表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

第三章 ハジメとツヴァイバッハ 3

 アイアンホエールをいつまでも抱えているわけにもいかない。ハジメは、ゼロマルを休ませる場所を探した。ケインのヘルメットではゼロマルの声が聞こえないのか、ケインは黙ったままだった。

「そういや、ケイン」

 ハジメは、壁際に押しやられていた椅子に座っているケインに振り返った。

「どうした、ハジメ?」

「腕の無い潜水艦で、どうやってゼロマルを運んだんだ?」

「あれはな、四隻の船でゼロマルの上下左右を挟んだんだ。大変だったんだぞ」

 ケインの回答に納得すると、ハジメは本題に入った。

「これからどこに行くつもりなんだ?」

「判らない……」

 ケインの言葉に、ハジメは思わずこけそうになった。

「お前、何も考えていないのか?」

「全然考えていないわけじゃない。隊長たちを助けたいんだ」

「そんそなこと言っても、お前の話しからすると、隊長さんもう死んじまってるんじゃねえのか?」

 言ってから、ハジメはまずいことを言った自分に気が付いた。

「生きているっ! 隊長たちは絶対生きているっ!」

 椅子から立ち上がって、ケインは叫んだ。

「わ、判ったよ。判ったから、落ち着いてくれよ。な?」

 ハジメは、ケインを必死でなだめた。それが効いたのか、ケインは落ち着きを取り戻して椅子に座った。

「潜水艦が跡形もなく消えているとゆうことは、敵に捕獲された可能性が高い。乗員の登録を変更する方法が判らないうちは、隊長も殺されないはずだ」

 ケインの言い分にも、一理あった。

「よし、ケインがアイアンホエールに乗り移ったら、隊長たちをさがそう」

「手伝ってくれるのか、ハジメ」

 ハジメは、思い切り首を縦に振った。

「隊長たちには、メシの礼もしなきゃいけないしな」

「メシの礼?」

 ケインは、ハジメの言葉の意味が判らなかった。

「知ってるよ。おいらのメシ、お前たちのより上等だったんだろ?」

 それを聞いたケインは、ふっと笑った。

「貴様を仲間にして、正解だったな」

 ハジメが、右手をケインの前に差し出したケインは、力強くそれを握った。


 二隻の潜水艦は、初めて出会った岩場に来ていた。

「どーして、ここに戻ってくるんだっ!」

「だってさー、おいらが知っている場所ってここしか無いんだもん」

 ハジメはそれだけ言うと、出入り口を開けた。

「さ、行くぞ」

「行くって、どこへ?」

 ケインの質問に何も答えずに、ハジメはゼロマルから飛び降りて岩場に降りた。

「ケインも来いよ」

 ケインの方を振り返ったハジメは、手を振ってケインを誘った。

「だから、どこに行くんだ?」

 ケインもゼロマルから飛び降りると、扉が自動的に閉まった。

「親方のところ」

「親方? 誰だ、そいつ?」

 何も判らなかったが、ケインはハジメの後について行った。


 ケインを引き連れて、ハジメは屑鉄屋の前に来た。

「親方、いるかい?」

 そう言ってハジメがドアを開けると、ボルトが飛んで来た。慌ててハジメがしゃがむと、ボルトはケインに命中した。

「うわっ」

 顔面にボルトが当たったケインは、鼻血を出して倒れてしまった。

「ハジメっ! 一週間も何をしていたっ!」

 ボルトを投げた親方が、ハジメに向かって怒鳴った。すごい剣幕の親方に、ハジメは尻込みした。

「い、いやあ……。話せば長くなるんだけどね」

 頭をかきながら、ハジメは答えた。その後ろで、顔を押さえたケインが起き上がった。

「いててて」

「ん? 何じゃお主は?」

 ケインがノヴァの軍服を来ていることに、親方は気が付いた。

「お主、新星共和国の軍人か? ハジメ、お主の格好も新星海軍じゃないか? 一体、どうゆうことじ?」

「これから、全部教えるよ。実はさ……」

 何か言おうとしたハジメの腹が、突然鳴り出した。ハジメは、今日はお昼抜きだったのを思い出した。

「ふぉっふぉっふぉ。どうやら、腹が減っとるようじゃな。中に入れ、夕飯にするぞ」

 親方は、二人を小屋の中に入れた。


 夕飯は、どんぶりメシに少々のおかずといった粗末な物だったが、メシの量はたっぷりとあったのでハジメもケインも満足した。

 新生大陸の国々は文化交流が盛んで、ケインみたいなノヴァの人間でも、はしを使った食事は初めてではなかった。

 ケインとハジメは、メシを食べながら今ままでの出来事を話した。

「何と、古代文明の潜水艦とな」

「信じられないかもしれないけど、本当なんだぜ」

 ハジメは、からになったどんぶりを、くたびれて傾いているテーブルの上に置いた。

「ゼロマルは今、岩場にいるから親方も見てみなよ」

「そうしてみるかのう」

 事情を全部話すと、ハジメは大事なことを思い出した。

「そういや、ミーコウはどうしてる?」

 ミーコウのことを聞かれて、親方は鼻を鳴らした。

「ふんっ。あいつなら、お主がいなくなってから全然来とらんぞ。あいつを泣かせたのは、お主じゃろうが」

 あの気の強いミーコウが、泣いていた。あっと驚く新事実を聞かされたハジメは、ぽかんと口を開けた。

「おいら、何かしたっけ?」

「その全然気付かない鈍さが、ミーコウを傷つけたんだろう」

 ケインの指摘に、ハジメはぎくりとした。

「確かに、おいらはミーコウの気持ちなんて何にも考えていなかった……」

 ハジメは、ミーコウにすまないと思った。

「今ミーコウが何しているか、わしは知らん。こんな場所では、山の手のことは全く判らんのじゃ」

「ミーコウに会って謝りたいけど、今は駄目だ。きっと、いつかミーコウの前で謝るぞ」

 ハジメは、自分自身に誓いを立てた。そして、親方に向き直った。

「親方。ケインの潜水艦が壊れているんだけど、みてくれないか?」

 ハジメの言葉に、ケインが驚いた。

「ハジメ! そんなこと、出来るわけないだろうっ!」

「大丈夫だって。親方に直せない機械は、無いんだから」

 胸を張って、ハジメはこたえた。

「古代文明の潜水艦は、ノヴァ海軍でも修理が難しいんだぞ。どうして、そこいらの屑鉄屋に直せると思うんだ?」

 ハジメは、ケインの前に親指を立てた拳を突きつけた。

「大丈夫だって。親方には、直せない機械は無いんだぞ」

 ハジメの自信は、根拠がないようにケインには見えた。


 親方を連れて、ハジメはアイアンホエールの前にやって来た。

「ケイン、出入り口を開けてくれ」

 ハジメに言われたケインは、渋々と出入り口を開けた。

「本当に、直せるのか?」

 出入り口まで登ったケインは、腕を伸ばして親方の手を握って持ち上げた。

「よっこらせ」

 アイアンホエールに登った親方は、工具箱から懐中電灯を取り出すと、船内に入っていった。

「何じゃ、船内灯もなおせんのか」

「この明かりは、電球とは違うんだ。簡単に言わないでくれ」

 ケインの言葉を聞いているのか、親方は壁や天井を小突きまわった。

「どうやら、ここのようじゃな」

 そう言うと、親方は工具箱からドライバーを取り出した。ドライバーを壁に突き立てると、親方は壁をこじ開けた。

「おい、やめるんだ」

 ケインが親方の肩に手をかけると、親方はケインの手をドライバーで突いた。

「いてっ!」

 ケインは、手を押さえて飛び上がった。

「騒ぐでない。ほら、これで終わりじゃ」

 親方の言葉と同時に、船内が明るくなった。

「そ、そんな馬鹿な」

 ケインは、信じられなかった。

「貴様、一体何者なんだ?」

「ふぉっふぉっふぉ。わしはただの屑鉄屋じゃよ」

 親方は、それしか答えなかった。


 三人は、アイアンホエールの修理を朝になっても続けていた。

「ケイン、これで完成じゃ。ちょっと動かしてみなさい」

 親方の言葉を聞いて、ケインはアイアンホエールに命令した。すると、アイアンホエールの船内スクリーンに白黒映像が映った。

「やった!」

 無事に直ったスクリーンを見たケインは、潜望鏡のグリップをつかんだ。

「ハジメ、ゼロマルに行ってくれ」

 ゼロマルに移ったハジメがスクリーンを見ると、ケインが映っていた。

「ケイン、通信機も直ったよ」

 機能が完全に回復したのを確認したケインは、親方と握手した。

「本当に、有り難う御座います」

「なんの。こんな珍しい物をいじれて、わしも感謝しとるんじゃ」

 親方は、ケインの肩を景気良く叩いた。

「さあ、朝飯の時間じゃ。小屋に帰るぞ」

 画面の向こうのハジメが、手を振っていた。


 昨日の夕飯と大して変わらない朝食を取ると、三人は眠くなった。

「わしはここで寝るから、お主らもどこか適当な所で寝なさい」

 そう言うと、親方はテーブルで突っ伏した。

「おいら、寝室に行くよ。ケインも来ないか」

 屋根裏に続くはしごを、ケインはハジメに続いて上っていった。

「ここの寝室も、秋津風なのかい?」

「布団は使ってないよ。固いけどちゃんとベッドがあるから」

 ケインがはしごから首を伸ばして寝室を覗くと、確かにベッドが一つあった。

「これ、親方のベッドなんだ」

 ベッドのシーツをハジメはめくった。

「おいらは右半分使うから、ケインは左半分を使いなよ」

「ええっ?」

 ケインは、びっくりしてはしごから落ちてしまった。上からあきれた顔のハジメが、大の字で倒れたケインを見下ろしている。

「何やってるんだよ」

「ぼ、僕はここで寝るから、ベッドはハジメが使いなよ」

「そうかい? じゃあお休み、ケイン」

 ハジメは、天井裏の扉を閉めた。

「あー、びっくりした。ハジメって何考えてるんだろう」

 どうやらハジメは、自分が女の子だとゆう自覚が弱いらしい。シャワーの時みたいに、普段から無神経みたいだ。そんなことを考えているうちに、ケインは床の上で寝てしまった。


 昼前になって、三人は目覚めた。

「ハジメ、やはり行くのかね」

 親方の問いかけに、ハジメはうなずいた。

「おいらは、隊長たちを助けに行くよ」

「そうか、止めはすまい。これを持っていけ」

 親方は、ハジメに工具箱を渡した。

「こんな大事な物……」

「いいんじゃよ。きっとこれが必要になる時が来る。船内に置いておくのじゃ」

 ハジメは工具箱を抱えると、親方におじぎをした。

「おいら絶対帰ってくるから、ミーコウが来たらすまなかったって伝えてくれ」

 それだけ言うと、ハジメはゼロマルまで駆けて行った。

 ゼロマルに登場したハジメは、工具箱に愛読しているキャプテン・サンダーをしまいこむと、椅子の上に乗せた。

「行くよ、ケイン」

「こっちも準備はいいぞ」

 アイアンホエールには、一週間分の水と食料が詰め込まれた。

「ゼロマル、発進っ!」

 二隻の潜水艦は、沖に向かって進み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ