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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
新たな旅立ち
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凍てつく心






ナタリーの申し出にも、マリオンは感情のこもらない声で「結構です」とだけ答え、再び患者の看病に戻りました。ナタリーは、その冷たい拒絶にたじろぎましたが、泉の囁きはマリオンの心の奥底に、深い悲しみと、感情を押し殺さなければ生きていけないという「凍てつく壁」があることを伝えていました。それは、彼女が自身の心を護るために築き上げた防衛線であり、同時に彼女が患者と向き合う上で、感情に流されず冷静でいられる理由でもありました。


ナタリーは、マリオンが感情を表に出さないことが、けっして冷酷さからではないことを理解しました。むしろ、あまりにも多くの悲しみを目にし、感じすぎてしまった結果、感情を麻痺させることでしか、この状況に立ち向かえなかったのかもしれないと推測しました。ナタリーは、その「凍てつく壁」を壊すのではなく、溶かすような形で、マリオンの心に寄り添いたいと強く感じました。


ナタリーは諦めず、仮設テントの片隅で、自身にできることを探し始めました。汚れた包帯を洗濯し、水を汲み、患者の体温を拭う手伝いをしました。マリオンは相変わらずナタリーに目を向けることはありませんでしたが、ナタリーの淀みない動きと、患者たちに向ける真摯な眼差しを、マリオンは無意識のうちに感じ取っていました。


夜になり、仮設テントの中が静けさに包まれると、マリオンは一人、静かにパンをかじっていました。ナタリーは、温かいハーブティーを差し出しました。「よろしければ、どうぞ。少しは身体が温まるかと。」


マリオンは、一瞬ためらいましたが、ゆっくりとハーブティーを受け取りました。そのわずかな間、ナタリーの指がマリオンの指に触れ、泉の穏やかな波動がマリオンの心を包み込みます。マリオンの凍てついた心が、微かに揺らぐのをナタリーは感じ取りました。


「なぜ…」マリオンが、ぽつりと呟きました。「あなたは、ここにいるのですか?」


ナタリーは、マリオンの問いかけに、これまでで最も率直な言葉を選びました。「私は…あなたのようになりたいのです。この悲しみの中で、感情に流されず、ただひたすらに人々を救う…その強さに、心を打たれました。」


マリオンは、ハーブティーの湯気越しに、ナタリーの瞳をじっと見つめました。その瞳には、かつてないほどの感情の揺らぎが宿っていました。ナタリーの言葉が、マリオンの心の奥底に眠っていた「何か」を刺激したのです。しかし、マリオンは何も言わず、再び視線を落としました。


ナタリーは、マリオンの沈黙を尊重し、ただ静かに寄り添いました。しかし、彼女の心の中では、マリオンの「凍てつく壁」を溶かし、真の希望の光を灯すためにはどうすればいいのか、その答えを探していました。そして、泉の囁きが、マリオンの心の奥底に、深い後悔と、救えなかった命への「罪悪感」が隠されていることを伝えてきました。それが、彼女が感情を排除した理由であり、同時に彼女が人々を救おうとする原動力でもあることを。

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