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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
新たな旅立ち
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異国の風





ナタリーと執事は、広大な大陸を西へと旅していた。馬車に揺られ、時には徒歩で荒野を越え、いくつもの村や町を通り過ぎていった。旅の途中、ナタリーは泉が伝える世界の異変の片鱗をより鮮明に感じ取っていた。それは、飢餓、疫病、内乱、そして人々の心に深く根付く「絶望」の匂いだった。村を離れても、ナタリーは日々の鍛錬を欠かさなかった。移動中の馬車の中でも、目を閉じ、泉と古の力を調和させることに時間を費やした。彼女の「統合された貌」は、旅の中でさらなる研ぎ澄まされ方をしていた。


旅を始めて数週間、二人はこれまで訪れたどの土地とも異なる異質な雰囲気を纏う国境の町に辿り着いた。町の建物は石造りで、屋根は赤瓦、道行く人々の服装もこれまでの村とは大きく異なっていた。言葉もまた、独特の響きを持っていたが、ナタリーは泉の共鳴の力で、人々の言葉の「感情」と「意図」をある程度理解することができた。


「お嬢様、この地は、古文書に記されていた『北方の要塞国』と推測されます。国境を守るため、常に警戒を怠らぬ、厳格な気風の国だと伝えられております」


執事が、地図と古文書を照らし合わせながら説明した。この国は、かつて大陸の覇権を争う大規模な戦乱の中心地であったと記されている。その歴史ゆえか、人々の顔にはどこか疲弊の色が見え、警戒心が強く、容易に他者を信用しない雰囲気が漂っていた。


ナタリーは、泉の囁きがこの国から、これまでとは異なる種類の「淀み」を感じ取っていた。それは「虚無の徒」の霊力のような直接的な悪意ではなく、もっと深く、社会の構造に根差した「歪み」だった。貧富の差、差別、そして過去の因縁による憎しみが、人々の心に澱のように溜まっているようだった。


ある日、町の中央広場で、ナタリーは一人の老人が、集まった人々に向けて熱弁を振るっているのを見かけた。彼の言葉は、国の現状に対する不満、権力者への批判、そして何よりも、人々の間で広がる「不和」を嘆くものだった。しかし、彼の訴えは、耳を傾ける者もいれば、冷めた目で見る者もおり、人々の心はバラバラであることが見て取れた。


「彼は、この国の『淀み』に気づき、それを変えようとしているのですね。ですが、人々は信じ合えず、互いに心を閉ざしている…」


ナタリーは静かに呟いた。彼女の故郷の村が、伯爵の不正に対して団結できたのは、神父という信仰の柱と、何よりナタリー自身が、泉の力を通して「真実の光」を示し、人々が信じるに足る「希望」であったからだ。しかし、この国には、その「希望」が見当たらないように思えた。


その夜、宿で休むナタリーは、泉の囁きがさらに強くなっていることに気づいた。泉は、この国の地下深くに眠る、巨大な「力の源泉」のようなものをナタリーに伝えてきた。それは、泉の力とは異なる、より原始的で、しかし強大な「根源的な力」の存在を示唆していた。その力は、人々の感情に共鳴し、良いようにも悪いようにも変化する可能性を秘めているようだった。


「執事、この国には、私たちが知らない、何か特別な力が存在するようです」


ナタリーは執事に伝えた。執事もまた、古文書の中に、この北方の要塞国に伝わる「地の息吹」と呼ばれる伝承があることを思い出した。それは、大地そのものが持つ生命力であり、人々の心の状態を映し出す鏡であるとされていた。


「もし、人々の『絶望』がその『地の息吹』に影響を与えているとすれば、この国の淀みは、私たちが想像するよりも根深いかもしれません」


執事の言葉に、ナタリーは深く頷いた。彼女は、この国が直面している問題が、これまでの「虚無の徒」との戦いとは異なる性質を持つことを理解した。この国の人々の心を結びつけ、希望を取り戻すこと。それが、この地におけるナタリーの新たな使命だと感じた。


しかし、どのようにして人々の心を動かせば良いのか。ナタリーは、まずこの国の歴史と文化、そして人々の間に広がる「不和」の根源を深く理解する必要があると考えた。旅は始まったばかりだ。ナタリーの**「統合された貌」**は、この異国の地で、新たな形での「光」を灯すことになるのだろうか。

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