表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
聖なる泉の守護者
17/68

偽りの仮面





ナタリーの突然の誘いに、謎の男は疑う素振りも見せず、快くそれを受け入れた。彼はナタリーの家へ足を踏み入れた瞬間、その質素ながらも洗練された内装に、わずかな驚きを覚えたようだった。ナタリーは彼をダイニングへと案内し、執事が用意したささやかな夕食がテーブルに並べられた。


「このような素朴な食事で申し訳ありません」


ナタリーが言うと、男は優雅に首を横に振った。


「とんでもない。質素な中にこそ、真の豊かさがあるものです。それに、このスープの香りは、旅の疲れを癒してくれますね」


男はそう言って、ナタリーが孤児たちのために心を込めて作ったスープを、一口静かに味わった。彼の言葉は、あまりにも自然で、ナタリーの警戒心をわずかに緩めさせるほどだった。


夕食の間、男は自身の旅の経験や、各地で出会った珍しい古文書の話を披露した。彼の話術は巧みで、知識も豊富だった。ナタリーは、彼の話に相槌を打ちながらも、その言葉の節々から彼の本質を探ろうと努めた。泉の囁きは、彼の言葉の奥に隠された冷たい計算と、強い意志を感じ取っていた。彼は、まさに「偽りの仮面」を被った存在だった。


「それにしても、ナタリー嬢。この村には、何か古くから伝わる特別な『もの』があるように感じますね」


男は、さりげなくナタリーの瞳を覗き込むように言った。その視線は鋭く、まるでナタリーの心の奥底を見透かそうとしているかのようだった。


「特別なもの、ですか? この村は、ただ自然豊かなだけの、小さな村でございますよ」


ナタリーは、動揺を見せずに答えた。彼女は泉の力を集中させ、自分の心を閉ざし、男の霊力から守った。


男は、ナタリーの反応に満足したのか、それ以上は踏み込まなかった。しかし、食事が終わり、ナタリーが淹れたハーブティーを飲みながら、彼は唐突に話を切り出した。


「実を言うと、私はこの村の地下に眠る、ある『古の力』について調査しておりましてね」


ナタリーの表情は微塵も動かなかったが、その心臓は大きく跳ねた。男は、禁忌の箱の存在を知っている。しかも、「聖なる泉」ではなく、まず「古の力」に言及したということは、彼らがそちらに特に関心がある証拠かもしれない。


「そのようなものは、この村にはございません。旅の疲れから、幻でもご覧になったのでは?」


ナタリーは、あくまで冷静に否定した。しかし、男はナタリーの言葉を気にする様子もなく、続けた。


「いいえ、確かに感じ取れます。そして、その力が、先日、一時的に覚醒したことも。まるで、誰かがその力を封印し直したかのようにね」


男の言葉は、鉱山での出来事を正確に言い当てていた。ナタリーがその力を封印したことを、彼は既に知っていたのだ。泉の守護者としての彼女の存在も、彼らは把握しているに違いない。


「我々は、その『古の力』、そして、それに相対する『聖なる泉』の力…二つを統合し、世界のあるべき秩序を取り戻そうとしているのです。それは、破壊ではなく、真の調和をもたらすものです」


男は、言葉巧みに自分たちの目的を正当化しようとした。彼の目は、狂信的な光を帯びていた。彼らは、自らの信念に基づいて行動しており、それが村に災いをもたらすことなど、微塵も考えていないようだった。


「調和…それが、村人たちの心を乱し、病に苦しめることなのですか?」


ナタリーは、男の仮面の下に隠された、冷酷な本質に迫ろうとした。泉の力が、彼女の言葉に力を与える。


男は一瞬、言葉を詰まらせた。そして、微かに表情を曇らせた。


「それは、過渡期に必要な犠牲です。真の秩序を築くためには、時に痛みを伴うものです」


彼の返答は、やはり村人たちの苦しみを「犠牲」としか見ていないことを露呈した。


ナタリーは、もはや彼との対話は無意味だと悟った。彼らは、村の平和を願うナタリーとは、根本的に相容れない存在だった。


「申し訳ありませんが、旅の方。貴方様の考えは、私には理解できません」


ナタリーの声は静かだったが、その中に確固たる拒絶の意思が込められていた。


男は、ナタリーの態度に、初めて明確な感情を露わにした。それは、侮蔑と、わずかな苛立ちだった。


「愚かな…守護者よ。お前は、自らの力で何ができると? この世界は、お前のような古き番人の手には負えぬ。いずれ、その力を我らに明け渡すことになるだろう」


男はそう言い放ち、席を立った。彼の瞳は、もはや穏やかさの欠片もなく、冷酷な光を宿していた。


男が屋敷を後にした後、執事が心配そうにナタリーの元に駆け寄った。


「お嬢様、ご無事で何よりでございます。一体、あの男は何者なのでしょう…」


「執事、彼らはただの学者ではありません。彼らは、泉と禁忌の箱の力を手に入れ、世界を彼らの望むがままに再編しようと企む者たちです」


ナタリーの声は震えていたが、その瞳には、かつてないほどの決意が宿っていた。


招かれざる訪問者との対峙は、ナタリーに新たな危機感を植え付けた。彼らは村の秘密を深く理解しており、その力もナタリーの想像を超えている。村の未来は、これまで以上に不透明になった。


しかし、ナタリーは諦めない。彼女の内に宿る泉の力と、村人たちの「信じる心」が、彼女を支えるだろう。ナタリー・ローズの守護者としての使命は、今、新たな段階へと突入した。


ナタリーは、この強大な敵に対し、いかにして立ち向かうのだろうか?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ