「執着」が形になったものだと伝えてきた。そして、その感情の集合体が、この巨大な水晶の中に吸い込まれ、**「黄金の澱み」**を形成しているのだ。


空間の奥には、薄暗い作業台があり、その上には見たことのない奇妙な装置がいくつか置かれていた。それらは、水晶から放たれる負のエネルギーを、何らかの形で増幅しているようだった。


その時、空間の影から一人の男が現れた。それは、他でもないオリヴァー・ド・ランカスターだった。彼はいつものように穏やかな笑みを浮かべていたが、その瞳の奥には、実験の成果を前にした科学者のような冷たい光が宿っていた。


「やはり、おいでになりましたね、聖女殿。まさか、私が用意した地下の**『実験場』**までたどり着くとは。あなたの直感には感服いたします」


オリヴァーはそう言って、ナタリーの方へゆっくりと歩み寄ってきた。彼の言葉に、「実験場」という単語が混じっていたことに、ナタリーの心にぞっとするような感覚が走った。


「これは…一体何なのですか?」ナタリーは、水晶の塊を指差して尋ねた。


オリヴァーは、慈しむような視線で水晶を見つめた。


「これは、私が長年研究し、この都市の**『地の息吹』と人々の『欲』を凝縮して作り上げた、まさに『黄金の澱み』。この都市のあらゆる負の感情を吸い上げ、そしてそれを『力』**へと変換する、無限のエネルギー源です」


「あなたは、これを何に使うつもりなのですか?この澱みは、この都市の魂を蝕んでいます!」ナタリーは憤慨して言った。


オリヴァーは顔色一つ変えず、淡々と答えた。


「この澱みこそが、新たな**『秩序』を築くための礎となるのです。聖女殿は、『希望』によって人々を結びつけようとする。しかし、それは脆い。人間は、常に『欲』と『恐れ』**に支配されている。ならば、その本質を最大限に活用し、誰もが抗えない強固な『秩序』を築き上げればよい」


オリヴァーは、その言葉に確信を込めていた。彼の表情には、一切の迷いがなかった。それは、彼が自らの思想を絶対的なものとして信じている証拠だった。


「その『秩序』とは、どのようなものなのですか?」ナタリーは問うた。


オリヴァーは水晶に手をかざし、その表面を優しく撫でた。


「この澱みが、都市のすべての感情を吸収し、制御する。人々は**『欲』と『恐れ』から解放され、感情の起伏のない、安定した存在となる。飢えも争いもなく、ただ与えられた役割を全うする。それが、私が目指す『完全なる虚無の秩序』**です。そこには、聖女殿の言う『絶望』も『憎悪』も存在しない。なぜなら、すべての感情が、この澱みに吸収されるからです」


ナタリーは愕然とした。それは、感情のない人形のような世界。マリオンの凍てつく心とは比較にならない、より根源的な感情の消滅を意味していた。


「それは、人間ではない!生きている意味がない!」ナタリーは叫んだ。


オリヴァーは、ナタリーの言葉に耳を傾けることなく、さらに続けた。


「あなたの**『希望の光』もまた、この澱みによって吸収されるでしょう。そうすれば、この『黄金の澱み』は、より純粋で、より強力な『虚無の力』**となる。そして、その力で世界を覆い尽くすのです」


オリヴァーの言葉は、彼の最終的な目標が、この都市に留まらず、世界全体を「虚無の秩序」で覆い尽くすことにあると告げていた。彼は、ナタリーの力を利用して、その目的を達成しようとしているのだ。


ナタリーは、自身の「統合された貌」の力が、彼の言う「虚無の力」に吸収されるという言葉に、深い憤りを感じた。しかし、同時に、彼女の心には新たな決意が宿った。


「私は、あなたのような『秩序』は認めません!人々の感情を奪い、心を支配するような世界は、決して真の平和ではありません!」


ナタリーはそう叫び、泉の力を最大限に引き出し、自身の身体から清らかな光を放ち始めた。その光は、地下空間に満ちる「闇の気」を押し返し、水晶の「黄金の澱み」を照らし出した。


オリヴァーは、ナタリーの放つ光を見て、わずかに目を見開いた。


「ほう…あなた自身の力を、ここで解放するとは。やはり、聖女殿は期待を裏切りませんね」


彼は、ナタリーの行動をまるで予測していたかのように、ゆっくりと手を広げた。その手から、水晶の「黄金の澱み」へと、微かな「闇の気」が流れ込んだ。すると、水晶から放たれる負の波動が、瞬く間に増幅された。空間全体が震え、ナタリーの放つ光が、その波動によって歪められていく。


「さあ、聖女殿。あなたの**『希望』が、私の『虚無』を打ち破れるか。この『黄金の澱み』**の中で、その真価を見せていただきましょう」


オリヴァーの言葉と共に、地下空間に「欲」と「執着」、そして「虚無」の波動が満ち溢れた。ナタリーの目の前には、これまでで最も強大な「闇」が立ちはだかっていた。

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