闇を穿つ光
炭鉱病の蔓延は、村に暗い影を落とし始めていた。鉱夫たちは次々と倒れ、家族は困窮し、村の活気は失われつつあった。ナタリーは泉の守護者として、この不公平な状況を看過することはできなかった。彼女はまず、病の正確な原因を突き止めるため、鉱山に関する情報を徹底的に調べることにした。
執事は、過去の村の記録、特に炭鉱が稼働し始めた頃の文書を調べ上げた。そこには、伯爵家が炭鉱を所有する以前、村の小さな組合が運営していた頃の安全基準に関する記述や、地下水脈の保全に関する取り決めが記されていた。しかし、伯爵家が所有権を握ってからは、そうした配慮が著しく欠如していることが明らかになった。
「お嬢様、この炭鉱は、もともと浅い部分の採掘に限られておりました。しかし、伯爵家はより深い層、特に危険な硫黄質の鉱脈まで掘り進めているようです。恐らく、病の原因は、そこから発生する有毒なガスか、地下水に溶け出した有害物質かと…」
執事の報告に、ナタリーの顔に怒りが浮かんだ。伯爵家は、利益のために村人の命を危険に晒している。それは、かつて「虚無の徒」が村の生命を歪ませようとしたことと、本質的には変わらない行為だった。
ナタリーは、泉でさらに深く集中した。泉の囁きは、地中深くに広がる黒い淀み、そしてその淀みが地下水脈を通じて村の井戸水にも僅かに混入し始めていることを伝えてきた。このままでは、病は鉱夫だけでなく、村全体に広がるだろう。
「この病は、自然の循環を破壊しようとしています。私が守るべきは、村人たちの命と、この地の清らかな恵みです」
ナタリーは決意を固めた。泉の「浄化」の力と、古の箱の「破壊」の力、そしてそれらを統合した「創造」の力を、この状況に応用する道を模索した。彼女の「統合された貌」は、単なる戦闘のためだけではなく、環境を癒し、生命を護るためにも存在すると信じていた。
その夜、ナタリーは神父に、炭鉱病の真の原因が地下水脈の汚染にある可能性が高いことを打ち明けた。神父は驚き、すぐに村人たちに煮沸した水を使うよう呼びかけると約束した。しかし、根本的な解決には、伯爵家の行為を止めさせる必要があった。
ナタリーは、伯爵家が主催する慈善舞踏会の招待状が、最近村に届いていたことを思い出した。表面上は村への寄付を募るものだが、実態は伯爵家の権力誇示と、新たな利権話を進める場であることは明らかだった。
「執事、私をその舞踏会へ連れて行ってください」
ナタリーは静かに言った。
「お嬢様、それはあまりにも危険かと。伯爵家は、決して甘い相手ではありません」
執事が心配そうに言ったが、ナタリーの瞳には揺るぎない決意が宿っていた。
「ええ、分かっています。だからこそ、私が行かなければならないのです。昼の天使として、そして夜の守護者として。彼らが闇の中で村を蝕むなら、私は光となって、その闇を穿ちます」




