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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
聖なる泉の守護者
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招かざる訪問者






森の奥に潜む者たちが姿を消した後も、ナタリーの心には警戒感が残っていた。彼らが「真の力を求める者」と名乗ったこと、そして「聖なる泉」と「禁忌の箱」の双方を狙っていることを知った今、村の平穏はいつ破られてもおかしくなかった。ナタリーは泉での修行をさらに熱心に行い、泉の囁きに一層耳を澄ませた。泉は、彼女に新たな力を与えるかのように、その波動を強めていた。


数日後、村に一人の見慣れない男が現れた。彼は上質な旅装を身につけ、その表情は穏やかで、一見するとただの旅人にしか見えなかった。男は村の教会の前に立ち止まり、まるで何かを探すように周囲を見回していた。その視線が、ふと教会から出てきたナタリーに注がれた。


男はゆっくりとナタリーに近づいてきた。ナタリーは彼の目を見た瞬間、漠然とした違和感を覚えた。彼の瞳の奥には、どこか冷たい光が宿っており、その穏やかな表情の裏に、何か深い意図が隠されているように感じられたのだ。泉の囁きが、彼の存在から微かな不穏な気配を伝えてきた。


「失礼、そちらの美しいお嬢さん。この村の者でしょうか?」


男は優雅な仕草で挨拶した。その声は心地よく、村人の間からは彼を歓迎する視線が向けられた。しかし、ナタリーは警戒を緩めなかった。


「はい、この村に住んでおります、ナタリーと申します。旅の方でしょうか?」


「ええ、私はこの地を巡る学者でして、珍しい古文書を求めて旅をしております。この村には、古くから伝わる歴史があると聞き、立ち寄らせていただきました」


男はそう言って、ナタリーに微笑みかけた。その微笑みは完璧で、疑う余地のないものに見えた。しかし、ナタリーは泉の守護者としての直感が、彼の言葉の裏に潜む何かを感知していた。


男は村の歴史や、古くから伝わる言い伝えについて、熱心にナタリーに尋ねた。ナタリーは、表面的な情報のみを伝え、ローズ家や泉、禁忌の箱の秘密には一切触れなかった。男は失望した様子を見せず、むしろナタリーの知識の深さに感銘を受けたかのように振る舞った。


その日の夜、男は村の宿に滞在することになった。ナタリーは、彼が眠りについた後、執事と共に男の宿を密かに調べに向かった。しかし、部屋には何の痕跡も残されていなかった。男は、完璧に自身の痕跡を消し去っていたのだ。


「お嬢様、やはり尋常な者ではございません」


執事の声が、闇に響いた。


ナタリーは、泉の力を集中させ、男の「気」を追跡しようと試みた。すると、男の「気」は、泉の力とは異なる、しかし確かに「霊力」に近いものを帯びていることが分かった。そして、彼の「気」の奥底には、あの森で遭遇したフードの男たちと似た波動を感じ取ることができた。彼らの仲間、あるいはリーダー格の人物なのかもしれない。


翌日、男は神父の元を訪れ、教会の古い記録を見せてほしいと申し出た。神父は、親切な旅人と信じ、彼を快く受け入れた。男は教会の書庫で、村の歴史に関する記述を熱心に調べていた。ナタリーは、離れた場所からその様子を静かに見守っていた。男は、村の地図や、古くからの土地の境界線を示す記録を特に時間をかけて調べているようだった。


ナタリーは、泉が彼の意図をより明確に伝えているのを感じ取った。男は、村の表面的な歴史ではなく、この地に隠された「力」の源、つまり泉と禁忌の箱の場所を特定しようとしているのだ。そして、彼が求めているのは、泉や箱そのものではなく、それらを制御する「方法」なのかもしれない。


夕刻になり、男が神父に別れを告げ、宿に戻ろうとしたその時、ナタリーは思いがけない行動に出た。


「旅の方、よろしければ、我が家でお夕食をいかがでしょうか? 村の暮らしについて、もう少しお話しできるかもしれません」


執事も神父も、ナタリーの突然の誘いに驚きの表情を見せた。男も一瞬、目を丸くしたが、すぐに優雅な微笑みを浮かべた。


「それは光栄でございます。ぜひ、お邪魔させていただきます」


ナタリーは、なぜ彼を自宅に招いたのか。それは、彼を警戒しつつも、より近くでその真意を探るためだった。招かれざる訪問者との「見えざる攻防」は、ナタリーの屋敷という、これまでの戦場とは異なる舞台へと持ち込まれようとしていた。彼女は、この新たな局面で、いかにして村を守るのか。そして、この謎の男の真の目的とは一体何なのだろうか。

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