序章 ハジメの知らない事件
この世界の人々は、この星にかつて高度に進んだ文明が存在していたとゆう事実を、気にも止めないでいた。
人類は、今の自分達の文明を発展させることに気を取られていたのだ。
そう、ほんの三十年前までは。
月の無い漆黒の夜空を、飛行船は飛んでいた。その飛行船は旅客船ではないらしく、下部についているのは大きなコンテナだった。
全長何十メートルもあるその巨体は、黒い色に塗られて、夜空に溶けこもうとしているかのようだった。
そして、飛行船の周囲を取り囲むように、戦闘機が編隊を組んでいた。戦闘機は全てプロペラ機で、しかも木製の複葉機だった。
飛行船を護衛していた十四機の戦闘機の中の一機が、突然爆発した。他の戦闘機達の動きが、敵襲によって慌ただしくなる。
更に一機、戦闘機が爆発した。
ここで、やっと残りの戦闘機は敵を発見することが出来た。
敵の正体は、ジェット戦闘機だった。
「畜生! ツヴァイバッハの連中だな!」
ジェット戦闘機を見たパイロットの一人が叫んだ。
残り十二機の味方に対して、敵はたったの三機だった。しかし、戦闘機の性能差は歴然だ。プロペラ機は次々と撃墜され、僅か数分で残り数機になってしまった。
ジェット戦闘機は、続いて飛行船にも攻撃を加えようとした。そうはさせじと、プロペラ機が一機立ちはだかった。
「こいつを、貴様らに渡すわけにはいかないんだ!」
ジェット機のバルカン砲は、目の前のプロペラ機を、簡単に破壊してしまった。
誰も予期していないアクシデントが起きたのは、その時だった。
複葉機の翼は、時代遅れの布張りで出来ていた。その翼の布が、ジェット戦闘機の翼にまとわりついたのだ。
不意の出来事でコントロールを失ったジェット機は、仲間のジェット機に衝突してしまった。二機のジェット機は、一つの火の玉となって墜落していった。
残った一機のジェット機は、仲間を失ったことにより、飛行船を拿捕する事を諦めるしかなかった。手に入らないなら、破壊するしかない。ジェット機は、飛行船に向かってバルカン砲を撃ちまくった。
ジェット機の銃弾が、飛行船のエンジンに命中した。爆発したエンジンの炎が、飛行船を包みこんだ。
飛行船は、炎上して落下した。ジェット機は、飛行船の撃墜を確認すると、プロペラ機が追えない程のスピードで飛び去ってしまった。