心の淀み
ナタリーは、この国の人々の間に深く根ざした「不和」と「憎悪」の解決に全力を注いでいた。彼女はアルベルトと共に、貧困地区やかつての奴隷の末裔が暮らす地域への訪問を続けた。ナタリーは、泉の共鳴の力を使って、彼らの抱える深い心の傷と、それに伴う「淀み」を感じ取っていた。
泉の囁きは、この国の「地の息吹」が、人々の心の淀みと共鳴し、大地そのものにも負の影響を与え始めていることを伝えてきた。作物の不作、家畜の病、そして原因不明の疫病の広がり。これらは、単なる自然現象ではなく、人々の「憎悪」と「諦め」の感情が、土地の生命力を蝕んでいる証拠だった。
ナタリーは、この状況を打開するため、人々の心に直接働きかける「希望」の光が必要だと考えた。彼女は、村で行った「共鳴の儀式」を、この地の人々にも教えることを決意した。それは、泉の波動を感じ取り、自身の内なる「光」を呼び覚ますための瞑想法だった。
まず、ナタリーはアルベルトの助けを借りて、貧しい子供たちを集めた。彼らは、差別や貧困の中で、幼い頃から「諦め」の感情を植え付けられていた。ナタリーは、子供たちに優しく語りかけ、泉の清らかな水のイメージを心に描くように促した。そして、彼らの手のひらに、泉の力を宿した小さな石をそっと置いた。
「この石には、清らかな希望の力が宿っています。目を閉じて、その光を感じてみてください。皆さんの心の中にも、同じように輝く光があるはずです」
子供たちは、最初は戸惑っていたが、ナタリーの優しい声と、石から伝わる温かい感覚に、次第に集中していった。すると、子供たちの表情が、少しずつ穏やかになっていくのが見て取れた。中には、泉の光をわずかに感じ取り、瞳を輝かせる子供もいた。
しかし、大人の間では、この儀式に対する反発も大きかった。貴族や商人たちは、ナタリーの活動を「異端の魔術」と呼び、子供たちを惑わしていると非難した。かつて奴隷だった人々の末裔の中にも、長年の不信感から、ナタリーの言葉を素直に受け入れられない者も多かった。
「そんなことで、私たちの苦しみが癒えるものか。必要なのは、パンと、差別がない世界だ!」
一人の男が、ナタリーに向かって叫んだ。彼の言葉には、切実な苦しみが込められていた。
ナタリーは、彼らの怒りや不信感を理解していた。彼女は、物理的な解決策も必要であることを承知していたが、それだけでは根本的な問題は解決しないことも知っていた。
「私は、皆さんの苦しみを理解したいと願っています。そして、皆さんの心の中にある『希望』の光を、もう一度見つけてほしいと願っています」
ナタリーは、静かに答えた。
その夜、ナタリーは泉の囁きを通じて、この国の地下深くにある「根源的な力」が、人々の心の淀みによってますます混濁していることを感じ取った。その力は、まるでこの国の歴史的な「憎悪」を吸収し、負のエネルギーとして増幅させているかのようだった。
「このままでは、この国は自らの『闇』に飲み込まれてしまう……」
ナタリーは、静かに決意を固めた。彼女は、この「心の淀み」を浄化し、人々を結びつけるために、自身の「統合された貌」の力を、新たな形で発揮する必要があると感じていた。それは、単なる癒しや不正の糾弾だけではない、より根源的な「変革」をもたらす力だ。ナタリーは、この国の真の光を見つけ出すために、さらに深い闇へと足を踏み入れていくことになった。




