舞踏会の裏側
伯爵家主催の慈善舞踏会は、村から少し離れた丘の上に建つ壮麗な屋敷で開かれた。村の貧困とはかけ離れた華やかさに満ちた会場は、各地から集まった富裕な貴族や商人たちでごった返していた。ナタリーは、シンプルだが上品なドレスを身につけ、執事を伴って会場に足を踏み入れた。その場にいる誰よりも若く、しかし凛とした佇まいのナタリーは、瞬く間に周囲の注目を集めた。
伯爵は、ナタリーの登場に驚きつつも、名門ローズ家の令嬢として彼女を歓迎した。表面上は穏やかな笑顔を浮かべている伯爵だったが、ナタリーは彼から、炭鉱から感じたのと同じ、淀んだ「気」を感じ取っていた。
会場では、慈善のためのオークションが行われていたが、その裏では、伯爵が各地の有力者たちと新たな投資話や、さらなる鉱山開発の計画を進めている会話が、ナタリーの耳に届いてきた。泉の囁きは、彼女にその会話の細部、特に村の炭鉱に関する具体的な数値や、病気の鉱夫を「些細な問題」として切り捨てる伯爵の冷酷な言葉を聞かせた。
ナタリーは、伯爵が村人たちの命を軽んじていることに激しい怒りを覚えた。しかし、彼女は感情を表に出さず、静かに機会を伺った。舞踏会の最中、ナタリーは巧みな話術で、伯爵の側近の一人から、炭鉱の最新の採掘計画書が伯爵の書斎に保管されているという情報を引き出した。
その夜、舞踏会の喧騒が最高潮に達した頃、ナタリーは執事の指示のもと、そっと会場を抜け出し、伯爵の書斎へと向かった。伯爵邸の警備は厳重だったが、ナタリーは泉の力を応用して、警備兵の注意を逸らし、鍵のかかった扉を古の力で静かに開いた。
書斎の中は、高価な調度品と膨大な書類で埋め尽くされていた。ナタリーは迷うことなく、執事から聞いた場所に保管されていた採掘計画書を見つけ出した。そこには、劣悪な労働環境の改善を無視し、有毒ガス発生の危険性を知りながらも、さらなる深部まで採掘を進める計画が記されていた。そして、病に倒れた鉱夫たちへの補償を最小限に抑え、口封じのための金銭を渡すことも計画に含まれていた。
ナタリーは、その計画書を手にすると、伯爵邸の庭に広がる花壇へと向かった。そして、計画書に記された村の炭鉱の区画を示す地図の部分に、泉の力で光を宿した手をかざした。すると、清らかな光が地図全体を包み込み、伯爵の不正と、それがもたらす村の生命の歪みを、鮮やかに浮かび上がらせた。これは、伯爵の不正を告発するための「証拠」であり、泉の浄化の力を応用した「真実の顕現」だった。
翌朝、村中に衝撃が走った。伯爵邸の庭に、村の炭鉱の不正を示す光り輝く地図が現れたのだ。村人たちはその奇妙な光景にざわめき、やがて地図に示された情報が、鉱夫たちの病の原因と伯爵家の関与を明確に示していることに気づいた。ナタリーは、この光景をどこかから静かに見つめていた。彼女の**「統合された貌」**が、村の不正を暴き、弱き者のために動いた瞬間だった。この出来事が、村に、そして伯爵家にどのような波紋を広げるのか、ナタリーは次の展開を冷静に見据えていた。




