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ナタリー•ローズ  作者: 徳田新之助
聖なる泉の守護者
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目覚める古の力





鉱山へ向かう道のりは、ナタリーにとってこれまでのどんな旅よりも重く感じられた。執事と共に馬車に揺られながら、彼女は村の様子を思い浮かべた。病に苦しむ人々、沈みゆく活気。これらすべてが、彼女の心に焦燥感を募らせた。


「お嬢様、鉱山はもうすぐでございます」


執事の声が、ナタリーを現実に引き戻す。廃れた鉱山は、かつては村の主要な産業を支えていたが、今は人気もなく、朽ちた木材と錆びた道具が放置されているだけだった。しかし、ナタリーの目には、その奥から不穏な「気」が立ち上っているのが見えた。泉の力が、その場所の異常を明確に告げていた。


馬車を降り、二人は廃坑の入り口へと足を踏み入れた。ひんやりとした空気が肌を刺し、地面からは湿った土の匂いが立ち込める。奥へ進むにつれて、ナタリーの脳裏に浮かんだ男たちの姿が、より鮮明に思い出された。彼らはこの闇の中で、一体何を掘り起こしているのだろうか。


坑道の奥深くから、微かな物音が聞こえてきた。カツン、カツンと、金属が岩を叩くような音だ。ナタリーと執事は顔を見合わせ、さらに奥へと進んだ。やがて、わずかな光が漏れ出す空間にたどり着いた。そこには、数人の男たちが必死に何かを掘り起こしている姿があった。彼らの顔は汗と土で汚れ、その目は狂気に染まっているかのようだった。


男たちが掘り出していたのは、巨大な石の扉だった。扉には、ナタリーが古文書で見た「禁忌の箱」と同じ奇妙な紋様が刻まれている。彼らはすでに、扉の一部をこじ開けようとしていた。そこから漏れ出す「気」は、村を覆う病の根源そのものだった。


「待ちなさい!」


ナタリーの声が、坑道に響き渡った。男たちは一斉に振り返り、幼い少女と老執事の姿に驚きと不快感を露わにした。その中の一人が、手にしていたツルハシを構えて威嚇する。


「ここは俺たちの縄張りだ!何の用だ、小娘!」


「あなたたちが掘り起こしているものは、村に災いをもたらします!すぐにやめなさい!」


ナタリーは一歩も引かず、力強い声で訴えた。しかし、男たちの耳には届かない。彼らの目は、目の前の「宝」しか見ていなかった。


「うるさい!邪魔をするなら容赦しねえぞ!」


男たちはナタリーに襲いかかろうとした。その時、執事が素早く前に出た。


「お嬢様には指一本触れさせません!」


執事は、その老体からは想像もつかない動きで男たちの攻撃をいなした。長年ローズ家に仕え、ナタリーを守り続けてきた執事の技は、並の男たちには到底太刀打ちできないものだった。しかし、多勢に無勢。やがて、執事も追い詰められ始めた。


ナタリーは、泉の守護者としての力を行使する時だと悟った。彼女は静かに目を閉じ、泉の清らかな力を己の内に集中させた。すると、彼女の身体から、淡い光が放たれ始めた。光は坑道の暗闇を照らし、男たちの目を眩ませた。


「何だ、こいつは!?」


男たちは怯み、後ずさりする。ナタリーは再び目を開いた。その瞳には、泉の守護者としての、確固たる意志が宿っていた。


「あなたたちのしていることは、村の生命を蝕んでいる!これ以上、罪を重ねてはなりません!」


ナタリーは、光を放つ手で、石の扉に触れた。扉から漏れ出す不穏な力が、彼女の手にまとわりつく。それは、冷たく、不快な感触だった。しかし、ナタリーは怯まなかった。泉の力が、その不穏な力を押し返し始める。二つの異なる力が、坑道の中で激しくぶつかり合った。


ナタリーの額には汗が滲み、身体が震え始めた。古の力は、想像以上に強力だった。泉の力でそれを制御しようとするたびに、ナタリーの精神に負荷がかかる。幻覚が見え、耳鳴りがする。しかし、病に苦しむ村人の顔が、彼女の脳裏に浮かんだ。彼らを救うために、ここで諦めるわけにはいかない。


「ナタリーお嬢様!」


執事の叫びが聞こえた。執事もまた、男たちを退けながら、ナタリーの危機に気づいていたのだ。


ナタリーは奥歯を食いしばり、残るすべての力を扉に注ぎ込んだ。すると、扉の紋様が輝きを増し、不穏な「気」が徐々に薄れていくのが分かった。古の力が、再び封印されようとしているのだ。


男たちは、自分たちの掘り起こしたものが、想像を絶する危険なものであることを悟り、顔面蒼白になって逃げ出した。坑道には、再び静寂が戻った。


ナタリーは膝から崩れ落ちた。身体の奥底から力が抜けていくような感覚に襲われる。執事がすぐに駆け寄り、彼女を支えた。


「お嬢様、大丈夫でございますか!?」


「ええ…なんとか…」


ナタリーは荒い息を整えながら、閉ざされた石の扉を見つめた。古の力は、再び封印された。しかし、その力があまりにも強大であることを、彼女は身をもって知った。そして、一度目覚めた力は、いつかまた、目覚めるかもしれないという不安も抱いた。


村に戻ると、奇妙な病は嘘のように収まっていた。村人たちは熱が下がり、意識もはっきりとしてきた。ナタリーが鉱山で古の力を封印したことが、病の根源を断ったのだ。村には再び、穏やかな日常が戻った。


しかし、ナタリーの心には、新たな使命が刻み込まれていた。泉の守護者として、そしてローズ家の娘として、彼女は「禁忌の箱」に眠る古の力を守り続けなければならない。それは、村の平和を守るための、永遠の戦いとなるかもしれない。


ナタリーは、執事と共に、静かに泉へと向かった。泉の水は、以前にも増して清らかに澄んでいた。


「泉よ…ありがとう」


ナタリーは泉の水に触れた。泉の囁きが、彼女の心に安堵と、そして未来への決意を伝えてくる。村の平穏は、ナタリー・ローズの「統合された貌」によって守られ続けるだろう。しかし、その先に待ち受ける未知の試練が、彼女をどのように成長させていくのか、それはまだ誰も知らない。



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