託された絆
村は真の平穏を取り戻し、ナタリーがもたらした真実の光は、人々の心に深く刻み込まれた。鉱夫たちの病も回復に向かい、子供たちの笑い声が再び村に響き渡る。ナタリーは昼間は変わらず孤児たちの教育に尽力し、夜は泉での鍛錬を続けた。泉の力は、村の生命力を満たし、より鮮明な「声」をナタリーに届けるようになっていた。
ある夜、泉での瞑想中、ナタリーの脳裏にこれまでとは異なる映像が流れ込んできた。それは、見慣れない風景、異国の言葉を話す人々、そして激しい争いの光景だった。炎上する建物、悲鳴、そして何よりも、人々の心から発せられる強烈な「絶望」の波動。それは、これまで村で感じた「虚無の徒」の霊力とは比べ物にならないほど大規模で、深く、世界全体を覆い尽くさんばかりの闇だった。
「お嬢様、何かございましたか?」
ナタリーの異変に気づいた執事が、心配そうに声をかけた。ナタリーは目を開け、その顔には深い戸惑いが浮かんでいた。
「執事……今、遠くの地で、非常に恐ろしいことが起こっています。村の炭鉱の比ではない、もっと大きな悲劇が……」
ナタリーは泉が伝えてきた情報を執事に話した。執事は、ローズ家の古文書に記された「世界の裂け目」に関する記述を思い出した。それは、古の時代に世界各地で発生した大規模な争乱や災厄の際に、人々の「絶望」が特定の場所で増幅され、異質な力が現れる現象を指す言葉だった。
「恐らく、それは『虚無の徒』の動きが、この村だけにとどまらず、世界規模で拡大している兆候かと存じます。彼らは、より大きな『絶望』の収穫を始めたのでしょう」
執事の言葉に、ナタリーは静かに頷いた。これまでの戦いは、あくまで村という小さな世界の中での出来事だった。しかし、泉が示す光景は、その規模をはるかに超えていた。ナタリーの「統合された貌」は、村の不正を正すだけでなく、世界全体の「歪み」に対峙する力へと進化していたのだ。
翌日、ナタリーは神父を訪ね、泉が告げた異変について話した。神父は、遠方の教会から届く手紙の中に、原因不明の混乱や不作、争いに関する報告が増えていることを明かした。それはナタリーの見た光景と符号するようだった。
「主は、私たちに試練を与えられているのかもしれません。しかし、光を信じ、希望を捨てぬ限り、道は開かれます」
神父の言葉は、ナタリーの心に力を与えた。
ナタリーは、自身がこの小さな村の守護者であるだけでなく、より大きな役割を担うべき時が来ていることを悟った。泉の囁きは、彼女に新たな「道」を示している。それは、見知らぬ地へ赴き、広がりゆく「絶望」の闇に「希望の光」を届けるという、壮大な使命だった。しかし、旅立つには、村の未来を託せる存在を見つけ、禁忌の箱と泉を異質な力から守るための確固たる対策を講じる必要があった。ナタリーの瞳には、かつてない決意と、わずかな迷いが入り混じっていた。彼女は、村人たちの結束だけでは異質な力に対抗できないことを理解していた。




