闇に囁く影 ③
夜会の華やかな喧騒が続く中、ナタリーはオリヴァー・ド・ランカスターと交わした言葉を反芻していた。彼の言葉は、これまで遭遇した「虚無の徒」の誰とも異なり、単なる破壊や絶望の誘発ではなく、人間の根源的な「欲」を利用した、より巧妙な「秩序」の構築を示唆していた。泉は、オリヴァーがこの都市の「地の息吹」から湧き出る「欲」と「執着」の波動を意図的に集め、増幅させていることを伝えてきた。それは、まるで都市そのものの負の感情を培養しているかのようだった。
ナタリーはデュークの私室で感じ取った地下倉庫の「闇の気」と、オリヴァーの存在が密接に結びついていることを確信した。あの「黄金の澱み」は、オリヴァーの計画の核なのだろう。この都市を、彼が望む「秩序」に変えるための、巨大な「力の源」として。
執事が心配そうにナタリーの顔を覗き込む。
「ナタリー様、やはりここは危険です。すぐにでもこの都市を離れるべきかと」
ナタリーは静かに首を振った。
「いいえ、執事。私には、この澱みを浄化する使命があります。そして、オリヴァーの企みを阻止しなければなりません。彼は、これまで出会ったどの『虚無の徒』よりも、巧妙で危険です。彼の言う『秩序』が、人々に幸福をもたらさないことは明らかです」
ナタリーは再び泉に意識を集中させた。地下の「黄金の澱み」は、夜会の盛り上がりと共に、その力を増しているようだった。人々の「欲」と「見栄」、そして「嫉妬」の感情が渦巻き、それが澱みの栄養となっていた。このままでは、都市は内側から腐敗してしまうだろう。
夜会が最高潮に達した頃、ナタリーは会場の隅に、人目につかない通路があることに気づいた。泉の囁きが、その通路の先に「黄金の澱み」の源があることを示していた。執事は不安げな表情を見せたが、ナタリーの固い決意の前に押し黙った。




