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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
新たな旅立ち
35/68

結ばれぬ心





ナタリーはアルベルトとの出会いを機に、この国の深い闇に真正面から向き合う決意を固めた。彼女は執事と共にアルベルトの活動を手伝い、貧しい地区や、かつて奴隷として連行されてきた人々の末裔が暮らす地域を訪ね歩いた。


ナタリーは、泉の共鳴の力を使って、彼らの抱える「憎悪」や「諦め」の感情を感じ取り、静かに耳を傾けた。彼女は、差別によって不当な扱いを受けてきた人々の苦しみ、そして、かつての加害者の子孫たちが抱える「罪悪感」や「恐れ」にも触れた。両者の間には深い溝があり、互いを理解しようとしない壁が築かれていることを痛感した。


「憎しみが憎しみを生み、誰も幸福になれない。この国の『地の息吹』は、その感情の澱で、さらに濁り続けています」


ナタリーは、泉が伝える淀みの深さに、心を痛めた。彼女の故郷の村で、「虚無の徒」が引き起こした歪みは、直接的な悪意によるものだった。しかし、この国の淀みは、何世代にもわたる歴史の積み重ねが生み出した、複雑で根深いものだった。


アルベルトは、長年この問題に取り組んできたが、その努力は報われず、孤立感を深めていた。彼は、ナタリーの純粋な優しさと、言葉を超えて人々の心に触れる不思議な力に、次第に希望を抱くようになった。


ある日、ナタリーはアルベルトと共に、かつて奴隷労働が行われていた鉱山跡の近くにある集落を訪れた。そこには、今も差別され、貧しい暮らしを強いられている人々の末裔が暮らしていた。集落の長老は、ナタリーたちを警戒し、容易に心を開こうとしなかった。


「お前たちは、我々の苦しみを理解できるものか。貴族の都合の良い言葉など、もう聞き飽きた」


長老は、厳しい目でナタリーたちを見据えた。彼の目には、過去の悲惨な記憶と、現在の理不尽に対する深い怒りが宿っていた。


ナタリーは、その怒りを静かに受け止めた。そして、彼女は長老に、泉の囁きで感じ取った鉱山の奥底から湧き上がる「悲しみ」と「絶望」の波動について語った。それは、この土地が長年抱え続けてきた、過去の犠牲者たちの魂の叫びだった。


「この地の悲しみは、決して消えていません。しかし、この悲しみを乗り越え、共に未来を築くことができると、私は信じています」


ナタリーは、長老の手を取り、泉の癒しの力を微かに流し込んだ。すると、長老の心に張り詰めていた怒りが、わずかに和らいだ。彼の目から、長い間抑え込んでいた涙がこぼれ落ちた。


「…本当に、お前は…」


長老は言葉を詰まらせた。ナタリーの言葉と「気」は、長老の心の奥底に眠っていた「信頼」の感情を揺り動かしたようだった。


しかし、長老の心が開かれた一方で、差別意識の根強い貴族や商人たちは、ナタリーの活動を警戒し始めていた。彼らは、ナタリーが過去の過ちを掘り返し、社会の秩序を乱そうとしていると非難した。街には、ナタリーを「危険な異国の女」と中傷する噂が流れ始めた。


「お嬢様、この国の闇は、私たちが思っていたよりも深いようです。容易には、変わらぬでしょう」


執事が懸念を示した。


ナタリーは、故郷の村で伯爵の不正を暴いた時よりも、はるかに大きな壁に直面していることを感じていた。物理的な力だけでは、人々の心に刻まれた長年の憎しみを消し去ることはできない。彼女の「統合された貌」は、この地の「地の息吹」と共鳴し、人々の「結ばれぬ心」を一つにするための新たな「光」の形を見つけることができるのだろうか。ナタリーは、困難な道のりになることを覚悟しながらも、諦めることなく、この国の光を見つけるための探求を続けた。

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