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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
聖なる泉の守護者
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交錯する思惑





ナタリーが廃屋に残した奇妙な記号は、村に小さな波紋を広げた。不吉な予兆だと囁く者もいれば、単なる悪戯だと一笑に付す者もいた。しかし、その夜の出来事を知るナタリーは、記号の意味を正確に理解していた。それは、彼女が「排除すべきもの」と定めた者たちへの、静かな警告だった。


翌日、ナタリーはいつもと変わらぬ笑顔で孤児たちと過ごしていた。彼らに世界の地理を教えながら、遠い異国の文化やそこに暮らす人々の生活について語る。子供たちの瞳は輝き、ナタリーの話に引き込まれていく。その姿は、前夜の冷徹な「番人」とはまるで別人のようだった。


「ナタリー先生、そこには本当にそんな素敵な国があるの?」


小さな男の子が目を丸くして尋ねた。ナタリーは優しく微笑み、彼の頭を撫でる。


「ええ、世界は私たちが思っているよりもずっと広くて、素晴らしいものに満ちているわ。だから、たくさん学んで、いつか自分の目で見てごらんなさい」


彼女の言葉には、子供たちの未来への願いが込められていた。彼女が孤児たちに教育を施すのは、単なる慈善行為ではなかった。彼らに知識と教養を身につけさせることで、この貧困から抜け出し、自らの力で生きていく術を教えようとしていたのだ。それは、村の未来を担う人材を育成するという、ナタリーの長期的な計画の一部だった。


しかし、その穏やかな時間の裏で、村では不穏な動きが始まっていた。前夜、廃屋でナタリーが目撃した男たちは、村の有力者である農場主、エルンストに近づいていた。彼らは、村の新たな水路開発計画を持ちかけ、その利権を独占しようと企んでいたのだ。水路は村の農業にとって不可欠であり、その利権を握ることは、村の実質的な支配権を得ることに等しい。


エルンストは、ローズ家の衰退後、村での影響力を増していた人物だ。彼は表向きは村の発展を願う良き農場主を演じていたが、その内面には強欲が渦巻いていた。男たちの甘言に乗り、エルンストは水路開発計画に乗り気になっていく。


その日の午後、ナタリーは執事からエルンストと見知らぬ男たちが頻繁に会合を開いているとの報告を受けた。執事は彼らの動向を常に監視しており、村のあらゆる情報がナタリーの元に集められていた。報告を聞くナタリーの表情は、微塵も動かなかった。彼女は既に、男たちの目的を正確に把握していたのだ。


「水路の利権ですか。彼らは、村の喉元にナイフを突きつけるつもりですね」


ナタリーの声は静かだったが、その言葉には確固たる決意が込められていた。執事はナタリーの顔をじっと見つめた。彼には分かっていた。ナタリーの中に眠る「もう一つの貌」が、今まさに覚醒しようとしていることを。


「執事、彼らの計画を完全に把握してください。特に、エルンストがどこまで関与しているか、その証拠を押さえる必要があります」


「かしこまりました、お嬢様」


執事は深く頭を下げた。ナタリーは窓の外に目を向けた。夕陽が村を赤く染め、孤児たちの笑い声が遠くから聞こえてくる。この平和な日常を守るためならば、彼女はどんな手段も厭わないだろう。


果たして、ナタリーは水路の利権を狙う悪しき者たちに対し、どのような「裁き」を下すのか。そして、その過程で、彼女の持つ「何か」が、どのように発現するのだろうか。村の運命は、今、ナタリー・ローズという一人の少女の手に委ねられようとしていた。

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