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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

通すもの

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 君は自分の家の中で、奇妙に思う方角はないだろうか。

 風水など、専門的な知識を有していなくても構わない。こちらへ行くとき、向かうとき、どうにも嫌な感じがする、ということは?

 ない、といえるのならば、それは喜ばしいことだろう。今このとき、不都合が迫っていない可能性が高いということだから。もちろん、にぶくて気づいていない可能性も否定できないが。

 ある方角を見た時に感じるものがあったならば、それは大事にするべきものかもしれない。

 昔、友達から聞いた話なのだけどね。耳に入れてみないかい?


 北まくらが、寝る時にはよろしくないというのは、よく聞くことだろう。

 亡くなった人の頭を北側へ向ける風習のある日本では、生者がそのマネをすることを好まれない。また北は太陽の通り道から遠ざかるため、身体が冷えやすく風邪などを引きやすいという難点もあるとか。

 科学的には北枕は健康にいい面もあると聞くな。地球の磁場の流れに沿った方角のためにコンディションが整いやすいという説のようだ。

 結局は気の持ちようということに落ち着くかもしれないが、友達の場合はそうはいかなかった。


 友達も北まくらが実はコンディションを整えるのがいいと聞いたとき、進んで北へ頭を向けるようにして、寝ていたという。

 北は友達の寝る部屋で廊下側へ面し、窓がない一面でもある。その代わり、足元はベランダ方面へ向き、陽がのぼりきったお昼ごろなどは、昼寝していると足がぽかぽか温まって、布団要らずな心地よさを覚えたりする。

 その日も友達は北へ頭を、南へ足を向けたままで、うとうと昼寝としゃれこんだのだけど。


 夢うつつな状態で、しばらく経ったあと。

 ふと両足の土踏まずにくすぐったさを覚えて、跳ね起きた。

 筆先でなでられた感触に近かったが、この部屋には自分しかいないはず。いたずらじゃないことは明白だろう。

 やはりそこには誰もいない。足を引き寄せて、くすぐったさを覚えたところを見ても、特にけがや汚れたりしているわけでもなかった。

 気のせいかな? とこのときは思い直して、再び眠りにかかる。実際、この日はこれ以上、足をなでられることはなかったのだとか。


 しかし翌日。

 久しぶりの連休ということもあり、日ごろの睡眠負債を返さんとばかりに、昼寝を求める自分の身体。その要求のままに、友達は再び横になった。

 今度は寝転がってから、ほどなくやってきた。さわり、さわりと土踏まずを中心に、無数のやわらかい毛先がなでていくような、こそばゆさを覚える。

 あのときは、ぱっと起き上がるや感覚がなくなった。そのために正体を探り損ねてしまったかもしれない。

 友達はすでに、この正体が生き物か何かではないかとあたりをつけていたようだ。なので、身体をすぐには起こさずに、そうっと顔だけを動かして足を見やろうとしてみたのだそうだ。


 第一印象は、トウモロコシの絹糸を思わせたという。

 南へ向けて、かかとを中心に立てたかっこうの足の裏。そこからはみ出して、絹糸がそよいでいるんだ。

 対角線で斜めにクロスする形で、片足4本。両足で8本のそろい具合。

 部屋の床のごみがついたのかな、とも最初は思った。しかし、絹糸たちは風が通っているわけでもないのに、おのずから身体をそよがせ続けている。やはり、何かしらの生き物なのだろうか。

 ならば、ぱっぱと払ってやるかと、今度こそ身を起こしかけたとき。


 ばしん、と音を立てて足を向けている、ベランダ側の窓が音を立てたんだ。

 ん? とちょっぴり顔をあげた友達だけども、それがなにか分からない。彼の目には何も見えなかったのだとか。ただガラスが一枚揺れただけとか。

 外で風が強まった可能性もあるが、それならベランダへ通じる合計4枚のガラスがすべて、いくらかの揺れを見せてもいいはずだ。

 なのに、今回は足の直線上にあたるガラス1枚だけ。そうなれば何かがぶつかったと考えるところなのだが。


 そう思っていると、またガラスが大きく揺れる。

 今度はそれだけじゃない。足元にはみ出ている絹糸たちの動きが、これまでの緩慢なものから、急激にその速さを増したんだ。

 はっきり分かるほどにそれぞれが激しく身体をうねらせたかと思うと、友達の両足もまた先ほど以上のくすぐったさを覚えるように。

 今度は表面をなぞられるようなものじゃなかった。もっと奥のほう、身体の内側へじかに毛先を入れられて撫でまわされているような、先ほど以上のこそばゆさ。

 それに身をよじりかけたとき、友達の両足の甲に当たる部分が、小さくぷつりと血がにじんだんだ。


 そこから抜け出てきたのは、蚊によく似た羽虫が二匹。

 ただしその身体は真っ赤で、友達の顔をすり抜けるまで全身からぽとぽとと垂れ落ち続けていた。それは友達の血そのものであったんだよ。

 まさかと、勢いよく起き上がるや、絹糸たちはさっと引っ込んでしまう。あらためてみても、やはり足の裏に異状はない。ただ足の甲に開いた小さい小さい穴をのぞいてだ。


 気づいた時には、あの真っ赤な蚊たちはいなくなっている。

 あいつらがきっと窓にぶつかってきていたのだと、友達は思っているそうだ。絹糸に導かれるまま自分の身体を通り、じかに血と肉を受けたのだとね。

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