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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
新たな旅立ち
32/68

渇いた心に光を





集落を覆う「絶望」の波動は、干上がった井戸から放たれていた。ナタリーは、この井戸が「虚無の徒」によって仕掛けられた霊力の核であることを確信した。しかし、村のように全員で「希望の歌」を歌うには、集落の人々の心がバラバラに引き裂かれすぎていた。彼らは互いを疑い、助け合いの精神を完全に失っていたのだ。


「執事、彼らの心に直接働きかける必要があります。泉の力が持つ『共鳴』の力を、最大限に利用します」


ナタリーは、まず集落の子供たちに目を向けた。彼らの瞳の奥には、まだかすかな希望の光が残っているように見えた。ナタリーは、両親を亡くしたばかりの、怯えた表情の少女に優しく話しかけた。少女は警戒し、何も話そうとしなかった。


ナタリーは、持っていた小さな木彫りの鳥を少女に差し出した。それは彼女が旅立つ前に、孤児院の子供たちと一緒に作ったものだった。


「怖がらなくていいの。私も、あなたと同じくらい小さい頃、たくさんの悲しいことがあったわ。でも、一人じゃないって気づいて、乗り越えられたのよ」


ナタリーの優しい声と、その瞳の奥に宿る揺るぎない「希望」の光が、少女の心の壁を少しずつ溶かしていった。少女は震える手で鳥を受け取り、その小さな手に温もりが伝わると、かすかに微笑んだ。その微笑みは、集落に差し込んだ最初の「希望の兆し」だった。


ナタリーは、井戸の近くに腰を下ろし、目を閉じた。泉の清らかな波動を全身に行き渡らせ、自身の「希望」の感情を最大限に高めた。そして、彼女がかつて村で子供たちに教えていた、五感を刺激する優しい歌を口ずさみ始めた。それは、大地に水を、空に光を、そして心に安らぎをもたらすような、穏やかな歌だった。


最初は、誰一人としてナタリーに近づこうとはしなかった。しかし、ナタリーの歌声が風に乗って集落に響き渡るにつれ、子供たちが一人、また一人と、ナタリーの周りに集まり始めた。彼らは、その歌声が自分たちの心の奥底に眠る「渇き」を潤していくのを感じていた。やがて、親たちも、子供たちの変化に気づき、遠巻きにナタリーを見守るようになった。


ナタリーは歌い続けながら、泉の力を井戸へと集中させた。彼女の「統合された貌」は、泉の「浄化」の力と、古の箱の「変質」の力を組み合わせ、井戸から放たれる「絶望」の波動を、「安らぎ」の波動へとゆっくりと変換していった。同時に、井戸の底に僅かに残る水脈に、清らかな泉の水を少しずつ呼び寄せた。


歌声が最高潮に達した時、干上がっていた井戸の底から、澄んだ水がこんこんと湧き上がってきた。水は清らかで、その輝きは集落の空気を一変させた。人々は驚き、歓声を上げた。そして、その水に触れると、心身の疲労が癒され、心の奥底に沈んでいた「不信」の感情が薄れていくのを感じた。


「これは……奇跡だ!」


誰かが叫んだ。人々は互いの顔を見合わせ、以前のような疑いの眼差しではなく、温かい「信頼」の光を宿し始めていた。井戸から湧き出た水は、彼らの渇いた大地だけでなく、渇いた心をも潤したのだ。


ナタリーは、集落の人々の心に再び「希望」が灯ったことを確認すると、静かに立ち上がった。彼女はまだ集落に長く留まることはできない。しかし、彼女の「統合された貌」がもたらした奇跡は、この荒野の小さな集落に、新たな未来を切り開いた。ナタリーは、この経験を通じて、自身の使命が世界に「希望」の種を蒔き、それを育むことにあると改めて実感した。彼女は、この小さな集落の成功を胸に、次の地へと歩みを進めるのだった。

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