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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
聖なる泉の守護者
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執事の過去





謎の男との対峙は、ナタリーに大きな衝撃を与えた。彼の言葉から、敵が村の秘密、特に「聖なる泉」と「禁忌の箱」の存在を深く知っていることが明らかになったからだ。ナタリーは泉の力をさらに研ぎ澄ませる必要性を感じていたが、同時に、彼らの目的と正体について、もっと深く知る必要があると考えていた。


その夜、ナタリーは書斎で古文書を読んでいた。しかし、頭の中は先日の男の言葉でいっぱいだった。「真の力を求める者」「世界の再編」…。漠然とした言葉の裏に、底知れない狂気を感じた。


「お嬢様、まだお休みではないのですか?」


執事が温かいハーブティーを盆に載せて入ってきた。ナタリーは顔を上げ、執事の顔を見つめた。長年ローズ家に仕え、両親のことも、泉の秘密も、全てを知る彼ならば、何か知っているかもしれない。


「執事。私たちが対峙している者たちは、一体何者なのでしょう。そして、彼らが言う『世界の再編』とは…」


ナタリーは、自身の不安を正直に打ち明けた。執事は静かにハーブティーをテーブルに置き、ナタリーの向かいに座った。彼の顔には、遠い過去を思い出すような複雑な表情が浮かんでいた。


「お嬢様…お話しすべき時が来たようですね」


執事は深いため息をついた。


「実は、お嬢様のお母様も、同じような『真の力を求める者』たちと対峙したことがございます。それは、お嬢様がまだ物心つく前のお話です」


執事は語り始めた。かつて、およそ十五年前、この村を訪れた一団がいたという。彼らもまた、今回の男と同様に、村に眠る二つの「力」を狙っていた。彼らは、自らを「調和の探求者」と名乗り、世界を彼らの理想とする「あるべき姿」に変えるため、泉と禁忌の箱の力を利用しようと画策した。


「彼らは、物理的な力だけでなく、精神に干渉するような『霊力』も用いました。ちょうど、今村を脅かしているような…」


ナタリーは頷いた。やはり、今回の敵は過去にも存在し、同じような手法を使っていたのだ。


「お母様は、その時、単身で彼らと戦われました。泉の力を最大限に引き出し、村を守る結界を張り、彼らの霊力を退けたのです。しかし…」


執事の言葉が途切れた。その目に、深い悲しみの色が宿る。


「その戦いの後、お母様の身体は、著しく消耗されました。そして、数年後…その戦いが原因で、お嬢様のお母様は命を落とされたのです」


ナタリーは息を呑んだ。母親が若くして亡くなったのは、病が原因だと聞かされていた。しかし、真実は、村を守るための壮絶な戦いによるものだったのだ。彼女の胸に、新たな衝撃と、母への深い畏敬の念が押し寄せた。


「お嬢様をその悲しみから守るため、そして、お嬢様がその重い使命を知るにはまだ早すぎると考え、この真実を隠してまいりました。しかし、もはや隠し通すことはできません。お嬢様は、お母様と同じ道を歩まれている…いいえ、お母様よりも、さらに大きな力を発現させておられます」


執事の目には、ナタリーへの深い愛情と、心配が入り混じっていた。


「お母様は、力を封印したとはいえ、お嬢様がいつか泉の守護者として覚醒し、この使命を受け入れる日が来ることを予見しておられました。そして、その時のため、私に、泉と禁忌の箱、そして村の古き歴史のすべてを伝えるよう、言い残されていました」


執事は、ナタリーの母が残した、もう一つの古びた日記を取り出した。それは、泉の守護者としての彼女の記録であり、今回の敵に関する詳細な分析、そして彼らに対抗するためのヒントが記されていた。


「お母様は、彼らを『虚無の徒』と呼んでおられました。彼らは、世界の不完全さを憎み、全てを『無』に戻すことで、新たな秩序を築こうとしている、と」


虚無の徒。その名を聞いたナタリーの脳裏に、あの男の冷たい瞳が蘇った。


「しかし、お母様は、彼らの最大の弱点も記しておられました。それは、彼らの『力』が、人々の『絶望』と『不信』を糧としていること。逆に言えば、人々の『希望』と『信頼』が、彼らの力を弱めるのです」


ナタリーはハッとした。先日、村人たちの「信じる心」が霊力を打ち払ったのは、まさにそのためだったのだ。


「お嬢様のお母様は、村人たちの絆を深め、信仰心を高めることで、虚無の徒の霊力を打ち払いました。それこそが、泉の守護者の真の力であると」


執事の言葉は、ナタリーに新たな視点を与えた。彼女の力は、単に泉の力を操るだけでなく、村人たちの心を一つにし、希望を灯すことにもあったのだ。


「執事…お母様は、そんなにも大きな戦いを、一人で…」


ナタリーの目に涙が滲んだ。しかし、それは悲しみだけではなかった。母への誇りと、自身が受け継いだ使命への強い決意だった。


「執事。私は、お母様と同じ過ちは繰り返しません。この村を、そして、大切な人々を、必ず守り抜きます」


ナタリーの瞳には、かつてないほどの強い光が宿っていた。執事は、その決意の瞳を見て、静かに頭を下げた。


母親の過去と、新たな敵「虚無の徒」の正体を知ったナタリー。彼女は、単なる守護者としてだけでなく、愛する村と人々を守るため、そして母の意思を継ぐ者として、戦う覚悟を決めた。



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